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こちらラスボス魔王城前「教会」  作者: 原雷火
シーズン8 ※Pルートは「神トーク」までの通常ルートを読み終えてからお読みください
331/366

※Pルート ニーナちゃんの大人企画

 少しもじもじとしてから、幼女は続けた。


「ベリアルおねーちゃが、セイおにーちゃは忙しくて大変だから……って。本当はベリアルおねーちゃもお手伝いしたいけど、騎士はせーせーどーどーとしてて、あんやく? はしないし、ちからわざで、セイおにーちゃに迷惑かけちゃうかもだし、ステラおねーちゃとニーナをお守りするって……」


「なるほど。ベリアルさんにはベリアルさんのやるべきことがありますからね。手伝いたいというお気持ちだけでも嬉しく思います」


 ニーナはティーカップをソーサーにそっと着陸させると、のぞき込むようにじっと俺を見つめた。


 少し前のめりになって幼女は告げる。


「だからニーナがおにーちゃのお手伝いをしたいのです!」


「本当ですか? それはとても助かります」


「な、なんでもがんばりますから! ぴーちゃんだって、おにーちゃのお手伝いしてるし、ニーナもまけてはいられないのです」


「ええ、そうですね。ニーナさんはどんなことができますか?」


 幼女はキラリと瞳を輝かせた。


「ニーナはまだちっちゃいですけど、毎日お絵かきがんばってます!」


「そうですね。大変お上手です」


「お勉強も、おにーちゃに教えてもらって、絵本も読めるようになりました! この前は、ぴーちゃんに読んであげたほどです」


「すばらしい成果です」


「あと、ひっさつわざをいくつかつかえます」


 以前、マリクハの展示イベントで、各ブースのマスコットキャラの着ぐるみから教わっていたのを思い出した。


「たしか武器を使わない格闘術的なものでしたね」


「うん! あとえっと、王様にもなりました。ニーナには、けいけんがあります」


 実績としてあげるには、同世代どころか世界でも屈指の経歴ですよソレ。


「ニーナは……ニーナはもっと早く大人になって、ステラおねーちゃやベリアルおねーちゃを楽にしてあげて、ぴーちゃんをやしなって、アコちゃんせんせーやカノンちゃんたちと冒険とかしたいのです!」


 このままでは、ニーナの素敵な未来は閉ざされてしまう。


「わかりました……ではニーナさんが大人になるための特別任務を与えます」


「が、がんばるのです!」


 俺は席を立つと、ニーナが教会に遊びに来た時に使う“お道具箱”から、クレヨンとスケッチブックを取り出した。


「おにーちゃ! 今はお絵かきなどをしている場合ではないのです!」


 などとはこれいかに。口調がどことなくベリアルめいている。


「ただのお絵かきではありません。ニーナさんにはこれから大きくなるにあたり、どんな大人になりたいか企画書を書いていただきます」


「き、きかくしょ?」


「はい。大人とは書類を作成したり、その書類にサインをしたりするものですから」


「お、大人っぽい! ニーナもきかくしょをかけば大人のなかま入りですか?」


「おっと、書くだけでは大人にはなれません。通る企画書を作らなければなりませんから」


「おにーちゃ、どうすればきかくしょがとおりますか?」


 ニーナは天板に両手をついて、身を乗り出した。今日の彼女は普段にはない、ぐいぐいとくる勢いがある。


「ニーナさんはお絵かきがとてもお上手ですから、まずは絵にしてみましょう。特技を生かすことは、とても重要です」


「うん……じゃない、は、はい!」


 元気に返事をするニーナに、俺はゆっくり頷いた。




 ニーナはスケッチブックを埋めていった。


 まず、大人になって大きくなったニーナ自身を、彼女は描く。血のつながりがあるからか、どことなく現女王クラウディアにも似た姿だった。


 ちなみに胸の大きさは、ステラではなくベリアルを参考にしたようだ。


「ニーナはきっと、お胸が大きくなると思うのです」


「その根拠はなんでしょう?」


「毎日牛乳を飲みますから!」


「なるほど、素晴らしい」


 続いて、ニーナはアコとカノンとキルシュの三人パーティーに、四人目として加わるという一枚を書いた。四人の姿を横並びにして描いたものだが、ニーナはどうやら武闘家のようだ。鍛えた拳と肉体言語で敵を圧倒するのである。


