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遅れてきたレベル4

 後に賢人超会議を襲った青い鬼魔族と巨人ゴーレムの暴走は、あくまでイベントの一つということで処理されることとなる。


 あの戦いの最大の功労者は、表向きは赤毛の黒魔導士少女――ステラということになっていた。


 “全てを知った上”で、ステラ宛てに教皇庁から教皇ハグ&キス付き教皇庁見学チケットと、海岸で行われていた魔法大会の優勝賞品である、温泉旅行宿泊券が贈呈された。


 ちなみに、教皇チケットには彼女のキスマークがつけられている。ステラはこれを魔王城の地下深くに封印した。使う=最終決戦になりかねない代物だ。


 さて、そうなる少し前となる教会に戻ってすぐの事――


 長椅子に座ってニーナに膝枕をしながら、ベリアルが幼女の髪を優しく撫でている。寝息をたてるニーナを起こさないよう、静かな口振りでうす褐色の美女は俺ではなく、ステラにそっと頭を下げた。


「お帰りなさいませ魔王様」


 ステラはVサインで返した。と、不意に赤毛の魔王が俺の顔を見上げて、ぽつりと呟く。


「ん? あれ? セイクリッドちょっと訊いてよ」


「どうしたんですか藪から棒に」


「あたしのレベル上がったんだけど。えっと、レベル4? みたいな」


 ステラは瞳を輝かせてVサインに指を二本足した。


「はぁ……自爆でも倒したと判定されたのでしょうか。距離が離れていたのでタイムラグがあったのかもしれませんね」


 ということは、ラクシャ撃破はされたのだろう。玉座がどうなったか、確認の必要がありそうだな。


「ふっふっふー。これで勝ったも同然ね。さあ勝負よセイクリッド」


「旅行から帰ったばかりだというのに、ステラさんは本当にお元気ですね。その元気が尽きる前に、ついでにモスト湖にでも行ってみませんか?」


「なんだかわからないけれど、そこで決戦ね!」


 興奮のあまりステラの声は大きくなって、ベリアルから「お静かに願います」とステラはお叱りを受ける。部下に叱られて反省するあたり、レベルが上がってもステラはステラのままだった。


 彼女が背負った赤い鞄から、ぴーちゃんの水晶を取り出す。


 水晶から光が投影されて、メイド服姿のぴーちゃんが聖堂の講壇の上にちょこんと立った。


 俺の代役を務めていたマーク2に、スカートの裾をつまみ上げるようにしてミニぴーちゃんがお辞儀をする。


「無事に戻ってきてしまいましたわ」


 それ以上は何も言わず、案山子のマーク2も数回発光と点滅を繰り返しただけだった。


 どことなく安心したようなミニぴーちゃんの柔和な表情に、会話の内容を確認する必要は無さそうだった。


 俺はミニぴーちゃんに問いかける。


「さて、今後も教会の仕事を補佐していただけますか、ぴーちゃんさん?」


「それではマーク2様のお仕事を奪ってしまいますわ」


 ぴーちゃんの視線が、ベリアルの膝枕でスヤスヤと寝息を立てるニーナに向いた。


「もしステラ様の許可をいただけるなら、ニーナ様にお仕えしたいのですけれど」


 ぴーちゃんも赤い鞄も開発部――ひいては教皇庁の生み出したものだ。


「いいわよ! ニーナもきっと喜ぶんじゃないかしら?」


 ベリアルが「ステラ様、それは……」と、何か言いたげだが、魔王はぴーちゃんをすっかり信頼したようだ。


 騒がしさに長椅子で横になっていたニーナが、ぱちりとエメラルドグリーンの瞳を見開いた。


「ほぇ……セイおにーちゃ? お帰りなさいなのです」


 身体を起こしてニーナが眠そうに目をこすると、講壇を見上げた。そこには鞄の水晶から投影された、小さなぴーちゃんがちょこんと立っている。


「あああああああああああ! ぴーちゃんがちっちゃくなっちゃったああああ!」


「おはようございますニーナ様。わたくし、色々あってニーナ様の妹らしく、ニーナ様より小さくなってしまいましたの」


「そっかぁ……ぴーちゃんも大変なんだねぇ」


 寝ぼけているのかピュアなのか、ニーナは素直に状況を受け入れた。


 あとで「ぴーちゃんは仕事で遠くにいて、鞄を通じてお話している」というような、幼女を心配させない設定作りが必要になりそうだ。


 一番良いのは、ぴーちゃんの新しいボディをどこかで調達することなのだが、しばらくは鞄の中の人としてがんばってもらうとしよう。


 俺はゆっくり呼吸を整えるとステラに告げる。


「では、早速ですがもう少しだけ、お付き合い願えますか?」


 魔王が尻尾をビクンと震えさせた。


「お、おおおお付き合いって!? 雌雄を決するんじゃないわけ?」


「どうしても貴方が必要なのです」


 顔を耳まで真っ赤に染めて少女が声を震えさせる。


「そ、そそそ、それってあたしが……欲しいってこと?」


「ええ、そうですね」


 途端にベリアルがガタッと音を立てて、長椅子から立ち上がった。肩を怒らせ風を切るようにして、ずずいと詰め寄ってくる。


「き~さ~ま~!」


 ステラが俺の腕を抱くようにぎゅっと掴まってきた。


「きゃーー! 早くあたしをさらって! ほら! 史上初の魔王誘拐犯になるなら、今でしょ!」


 まれに見る凶悪犯罪だが、果たして前科がつくのか気になるところだ。


 ニーナが自分のほっぺたを両手で包むようにした。


「ステラおねーちゃが、セイおにーちゃと……ニーナも行きたいけど、二人っきりにしてあげるのです」


 講壇の上でミニぴーちゃんが「さすがニーナ様。妹の鑑ですわね。勉強になりますわ」と、にっこり微笑んだ。


 ベリアルの腕がステラに伸びる。ぎゅっと掴まれるその前に……


「すぐに戻りますから、ご心配なく」


 俺はステラだけを連れて、転移魔法でモスト湖へと飛んだ。

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