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ベド戦記

 客室に戻って俺が事情を説明すると、さっそくステラが挙手をした。


「はーい! じゃあじゃあ、セイクリッドはあたしのベッドを半分使ってもいいとおもいまーす! というか、温情ってやつね。独りだけ冷たい床でむくろになるなら、我が腕の中で息絶え深き永遠の闇の底で、二度と目覚めぬ眠りに落ちるがいいわ!」


 左手で片方の瞳を隠すようにして、ステラはクックックと笑う。


 すぐさまぴーちゃんが反応した。


「大変物騒ですわね。まるで魔王のようでしてよ」


 瞬間冷凍されたように、ステラの表情がこわばった。そういえば、ぴーちゃんはステラの正体を知っているものの、ステラはバレていないと思ったままだ。


「べ、別に魔王とかじゃないわよ! あたしはごく普通の黒魔導士だから」


 慌てるステラからシスターゴーレムは俺に視線をよこした。


「ご主人様、ここはわたくしのベッドをお使いくださって結構でしてよ。本日まで調整槽にてメンテナンスをしてきましたもの。24時間、立ちっぱなしの監視任務くらい朝飯前ですわ。ですからベッドはお一人で使ってくださって……ただ、寂しいと一言仰っていただければ、添い寝機能を駆使して安眠に導いてさしあげてもかまいませんけれど」


 続けてニーナまで手を上げた。


「ニーナはちっちゃいから、おにーちゃはとっても大きいので、ニーナのベッドで一緒がいいのです。大きさの問題だから」


 ベッドにおける二人、それぞれの占有面積を考えた場合、ニーナの発案は実に合理的と言えた。


 ベリアルが俺に詰め寄る。


「待て待てきさま、まさかステラ様やニーナ様と一緒などと思ってはおるまいな?」


 ぴーちゃんが「ですから、わたくしがおりましてよ」と、自身の胸に手を当ててぐいっと張ってみせた。


 同じ仕草でベリアルが返す。


「きさまもゴーレムだかなんだか知らぬが、一人立ったまま置物のようにされては、こちらが気を遣ってくつろげないのだ」


 その意見には一理ある。俺はうんうんと、二度首を縦に振った。


「ベリアルさんのおっしゃる通りです。ぴーちゃんさんは、私と食卓を囲むようになってくださったのですし、人の営みに寄り添うようにしていただけませんか?」


 ぴーちゃんは小さく息を吐いた。


「そのような言い方をして、人間らしく行動させるという“てい”で、わたくしの添い寝機能を自然な流れで利用しようというのですねご主人様?」


「いいえ、ベッドの一つはぴーちゃんさんがお一人で活用してください」


 ベリアルの額に汗が浮かぶ。


「で、ではきさまはどうするのだ? いいか、返答次第では今日が世界を巻き込む戦乱の一日目になりかねんぞ」


「脅かさないでください。ステラさんやニーナさんにもご迷惑はおかけしません」


 ステラが自分のベッドにお尻をどさっと落として、足をバタバタさせた。マットレスはふかふかで寝心地は良さそうだ。


「べ、別に迷惑とか思ってないわよ」


 そんなステラの隣に、ニーナがちょこんと座って、お尻でボインボインとマットレスの弾力を楽しみながら言う。


「ニーナも迷惑じゃないからぁ」


 魔王と妹君に女騎士は首を左右に振った。


「いけませんお二人とも……くっ……セイクリッドよ! きさまがどうしてもというのであれば、こ、このわたしのベッドの半分をくれてや……」


 ノックもせずに、突然部屋の扉が開いた。


「あ! いたいた! へー! 広くて良い部屋じゃん」


「おつかれさまであります!」


 勇者アコと神官見習いカノンが、どうやって探り当てたのか俺たちの部屋に押し入ってきた。施錠はこまめにしておくべきだな、うん。


 だが渡りに船である。ベリアルが世界の半分を俺に割譲する前に、事態は収拾できそうだ。


「ちょうどよかったお二人とも。そちらに空きのベッドがあるでしょう。よろしければ、私をお二人の部屋に泊めていただけませんか?」


 瞬間――カノンが耳の先まで真っ赤になった。


「そ、それは……い、いけないであります! 先輩と後輩の禁断のアレがアレしてアレするでありますから!」


 頭から湯気を上げるカノンを見て、アコがやれやれ顔だ。


「それじゃあ意味が通じないよカノン。あの、ごめんねセイクリッド。ボクらは二人部屋で予約をとっちゃったから、ベッドは余ってないんだ。部屋は同じフロアの通路をずっといった先だから、近いっちゃ近いんだけどね」


