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※このあとマ○ラはステラがおいしくいただきました

「私が死ぬとおっしゃりたいのですか?」


 ラヴィーナ(?)は俺に見せたカードを指先でくるんと自分の方に向けると、死神を確認して呟く。


「……ええと」


 死神のカードを束の真ん中あたりに差し入れて、彼女は一番上のカードをこちらに見せた。


「……じゃあ、これ」


 『吊された男』だ。


「私を吊すと?」


「……これ」


 次に出たのは『塔の崩壊』。


「この教会を破壊ですか」


「……もう一回」


 さらに一枚、引き直すと『悪魔』のカードが出た。


「神聖な聖堂に悪魔などいるわけがありません」


 無表情のまま少女はぽつりと返す。


「……カードは苦手」


 じゃあ何が得意なんだ? というか、ラヴィーナでないことは間違い無い。


 俺は小さく咳払いを挟む。


「コホン……まあ、占いはこれくらいにして……大変失礼いたしました。つい先ほどまで、貴方とうり二つの女性がこの教会にいらしたものでして」


「……そう」


 素っ気なく言うと占い師の少女はタロットをケースにしまう。


「改めてお名前をうかがってもよろしいですか?」


「……ルルーナ」


 ラヴィーナとルルーナ。どことなく語感が似ている。


「他人のそら似ではなさそうですね」


「……ラヴィーナは姉」


「双子の姉妹ということですか」


 占い師の妹――ルルーナはコクリとうなずく。


 姉同様、彼女にも“最後の教会”で蘇生されてしまったいきさつをきちんと話しておこう。


「ルルーナさん。貴方は本来戻るべき教会ではなく、別の教会に魂を送られてしまいました。先ほど申し上げました通り、ラヴィーナさんは王都にお送りしましたが、貴方もそのようにいたしますか?」


「……セイぴっぴ」


 きちんと名乗り忘れた結果、またしてもぴっぴである。


「失礼。自己紹介が遅れましたね。私はセイクリッドと申します。この教会で司祭を務めているただの神官です。本来でしたら、復活の際に寄付をしていただくのですが、今回は手違いもありましたので、寄付のお願いはいたしません」


