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大神樹管理局:設備開発部便り ~付録つき特別号~

『この度はおめでとうございます。世界各地の数ある祈りの場の中から、貴方の教会が本キャンペーンに当選いたしました。人手不足をおなげきの司祭様のお力になれますよう、開発部の総力を結集して作り上げた試作品となります。つきましては使用感など感想をお寄せいただけますと幸いです。大神樹管理局:設備開発部一同より』




「一度死んでみてくれませんかね開発部の皆さん」


 大神官でも助走をつけてフルスイング案件の迷惑さである。


 黒曜石色の巨大な棺が大神樹の芽を通じて、聖堂の赤絨毯の上にドンと置かれたのは今朝未明のことだ。


 神樹の芽に残されたメッセージを確認すると、俺は聖堂の魔力灯を点けて送られてきた物体を確認する。


「棺桶ですかね」


 先日、ピッグミーとの戦いのために借り受けたヒンヤリ棺桶は、魔王級の爆発魔法によって海賊船もろとも砕け散った。


 あのあと「耐久性に難あり」と、きちんと報告をしたというのに、いったい何の文句があって新型棺桶を送り込んできたのだろう。


 しかし――


「取っ手も留め金もないようですが、これはいったい……」


 黒い石材の一枚板でできた蓋の部分には、教会のシンボルである十字の印が刻まれていた。


 表面は磨き上げられて鏡のようだ。


 軽く蓋をノックしてみると、カツカツと高密度な音が返ってきた。


 防御力を極限まで高めた棺桶とでもいうのだろうか。


 結論、邪魔である。あとでベリアルに頼んで運び出しの手伝いをしてもらおう。


「こんなに硬い座り心地では椅子にもなりませんよまったく」


 棺の上に腰掛けて俺は溜息をつく。きっと光の神もまだ眠っているだろう。


 バチなどあたるまいと思ったところで、突然棺の蓋がスライドした。


 隙間から真っ白な煙が吹き出す。罠か?


「解毒魔法」


 自身に毒の治療魔法を掛けながら、俺は飛び退くと光の撲殺剣を抜き払い身構える。


 が、煙自体に毒性や麻痺の効果は無いようだった。


 白い闇が聖堂に満ちて濃霧のような視界の悪さである。


 棺から薄ぼんやりと青い光が漏れた。




 蓋は完全に開かれ、棺桶の縁に指がかかる。


 “何か”が目覚めてゆっくりと上半身を起こした。


 女性の声が聖堂に響く。


 淡々と、静かに、氷のように。




「休眠モード解除。再起動シークエンス開始。パラメーターチェックオールグリーン。魔導炉の稼働率66.7%。各部アクチュエーターおよび伝達系に異常なし。視界不良。視覚センサーをキャリブレーション。周辺状況確認のため探査振動波発射」


 棺を中心に魔法力が走る。まるで水面に小石を投げ入れたように、魔法力の波は広がっていった。


「建築物内部と確認。生命体反応。照合。ご主人様マスターと断定。脚部アクチュエーターに動力伝達。会話モジュール起動」


 ゆっくりと白煙が空気に溶けて消え、棺の中で人影が立ち上がった。


 大ぶりなエプロンドレスに身を包み、白いレースのカチューシャをつけたメイドだった。


 もりあがった胸を隠すように黒い大きなタイをしている。


 スカートは黒地の膝上丈で、白いニーソックスの切れ間に肌が垣間見えた。侵すべからずという絶対的な領域だ。


 メイドは棺から出ると俺の目の前に立つ。


 ルルーナがああみえて表情豊かだったと思えるほど、このメイドの瞳はまるで灰色のガラス玉でもはめ込んだような無機質さだった。


 呼吸さえしていないのではないだろうか。


 見た目こそ人間の少女だが、生きている気配が感じられない。


 髪は亜麻色で長いものを編んでシニヨンにしていた。


 美人には違いない。鼻は高くスッと通り、目はやや釣り気味だ。柔和さは感じられず、まるで水晶で作った彫像のようなたたずまいをしている。


 唇は薄い桜色なものの、体温で色づいているのではなくうっすらと化粧をほどこしたような色合いだ。


 年の頃ならステラとベリアルのちょうど間くらいか。


 メイドはそっと片足を後ろにまわして両手でスカートの裾をそっと持ち上げながら、深々と俺に一礼する。


「PDシリーズ試作6号機と申しますの。この度、ご主人様の身の回りのお世話をさせていただくこととなりましたわ」


「試作6号機というのは、ずいぶんと個性的なお名前ですね」


 頭を下げたままメイドは続ける。


「わたくしは開発部が僻地や南の氷の大陸など、極限環境下に赴任した司祭のサポートを目的に作られた人造物でしてよ。記憶水晶の発展系として製造されましたわ。より親しみやすく人間の住環境に適応するために、それを模した形状となっておりますの」


 声に抑揚こそないが喋りは流暢だった。参考にした人物の口調のせいだろう。どことなく令嬢風である。


 仕えるべき立場のメイドがこの喋りで良いのだろうか。


 メイド少女は頭を上げて姿勢を正す。背筋に一本芯が通ったような立ち姿は美しい。


「どうぞ6号とお呼びくださいませご主人様」


「6号さん……ですか。申し訳ありませんが、貴方の助けは必要ありません。私は自分の面倒くらいはみることが可能です」


「わたくしの処理能力にご不満があると? 使っていただければきっとご満足いただけますわ」


 誤解を招きそうな言い方だ。


「いえ、不満などありませんよ。きっと貴方は優秀な方なのでしょうね」


「当然でしてよ。どのような難局にも耐え抜くことが可能と自負しておりますわ、ご主人様」


「そうですか。では優秀で難局に強い6号さんに、一つだけ質問をしてもよろしいですか?」


「なんなりと」


「貴方の返品ボタンはどこにあるのでしょう?」


 少女が時間でも止めたように、ぴたりと静止した。


「検索中……残念ながらそのような機能は搭載されておりませんわね。このまま試用の継続をおすすめいたしましてよ」


 ああ、これはもう嫌がらせに他ならない。開発部はどうやら俺にやんわりと宣戦布告したようだ。


 頭を抱える俺に6号は「頭痛でしたら撫でて差し上げましょう。痛いの痛いのとんでいけですわ」と、俺の頭をなでなでした。


 人の柔らかな表皮の感触を再現しながらも、メイドの手は冷たかった。


「わたくし自身に心は存在しませんが、人間の痛みを理解しようとする機能を有していますの」


「理解できると言い切らないところがとても謙虚ですね」


「ええ、わたくしはご主人様のパーソナルディレクター。PDシリーズ試作6号機ですもの」


 不意に大神樹の芽が光を帯びた。




『追伸、試用期限は無期限です。好きなだけご使用ください。開発部より』




 いつか教皇庁に戻って出世をしたら開発部を解体しようそうしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 難局6号さんという解釈でよろしいのでしょうか
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