 ぴーちゃんがアコを見据えた。


「わたくしたちがこの部屋にいると、どうしておわかりになったのかしら?」


 黒髪の少女は指でVサインを作る。


「片っ端から開けて回ったからね」


 常識って……何かね。


 どこかで無くした大切なものを置き去りにして、勇者は大人の階段を駆け上る。


 このままでは、他人の部屋の家探しを家主のいる前でし始めるのも、時間の問題だ。


 しかし、となるとアコとカノンの部屋も使えないか。


「仕方ありません。夜間、私は教会に転移魔法で戻って、あちらで過ごしましょう」


 ボインボインと姉妹でベッドの上でお尻をハネさせていたのだが、ステラがスタッと立ち上がった。


「だ、だめよ! 今夜はパジャマパーティーでしょ!」


 ニーナが目を潤ませる。


「おにーちゃだけ、帰っちゃうの?」


 ぴーちゃんとベリアルが声を揃えた。


「「それは護衛の観点から……あっ」」


 期せずして女騎士とシスターは、俺が不在になることによる安全保障上の問題について、同じタイミングで口にしてしまったようだ。


 ベリアルとぴーちゃんが視線を交錯させる。


「きさま、わたしと同じ考えか」


「意外なところで意見が合いますわね」


 俺がマリクハで……厳密に言えば、この部屋で一泊するのは避けられそうにない。


「わかりました。一旦、教会に戻らせてください。寝袋をとってきます。私は床で結構ですので、みなさんでベッドを使ってください」


 床といっても敷物も敷かれている。野宿よりはよっぽど良い。


 するとニーナが俺のそばまでやってきて、両手を万歳させた。


「おにーちゃもベッドでだいじょぶなのです」


 すぐにベリアルの厳しい視線が俺に注がれる。


「ええと……私とニーナさんが一緒というのはいけないそうでして」


 ニーナは首をぷるぷるっと左右に振った。


「ニーナね、今夜はステラおねーちゃと同じベッドがいいなぁって思うから」


 これにステラとベリアルが瞳をまん丸く見開いた。


「そ、その手があったわね」


「ニーナ様……なんと聡明な」


 二人とも驚き過ぎだろうに。とはいえ、言われてみればそうである。


 カノンが顔を赤くしたまま吼えた。


「い、いったい何の相談でありますか! ベッドが足りないなら、セイクリッド殿には自分のベッドを使っていただいて、じ、自分はそのベッドの下の隙間で充分でありますから!」


 マリクハ都市伝説。ベッドの下に潜む眼鏡少女の怪異。


 俺は軽くカノンの額にデコピンを打ち込んだ。


「はうあ! 痛いであります」


「正気に戻ってください。ベッド問題はニーナさん案で決定しました」


 アコが部屋の奥のテラスに続く扉を開ける。


 陽光を反射して海がキラキラと輝き、潮風にのせてさざ波の音が静かに流れる。


「うわああ! やっぱ大部屋の方が色々充実してるね。パジャマパーティーならボクらもお邪魔させてもらっていいかなステラさん?」


 言い出しっぺの魔王様は「べ、別にいいけど」と、どこかすっきりしない表情ながら、アコの申し出にOKを出す。


「じゃあじゃあ今からパンフレットの確認しようよ」


 賢人超会議の出し物やスケジュールのまとまった小冊子をアコが取り出した。俺も人数分用意しておいた“旅のしおり”を人数分配布する。


 それから夕食の時間まで、俺たちはそれぞれ興味のある出し物についてアレコレ意見を出し合い、見学ルート作りをすることになった。


 このまま無事、終わればいいのだが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「片っ端から開けて回ったからね」 ↑ 勇者だからしょうがないよね しかし、今思うとドラク○の勇者ってとんでもないなぁ 家探しは勿論、城の宝箱まで開けて パクってたからなぁ…
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