「……そう」


 俺ではなく、聖堂内を見回すルルーナ。


 どことなく寂しげな横顔だ。


 双子だから性格まで似るとは限らないが、ここまで感情の起伏に落差があるのは珍しく思えた。


 もしや古いしきたりかなにかで、双子は不吉だからと妹のルルーナだけ地下に幽閉されていた……ことはさすがにないか。


 それにしても――


 ラヴィーナと行動していたのに、ルルーナが遅れてこの教会に魂を送られたのも気になる。


「差し出がましいとは思いますが、何かお姉さんとトラブルでも抱えていらっしゃるのでしょうか」


「……姉がトラブル」


 なるほど。たった一言でルルーナの苦労が目に浮かんだ。


 どうやら彼女は“まともに話ができる”人間のようだ。


「貴方のつらいお気持ち、このセイクリッドお察しいたします」


「……ありがとう」


 自由奔放な姉に振り回されているのだろう。


「さて、いかがいたしましょうルルーナさん。毒の治療も解呪も必要そうには見えませんが、私で力になれることがありましたらなんなりとお申し付けください」


 ルルーナはぼそりと呟いた。


「……姉をめとってください」


「ええ、それくらいのことでしたらお断りします」


 いま、さらりと承諾しかけた。


「……チッ」


 表情一つ変えずにルルーナは舌打ちした。


 訂正――やはりこの教会に魂を誤配送される冒険者に、まともな人材一人として存在しない説。


「お姉さんご本人の承諾もなく、そのような人生を左右する約束を妹の貴方が持ちかけるのはいかがなものかと?」


「……セイぴっぴ」


「たしかに、そのようには呼ばれましたが、私だけではありません。この教会の近所に住む、黒魔導士の少女も同じように呼んでいましたし」


「……男性をぴっぴと呼んだのは、たぶんあなたが初めて」


 ずいぶんと俺はラヴィーナに気に入られたようだ。


 ルルーナはローブの懐から片手に収まるくらいの水晶玉を取り出した。


「……姉を嫁にしないとあなたに不幸が訪れる」


「それは占いではなく脅迫というんですよ」


「……地獄に落ちます」


「詐欺師の手口ですか?」


「……どうしたらラヴィーナを好きになりますか?」


 占い師にしては口下手というか、コミュニケーション能力に欠ける未熟ぶりだ。


「いいですかルルーナさん。愛とは誰かに命じられるでも、強制させるものでもなく自然と湧き上がる感情なのです」


「……このインポ野郎」


「はい?」


「……いえ、何も」


 あっ――


 ルルーナから自分と同類の匂いを感じた。


 口下手で無表情という皮を被っているに過ぎない。本音が出やすいあたり修行不足だが、美少女だから上手く誤魔化ごまかせてきたのだろう。


「ともかく王都にお送りしましょう」


「……待って。ラヴィーナは……妹のわたしを庇ったから先に……優しいところもあるから」


 なるほど、だから二人同時ではなく時差が生じたわけか。


「ラヴィーナさんが妹思いの素敵な女性ということは承知いたしました」


「……それじゃあ」


「お断りいたします。それと、本人を前に舌打ちはおやめください。まだまだ外面の取りつくろい方が甘いですよ」


「……うっ」


 ずっとクールなポーカーフェイスだったルルーナが下を向いた。


 彼女に詰め寄り、壁際に追い詰める。


「……はう」


 横に逃げようとする彼女の進路を、腕を壁にドンとつけて塞いでから俺は言う。


「良いですか小娘。腹黒な者同士のよしみです。貴方自身は隠せているとお思いでしょうが、先ほどから盛大に尻尾が出っぱなしですから。我々のような人種は、可能な限り他人との摩擦を起こさないように、静かに深く水の底で潜伏するように行動しなければなりません」


「……どうしてそんなこと言うの?」


「さあ、どうしてでしょうね。では……転移魔法」


「……ま、待って」


 言葉は最後まで発せられることなく、少女の姿が光に包まれ消えた。


 行き先は王都に設定してある。すぐにも姉やアコたちと合流できるだろう。


 しかし、ラヴィーナにルルーナか。


 外見はそっくりだが、中身はずいぶんと違うな。


 少し手間取ったが、これでようやく平和な日常が戻ってきた――


「ちょ、ちょっと……壁ドンってどういうことよ!」


 枕をギュッと抱えて、ステラが俺の私室から聖堂にやってきた。


「壁ドンですか?」


「ラヴィーナを壁際に追い詰めて……き、きき、キスしようとしてたんじゃないの?」


「今のはラヴィーナの双子の妹のルルーナさんですよ」


「嘘よ!」


「神に誓って嘘など申し上げておりません。それに転移魔法で王都に返したのは私ですから」


「そ、そうだけど……あんなに顔を近づけて……うらやま……な、なんでもないから」


 まだステラは本調子にはほど遠いようだ。


「しばらくクッキー作りも含めて、お休みしてはいかがですか。このところ色々とありましたし、時には休暇も必要ですよ」


「休んでなんていられないわよ! うかうかしてたらセイクリッドが……」


「私は当分、どこにもいきませんし誰かに倒されることもないでしょう。まあ、貴方が成長すればどうなるかわかりませんが」


 ステラがほっぺたをぷくっとさせる。


「そういうこと言ってるんじゃないの! うー……さっきのがラヴィーナでも妹でも……なんで増えるのよぉ」


「私も同意です。自力で“最後の教会”にたどり着いた冒険者がいないのが嘆かわしいですね」


 ステラは大きく息を吐いた。


「はぁ……ともかく、セイクリッドをあたしが守ってあげなきゃ……」


「魔王に守られる神官というのは前代未聞ですよ」


 赤毛を揺らして少女は瞳を燃やしながら、俺の顔を指さした。


「なら最初の一人になればいいじゃない! 今日のところはクッキーもちらばっちゃったし、余計な邪魔ばっかり入ってもうアレな感じだから帰ってあげるわ!」


 俺に背を向けお尻と尻尾を不機嫌そうに揺らしてステラは聖堂を抜け、正面出口から出ていった。


 枕返して。


 バスケットと黒焦げクッキーを残して。


 先ほど、倒れる間際に確保したのだが……私室に戻って一枚食べてみたところ、まるで焦がしたコーヒー豆をそのままかじったような苦みだけが口に広がった。


「問題は山積みですか」


 魔王のデスクッキーにグイグイ系の踊り子。さらに、その踊り子を俺にとつがせたがる妹と、我が人生は難題に満ちている。


 明日はニーナを誘って、どこか静かなところでゆるく焚き火など囲んでキャンプでもしたい気持ちになった。

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