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こちらラスボス魔王城前「教会」  作者: 原雷火
シーズン8 ※Pルートは「神トーク」までの通常ルートを読み終えてからお読みください
355/366

終焉アナザー

 過去は書き換わり、時は流れ進んでいった。


 間もなく俺は時間の果てに到達する。


 無くしてしまいたい過去を変えてきたつもりだが、不安や迷いや失敗があったから気づくことが無数にあったのだと思う。


 森の奥、蔦に覆われた遺跡塔の前庭で、俺は黒衣の賢者と対峙し、今まさに止めを刺そうとしている。


 陥没した地面に仰向けになり、賢者がじっと俺を見据えた。


 彼は告げる。


「どうした? 世界を救うのではなかったのか?」


「ええ……もちろん……」


 光の撲殺剣を逆手に構え、男の心臓部――記録水晶目がけて打ち込もうとしたその時、ステラのつんざくような悲鳴が響き渡った。




「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」




 ニーナを助けたロリメイドゴーレムの腕が、銀の液体金属を纏ってニーナの胸を貫いたのだ。


 力無く倒れるニーナ。


 ロリメイドゴーレムはゆっくりと腕を引き抜く。


 駆け寄るステラと、あまりの出来事に呆然と立ちすくむ仲間たち。


 そして、遺跡塔の内部から白衣の男が姿を現した。


「おや、ずいぶんあっさりといったみたいですね。はい」


 眼鏡のブリッジを中指で押上て男――エミルカはニンマリと笑みを浮かべる。


 すかさずカノンが短杖を構えた。標的はエミルカではなくニーナだ。


「半蘇生魔法であります!」


 魔法は発動したが、ニーナは甦らない。


 エミルカは白衣の裾を翻して、ニーナをぎゅっと抱き寄せ涙をこぼすステラの元に歩み寄った。


「さあ、もっとも大切なものを奪われたその悲しみで、世界を滅ぼしてくれませんかね?」


 ステラはキッと男の顔を見上げて告げる。


「そんなの……お断りよ」


「おや? 妹一人の命では足りませんか?」


 男はニーナが死んだと思い込んでいるようだ。


 だが、ニーナの肉体は光の中に溶けて消えると、遺跡塔の内部へと吸い込まれていった。


「なん……だと?」


 エミルカが細めていた瞳を見開く。


 ニーナは自分が冒険者になったことを、誰にも言っていないのだが……ステラには俺から伝えていたのだ。


 カノンの半蘇生魔法が成功していたら、その時は別の作戦に変更だったが、ニーナは無事“最後の教会”に送られた。


 彼女の魂が大神樹に溶けて消えぬよう、光の神が守る。そして教会には申し訳程度だが、ステラが復活させたアイスバーンとピッグミー、それに魔王城の引きこもり系部下ことハーピーの三者が、最後の教会の守備についていた。


 ステラがゆっくり立ち上がる。


「あなたが黒幕なのね……許せないわ」


 エミルカは溜息で返した。


「ハァ……困りますねこういうのは。あんな幼い子供を冒険者登録しているとは……そのような情報は観測していなかったのですが、まあいいでしょう」


 白衣の男がパチンと指を鳴らす。


「試作六号機。リミッターを解除しますから、ベリアルを殺してください。魔王城の範囲外ですから、彼女は死ねば終わりです。魔王の相手は私がしますので。はい」


 壁に叩きつけられ、槍を折られたベリアルが吠える。


「わたしを殺したところでなにも変わらぬ! もとよりこの命、ステラ様に捧げているのだ」


 ニーナの胸を貫いた、ロリメイドゴーレム素体はゆらりとエミルカに向き直ると、そのまま白衣の男に刃を振るった。


 男の頬を銀の刃がかすめて、赤い痕を残す。


「これはいったいどういうことでしょう?」


「試作六号機は傷つけさせない」


「……なるほど、入れ替わっているということですか」


 再び構えを取るロリメイドマーク2に、俺は告げる。


「深追いは禁物です」


 コクリとロリメイド素体は頷いて、大きくバックステップでエミルカから距離をとった。


 白衣の男の言う通り、ロリメイドゴーレム素体の中身は、マーク2の記録水晶に換装したままだった。


 エミルカの攻撃命令を受け取った、試作六号機の記録水晶はキルシュの手の中だ。


 そして、キルシュは賢者への奇襲の直後には森を脱している。


 エミルカに観測されない状況で、俺は一人一人に別々の指示を与えていた。


 我ながら、なかなかの黒幕ぶりである。


 白衣の男の雰囲気が変わった。


「くっくっく……はっはっは! コケにしてくれますね。私の目を欺き、行動を先読みする……なるほど、ええ、そういうことですか。この世界の時間を遡って小細工をしたんですね。はい」