「ニーナさんは冒険者にもなりたいんですね」


「うん! どうしたら冒険者になれますか?」


 絵を描く手を止めて幼女は訊く。


「誰でもなれるものですが、神官が大神樹の芽を通じて契約を結ばねばなりません」


「じゃあ、おにーちゃもできるの?」


 教会を守る司祭と大神樹の芽。必要なものは二つとも、この場にそろっていた。


 ニーナの保護者の許可は得ていない。が、それは些細なことだ。


 問題は、この教会の大神樹の芽がエミルカの監視下にあることだ。


 俺は大神樹の芽に触れた。




 これまでエミルカに気づかれないよう、前回と同じ行動を取ったことも少なくない。


 俺は念じる。


 聞こえていますか大神樹――光の神よ。


『時を巡りし我が子よ。声は届いている』


 さすが時間の概念の外側にいる存在ですね。過去も未来も関係なしとは。


 ところで、そちらの首尾の方はいかがでしょう。


『かのなれの果ての者に気づかれぬよう、あの男には我が芽を通じて一巡前の世界を観測させている』


 本当は消して上書きしてしまいたい過去……いや、未来だが、それすら利用しなければエミルカは倒せませんから。


『我に力がないばかりに苦労ばかりかける』


 凹まないでください。貴方の機嫌一つで世界の滅びが早まるのですから。エミルカという存在が不安の種ならば、その芽も摘んで私が貴方も世界もお守りしましょう。


『なんと逞しく育ったことか……だが、このまま進めば……』


 奇跡の代価としては安いものです。最終魔法を発動する時に、覚悟は決まりました。


 では、これまでの手はず通りにエミルカには一周目を見せておいてください。


 それと、お願いがあるのですが。


『我にできることであれば、なんなりと申してみよ』


 ニーナさんを冒険者として祝福してください。




「登録を完了しました。ニーナさんは今日から冒険者の仲間入りです」


「やったー! ニーナのきかくしょが良かったですか?」


「ええとっても。ですが、一つ約束してください」


「うん! なになに?」


「実は冒険者登録ができるのは十六歳からなんです」


「あっ……ニーナはまだ、そんなにお年をめしてません」


 俺は人差し指を立てて自分の口元にもっていく。


「ですから、この事は秘密です」


「だ、だいじょうぶなの? いほうせいはありませんか?」


「ええ。かく言う私もニーナさんくらいの年齢で、無理矢理……もとい、こっそり登録して修行しましたから」


「わあぁ! じゃあじゃあ、セイおにーちゃと一緒だね!」


 ニーナは両手を万歳させた。


「だけど、このことは私とニーナさんだけの秘密にしましょう」


「う、うん。だってほんとは十六歳じゃなきゃいけないから……ニーナは十六歳まで冒険者をがまんします!」


 ニーナは両手の拳をぎゅっと握って、かかとを上げて背伸びをした。


「そして、さいしゅうてきには、おにーちゃよりおっきくなるから!」


「ええ、私など軽々飛び越える冒険者になれますとも」


「ベリアルおねーちゃだって大きいですから! ニーナもおっきくなれるのです!」


 五メートル級のジャイアントニーナ……実在したのか。


「じゃあじゃあ、えっとね、次はどうしよっかなぁ」


 ニーナは三枚目の“企画書”に取りかかった。


 純白のドレス姿の赤毛の少女を描き上げると、その隣には銀髪の青年が白い礼服姿で立っている。


 二人の間には、今より成長した、十六歳くらいのニーナが立っていた。


 青年と少女の周囲には、牛の姿のベリアルやロリメイドゴーレムに、俺がみたことのない鳥類系の魔物の姿があった。


 さらに、アコにカノンにキルシュにリムリムに、クラウディアやメイド学園の学園長にアイスバーンとピッグミー。さらに南の島でニーナを虜にしたセミ魔族のセミーンまで描く。


