幸福の世界線
わたしには姉がたくさんいます。
歌と踊りを教えてくれたり、タロットカードの読み方を教えてくれたり、王国の歴史や政治の話をしてくれたり、正しい大神官になる方法について語ってくれたり。
それからそれから、メイドさんの学校でお作法を教えてくれたりもします。
一緒に行く冒険も残しておいてくれました。
カジノはまだ、早いみたいです。いつかチャレンジしたいなって思います。
神官のお仕事のお手伝いもいっぱいしました。
クッキーを焼くのも大好きです。
夏にはみんなで海に行ったりもしました。毎年冬の聖夜祭の時期になると、小さな教会に集まってパーティーを催します。
たくさんお客さんが来るから、毎年大忙し。
だからおもてなしをがんばりました。
いろいろなことを姉たちから学びました。
男の子と仲良くする方法だけは、教えてもらえませんでしたけど。
わたしが王都の寄宿学校に入る時は、姉同士でケンカになったりもしたけれど、同年代のお友達がたくさんいた方がいいと説得してくれたのは、一番お姉さんな姉でした。
昔は過保護で、いつもわたしが教会にお世話になっている時には、自分のお仕事を放り出してそわそわと、様子を見に来る心配性の姉でした。
その姉が魔王様になってしばらく――
これまで人間と魔族は対立してきましたが、ようやく共存と和平への道を歩み始めました。
昔はとっても仲が悪くて、魔族同士ですら誰が魔王になるのか争いが絶えなかったそうです。
当時の自分は幼くて、昔の大変なことはあんまり覚えていません。
今と変わらずずっと楽しい日々でした。
思えば、幼いわたしはたくさんの愛を注がれて、いっぱい守ってもらったのだと思います。
みんなみんな大好きです。
これからは、自分が立派な「おねーちゃ」になれるように、がんばらなきゃ……。
純白のドレスを身に纏い、ドレッサーのスツールに座る姉の赤毛にブラシをかけます。
どことなく気まずさと恥ずかしさが半々という表情の姉は、先日、魔王様の玉座を降りました。
鏡の前でわたしに言います。
「ねぇ……本当にいいのかしら? あたしなんかで」
普段は自信満々なのに、いざというときに弱い姉。本当は繊細で心細くて寂しがりやなのに、誰よりもわたしを愛してくれた。
「今日はいつもの三倍かわいいし、六倍綺麗だから心配ないです」
「ちょ! 普段のあたしってどうなのよそれ!?」
「普段もとっても素敵ですから」
「もう! ちょっとそういうところ、あの人に似てきたかも」
「そうですか? うふふふ♪」
「しかも元魔王なのに聖夜祭の日に、こ、こんなことしちゃうなんて背徳的すぎない?」
人と魔族が結ばれる世界が、もうすぐそこまで来ている。
ずっとそばでみてきたから、二人はぴったりだと思う。
「じゃあキャンセルしちゃうんですか? 仲人さんも眼鏡の神官さんも、祝福に来てくれたみんなが待ってますよ?」
「い、意地悪ぅ……」
「誰よりも、あの人が待ってるんです。きっと大丈夫。自信をもって……ステラおねーちゃ」
そっと姉の手を両手で包むように握ると――
「う、うん! ありがとうねニーナああああああああああああああ!」
せっかくの晴れ舞台のためにしたお化粧が、涙で崩れてしまいそう。
「おねーちゃはいいこいいこ」
そっと頭を撫でる。大きな角がごつごつして立派だった。
幼い頃は自分にも、いつかこんな立派な角が生えるって思ってたっけ。
「にいいなあああああああ”””!!」
今にも抱きついてきそうな姉にちょっと困りつつ――
コンコンと控え室の扉が外からノックされた。
「式の準備が整いました。魔王様」
「も、もうあたしじゃなくて、あなたが魔王でしょ!」
「し、失礼いたしました。みなステラさまをお待ちです。ハーピーも高所恐怖症をおして、上空にてライスシャワー散布の準備を整えております」
結婚の話が持ち上がった時は「徹底抗戦!」を宣言してたのが嘘みたい。
「散布ってもう! 言い方ってものがあるじゃないの」
「ステラ様……そのご威光とお姿に人間どもはひれ伏し、あの男も必ずや屈すること間違いございません。いざ、出陣の時です」
「戦争は終わったのよ!」
ドア越しに声がわたしに告げる。
「ニーナ様、あとのことはよろしくお願いいたします」
「はい、承りました」
ドアからそっと気配が離れる。その間も「本当にご立派になられて。お二人とも」と、ぶつぶつ呟く声が漏れ聞こえた。
「じゃあ、行こっかステラおねーちゃ」
「そうやって呼んでもらえたの、すっごく久しぶりな気がするわ。本当にありがとうねニーナ」
あの人がプロポーズした時、魔王城を家出した姉を、他の姉たちやあの人と一緒に捜し回って見つけて説得したのも、今では良い思い出だった。
「これからもおねーちゃは、ずっとニーナのおねーちゃですから」
「うん!」
そっと手を差し伸べると、姉はスッと立ち上がった。
昔は見上げていた姉と、今は同じ目線の高さだった。
今日は聖夜祭の日――
そして、大切なおねーちゃと、あの人が結ばれる記念日だ。
おめでとう! ステラおねーちゃ!
というわけで、ここまで読んでくださったみなさまに感謝!
セイクリッドたちはトゥルーエンドへと到達できました。これもずっとずっと応援していただいたおかげです。
12/26発売のコミックス こちらラスボス魔王城前「教会」3巻もよろしくね!!
※追記
なんとこの最終話を杉町のこ先生がコミカライズ! 必見!
https://twitter.com/sugilight/status/1342430264161521665/photo/1