 俺の足下で倒れていた黒衣の賢者が立ち上がる。


「エミルカ……お前はこの世界も壊すのか?」


「裏切るなんてひどいですよ。子は親に従うものです」


「ならば試作六号機にやったように、俺を操ればいい」


「その必要はありません。ああまったく……私は自分で手を下したくはなかったんですよ。見ているのが好きなんです。私の手で救った世界を愛でていたかった」


 俺はエミルカと正対した。


 結局、この男が何者で何が目的なのか、わからなかった。


「ならば隠遁して世界を俯瞰していれば良かったではありませんか?」


「飽きたんです。調和が取れた平和な世界は美しいものですよ。ある世界では人間は死に絶え、魔族だけが生き残り戦争が続きました。ある世界では魔族が駆逐され人間だけの千年王国が誕生しました。ただ、一度安定した状態になってしまうと、それ以上の干渉ができなくなってしまって、時々、ちょっと変えてみるんです。もっと良くなるのではとね……ですが失敗してバランスが崩れてしまう。手を尽くすほど壊れていく。だから、その世界を滅ぼす鍵を起動させて、全部無かったことにしてしまうんです。はい」


 壊れたオモチャを捨てるように、この男は世界を作っては壊してきたというのだろうか。


「その鍵というのが……ステラさんなのですか?」


「魔族側はそうですし、人間側の鍵は貴方も良く知るあの方ですよ。はい」


 ヨハネ……教皇か。もし、この世界で人間側が魔族に勝利したとしても、その時の教皇の最終魔法を暴発させれば、すべて消し去れる……か。


 エミルカは楽しげに続けた。


「それにいいじゃないですか。かつて勇者として私が救った世界を壊しても。次の世界でも私はまた救いますよ。私には助けた命を自由にする権利がある」


「そんなもの、あるわけがない!!」


二周目チートをしてまで戻ってきた貴方が言えることですか? 本質的には貴方も私も、やってることは同じでしょう。自身の願いを叶えるために、やり直して悪かったもの、嫌なものを無かったことにする。無かったことにされた歴史はどうなります? この場の誰もが貴方に騙され、記憶を奪われ自由に操られたも同然じゃありませんか? ええ、はい」


 両腕を翼のように広げて、エミルカは高らかに宣言した。


 俺はその言葉を否定する。




「失われてなどいません。失った痛みを知ったから、ここまで戻ってくることができたんです」




 もしかすればエミルカの言葉は正しいかもしれない。


 失われた世界は上書きされて、もう戻ってはこないのだから。


 それでも――


 あの悲しみと結末の記憶がなければ、それを変えようとは思わなかった。


 世界は断絶などされていない。


 繋がっているのだ。今、この時、この場所に。


 エミルカは薄ら笑いを浮かべたままだ。


「くっくっく……そうですか。この世界の貴方の事は、記憶に留めておきますね。はい。次は今回のような想定外の展開にならないよう、もっと上手く立ち回ってみせましょう。しかし、こういうことがあるから、世界をいじくり回すのは面白いんですよ」


 語りながら男は魔法力を手に集約して剣にした。


 俺の撲殺剣や賢者の闇の刃と同じものだ。


 だが、その光刃は七色の不思議な輝きを放ち、美しくも恐ろしい力を感じさせた。


 背筋に悪寒が走る。あの輝きは全てを滅ぼす破滅の光だ。


 エミルカは眉尻を下げ落胆したように告げた。


「ただ、残念ですがこれ以上のものは見られないでしょうし、ベリアルさんでしたっけ? 貴女を殺して魔王覚醒といきましょうか?」


 カノンによって回復したベリアルが、苦悶の表情を浮かべた。


「クッ……」


 殺せとは言えない。エミルカの力がどれほどのものか……わからないが、俺はカノンが張った防壁魔法の上にさらなる防壁を重ねた。


 どこまで守れるだろう。いや、守るのだ。


「ベリアルさんは絶対に傷つけさせません」


「なるほどなるほど、貴方自身は致命傷からも復帰できる魔法を使えますし、守りに徹されるとたしかに面倒です。で、私としては魔王ステラに直接危害を加えるわけにはいかない……と」


 ロリメイドゴーレムと黒衣の賢者も、エミルカを相手に多少の時間稼ぎはできるかもしれないが、相性は悪い。


 二人ともエミルカによって作られた存在なのだ。


 この世界で作られた試作二号(マーク2)と、別の世界で作られて、この世界に持ち込まれた試作二号(マーク2)である。エミルカには手の内もお見通しだろう。


 カノンはベリアルを守るので手一杯だった。俺と協力し、ベリアルから魔法力を吸魔しつつ防御と回復に専念するのが、恐らく最善手だ。


「だったら、あたしが……」


 生まれたての子鹿のように震えながら、ステラが身構える。


 エミルカという得体の知れない恐怖に立ち向かう。


 そんな少女の隣に、もう一人少女が並びたった。


「なら、ボクも一緒に戦うよステラさん」


「アコ……でも」


「大丈夫大丈夫。任せてよ。これでもセイクリッドに鍛えてもらって、ちょっとは強くなったんだから」


 アコにはこの戦いの最終局面まで、極力参戦しないよう指示していた。


 そして、今がその局面なのだと少女は感じ取ったのだ。


 勇者アコ――レベル99。


 その戦闘力を世界はまだ、知らない。

過去を否定せず

繋がりに気づいた時

すべてが甦る

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― 新着の感想 ―
[一言] はやくアニメでここまでやってほしい!はやくはやく!
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