 そして――


 ニーナはルルーナとラヴィーナを描いた。


「ニーナさんは絵が大変お上手なので、花嫁がステラさんなのはわかりました。その……隣にいるのは……もしや私でしょうか?」


 長い銀髪の青年に心当たりは一つしかない。


「うん! セイおにーちゃだよ! ステラおねーちゃとけっこんして、ニーナの本当のおにーちゃになってくれるのです」


 他の全ての願いが叶うとしても、この未来だけは実現しなかった。


「ステラおねーちゃはセイおにーちゃのこと大好きで、セイおにーちゃもステラおねーちゃのことが大好きですから」


 本人を目の前にして幼女は再び断言した。


「ニーナさんにはすべてお見通しなんですね」


「うん! ……はいそうです!」


 俺とステラは晴れて妹公認だ。ベリアルが知ったら卒倒しかねないな。


「ニーナはステラおねーちゃが幸せだと嬉しいなぁ。だから、セイおにーちゃがいっぱいしあわせにしてあげてね!」


「はい。この身体が朽ち果て魂が燃え尽きるまで、ステラさんを幸せにしてみせます」


「よかったぁ。ニーナはとっても安心です」

 


 企画書は企画会議(俺一名)の承認を得て、三枚すべて通す運びとなった。


 それから大人講習として、挨拶をしっかりすることや、ありがとう、ごめんなさいを素直に言えるようにするなど、ニーナが大人になるための確認事項を行った。


「最後にニーナさん。お菓子をあげるとか、紅茶をごちそうすると言われても、知らない人についていってはいけませんよ」


「はーい! ニーナは知らない人にはついていきません」


 このあと誘拐されるのを知って言うのは忍びない。が、誘拐を未然に防ぐのでは、一巡目から大きくズレてしまう。


 エミルカが姿を現すその瞬間まで、干渉しつつも流れそのものを変えるわけにはいかないのだ。


 講習を終えたニーナを連れて聖堂に戻ると、ベリアル(牛)が教会の出入り口前からこちらをのぞき込んでいた。


 夕暮れ前のちょうどお迎えの時間帯だ。


「お疲れさまですベリアルさん」


「べ、別に貴様となれ合うつもりなどないからな!」


 ニーナがとてとてとてっと早足でベリアルの元へと駆け寄る。


「ベリアルおねーちゃただいまー! ニーナね、今日はセイおにーちゃんにしどーしてもらって、大人になる練習したんだぁ」


 ベリアルから殺気が漏れる。


「セイクリッド貴様あああああ!」


「なにを勘違いなさっているのですか。きちんとニーナさんの説明を最後までお聞きください」


 ニーナは笑顔でベリアルに続ける。


「それからね、えっとね、あのね、大人になるきかくしょ? をいっぱい描いたの」


「きさ……きか……企画書ですか?」


「うん! でねニーナはぼうけ……えっとぉ、大人になるまではステラおねーちゃにも、ベリアルおねーちゃにも秘密なんだよ。ニーナがどんな大人になりたいか、ニーナがちゃんと大人になったら教えてあげるね!」


 再びベリアルが俺に向かって吠える。


「貴様ッ! ニーナ様に黒歴史ノートを書かせたな?」


「はて、なんのことでしょう」


 大人になったニーナが今日、描いたスケッチブックを見て悲しむかもしれない。


 その時にはもう、俺は存在しないのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] ...将来の夢を書いてもらった=黒歴史になる、と解釈するとは、さすがベリアル...穢れた解釈をしよる。まぁ大人になる=チョメチョメしたと即断する牛娘だから仕方ないね しかし、セイクリッドと…
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