第100話【密かなる願い-火燈鳳鞠Side-】
「…藤鷹君。お肉もいいけど、バランスよく野菜も摂らないと駄目だよ?野菜も栄養が沢山入っているんだから。良かったら僕のサラダ食べて。」
栄養バランスが余程心配なのか、夜空は食べていたサラダを小皿にひょいひょいと乗せ始め、それを華弦の元にそっと差し出した。
「ありがとう、よぞらん♪野菜は嫌いじゃないし、美味しく頂くとするよ。よぞらんこそ野菜しか食べてないけど大丈夫なの?僕もステーキ少し分けてあげようか?それとも何か頼む?」
華弦はサラダが乗った小皿を受け取ると、新たな小皿を手に取ろうとする。
その言葉に、夜空は首を横に振った。
「ううん、大丈夫だよ。僕はモデルの仕事があるから体型維持する為にもなるべく食事には気を配らないといけないんだ。」
「大変だねぇ〜…食事を制限しすぎて無理してるんじゃないかい?」
夜空の顔をじっと見つめながら、華弦はサラダをパクリと口に入れる。
「無理はしてないよ。お肉やお魚もちゃんと食べてるし、友達とファーストフードのお店にも行ったりするよ。」
彼の笑顔はいつも周囲の空気を和ませてくれる。
「へぇ、意外〜。」
「…あのさ、華弦。話が変わるんだけど…今、羽闇が舞久蕗の家にいるのは本当なの?」
一旦箸を置いた俺は、スープで濡れた口元を拭いながら華弦に尋ねた。
「本当だよ♪昨日一葉君に呼び出されて、彼から直接聞いたからね。羽闇ちゃんがデートに向かったのは紛れもなく彼の家さ。」
「そっかぁ。舞久蕗に『何かあれば宜しく』って頼まれたとも言ってたよね?それはどういう意味?」
「アハハッ、単純明快さ。『もし今回のデートでまたしても敵が襲撃してきた場合、僕達に羽闇ちゃんの守護を頼みたい』という一葉君からのお願いだよ。」
「ええっ!?じゃあ俺達が此処にいるのは羽闇の護衛に向かう為!?」
驚きのあまり、俺は思わず大声を出してしまった。店内のお客さんがチラリと此方を見る気配を感じる。
「シーッ!ほまりん、静かに。これは候補達だけの秘密事項なんだよ。」
「わわっ、ごめん…!」
そうだった…!デートの介入となり得る行為は月光家から一切禁止されている。だからこそ俺達は怪しまれないよう、わざわざ時間をずらしてまで月光邸を出てきたのだ。大旦那様や壱月、他の使用人達にも今日の本当の予定を告げていない。
バレてしまったら三人纏めて、即座に羽闇の婚約者候補から外されてしまうだろう。
「てっきり遊び半分でデートを覗き見するのかと…!でも、どうして月光邸の皆には内緒だったの?事情を話せば月光家なら分かってくれるかもしれないのに…舞久蕗から許可も下りてるなら問題ないじゃん。」
「…一葉君が『試してみたい事がある』ってさ、詳しくは教えてくれなかった。それに…もし月光家に事情を話したところで許してくれる筈がないのは分かりきってる。何せ、危険な状況でもデートの続行を望んでるんだからね?」
「…それもそっか。にしても、俺達は万が一に備えて待機してるってのに海紀だけいないのが納得出来ない!『忙しいから無理だ』なんて言うんだよ!?酷くないっ!?アイツ、マジで婚約者候補の自覚あんのかな!?」
俺はテーブルを軽く叩きながら不満をぶつけた。
こんな肝心な時に、アイツは一体何をしているんだ!?
華弦は苦笑を浮かべながら、呆れた様子の俺を宥めようとする。
「まあまあ…落ち着きなよ、ほまりん♪みこ君はみこ君で何か考えでもあるんじゃない?」
「そうだね。ああ見えて碓氷君は真面目だから、羽闇ちゃんの為に見えないところで頑張ってくれているのかもしれないよ。」
夜空も海紀を擁護するように言うが、俺は「うーん…」と唸った。
アイツが羽闇の為に何かする姿を全く想像出来ないからだ。正直、海紀は彼女の事を微妙に避けている気がしてならないんだよなぁ…。
きっと部屋に籠もって、音楽に没頭しているに決まってる。
「みこ君の件はひとまず置いておくとして…僕達は羽闇ちゃんを守る事だけに集中した方がいいかもしれないよ。」
「あ!てかさ、羽闇は俺達が待機してるのを知らないんだよね?もし敵が襲撃にきたとして、どうやって羽闇と合流するの?舞久蕗の家ってかなり強い結界が張ってあるらしいし、敵が破りでもしない限り俺達まで入れないんじゃないの?それに、本家ともなると広すぎて羽闇を見つけるのも困難かも…!」
「そこは心配ご無用さ。結界は一葉家に対して敵意がなければ特に影響はないし、秘密兵器を用意しといたから羽闇ちゃんとはすぐに合流出来る♪」
「秘密兵器?」
「羽闇ちゃんにつけてあげた手作りの香水♪今日この日の為に一生懸命作っておいたのさ、間に合うか焦ったけどね。」
「んーと…あっ!最近、華弦が部屋に閉じ籠って作っていたやつか!」
俺は、華弦が念入りに作っていた香水の存在を思い出した。そういえば…羽闇を抱きしめた時にフワリと甘く、神秘的な香りが漂っていた。
「で、それがどうしたの?」
「実はアレにちょっとした小細工を仕掛けていてね。華の力をほんの少しだけ込めてみた…いわばマーキング用の香水さ。僕の持つ華の石が、その力の痕跡を辿って羽闇ちゃんの居場所を教えてくれる筈さ。香水を完全に洗い流されちゃったら流石に無理だけどね。」
「へー!華の力ってそんな使い方も出来るのか!ストーカーみたいだけど、すっげー!」
「……最後の一言が余計だよ、ほまりん。」
「じゃあ俺達は大人しく、舞久蕗からの連絡を待つって事か!」
パチンと指を鳴らして答えると、華弦はにっこり笑った。
「正解…というわけで、いざという時の為にもしっかり食べなよ!付き合ってくれたお礼として今日は僕の奢りさ。食べたいものがあるならどんどん注文していいよ♪」
「わーい!華弦、マジ太っ腹ー!これ食べたら次は大盛りカレーいくぞ!デザートは勿論パフェで!」
大盛りラーメンはまだ半分程残っている。
コーラを一気に飲み干し、再びラーメンへと向き直った俺は残りの麺とスープを口に運んだ。




