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こちらラスボス魔王城前「教会」  作者: 原雷火
シーズン8 ※Pルートは「神トーク」までの通常ルートを読み終えてからお読みください
311/366

※Pルート ゆうべは、おたのしみでしたね。

「あたしのこと……好き?」


「はい」


 少女のルビー色の瞳がじっと見つめる。どんな嘘も偽りも見透かされてしまいそうだ。


 今なら……一度失ってしまった今だから言える。


 心から愛していると。


 少女の尻尾がピンと立つ。


「人として好きとかじゃなくて……女の子としてっていう意味よ?」


「もちろんです」


「ほんとにほんと? 魔族の中では一番とかじゃなくて?」


「ステラさんは心配性ですね」


 心細そうに小さな肩が震えた。


「だ、だってセイクリッドは大神官で、あたしは……魔王だもの……」


 少女はうつむいて視線を背ける。


 そんな彼女を俺は抱き寄せ抱きしめた。


「うふふ……セイクリッドの方からなんて、なんだか嬉しい」


「この身体と魂が消えて無くなるその日まで、ずっとそばにいますから」


 俺に残された時間のすべてでステラを守る。消えることを言えないのだけが心残りだ。


 ステラは俺の背に腕を回してぎゅうっと抱きついた。


 胸に顔を埋めてくる。


 角が当たるが、その痛みすら俺には愛おしい。


「ありがとね。初めてが……セイクリッドで良かった」


「私もです」


「そ、そうなんだ……」


 少女の呼吸が早くなる。彼女の髪をそっと撫でた。花のような甘い香が広がった。


「何か怖い夢でも見たのですか?」


「え? 夢って……うん、そうね。恥ずかしいけど……さっき、恥ずかしいことしちゃったから……話すね」


 俺に身を寄せたまま少女は顔を上げた。


「あのね……こんな夢を見たの。あたしが本当に村に住んでるだけの普通の人間の女の子で、ニーナがいてベリアルもいて……その村の教会の神官があなたなの」


 俺は黙って頷く。


「ニーナと一緒に毎日教会でお祈りをするの。時々、あなたが紅茶をご馳走してくれて……」


「とても幸せですね」


「うん。それでね、ちゃんとあたしも村のために働いて、収穫とか牛のお世話とかするの。ニーナが大きくなるまでいっぱい……いっぱい……働くの。あっ……ゆ、夢だからできるだけかもしれないけど」


「夢の中でもステラさんの意思で、がんばったことに代わりはありません」


「あのねあのね! 教会のお手伝いもしたのよ! そうしたら、セイクリッドともっとずっと、一緒にいられるでしょ? だけど……」


「だけど?」


「目が覚めたら、やっぱりあたしは魔王だった」


 俺はもう一度、そっと彼女の頭を胸に抱く。


 少女の口から「あっ」と吐息が漏れた。


「魔王である前に、貴女は一人の可愛い女の子です。夢の中でも現実でも揺るぎないことですから」


「は、恥ずかしいけど……嬉しい」


 言いながら少女が俺の胸に耳を当てる。


「セイクリッドの心臓がどくんどくんってしてる」


「生きている証拠です」


 魔王様の尻尾はずっと、ゆらりゆらりと一定のリズムを刻んでいた。


「ねえ……神官って……と、特定の個人を好きになっても大丈夫なのかしら?」


「神官である前に私も一人の……ただの人間ですから」


「じゃ、じゃあ結婚とかもできるの? あ、あくまで後学のために訊くんだけどね」


 座ったまま少女は膝頭をすりあわせた。


「ええ、もちろん」


「そ、そっかぁ……そうなのね。とっても勉強になったわ!」


 ステラの尻尾がピンとたち、激しく左右に揺れた。


「あのね……いつからか……教えて」


「特別なきっかけはありませんが、いつのまにか貴女を好きになっていました」


「うう、自分から訊いておいて言うのもあれだけど……すっごく恥ずかしいかも」


 聖堂はしんと静まり返り、まるで雪の降る夜のようだ。


 俺はゆっくり呼吸を整える。


「二人きりですが、今夜……結婚しますか?」


 赤毛の少女の頬が紅潮した。


「は、はははははあああああああああいいいいい?」


 ステラの声が甲高く裏返る。


「ここは教会ですし、ちょうど聖職者もいますから」


「じ、自分でその……するの?」


「それともニーナさんたちの前で誓いましょうか。二人きりでも良いかと思ったのですが、盛大とまではいかずとも身内でひっそりと執り行うのもいいかもしれません。式についてはカノンさんに取り仕切ってもらいましょう。前にもラヴィーナさんの結婚式をやりましたから」


 ステラがきょとんとした顔になった。


「だ、誰よそれ!?」


 自然と名前が口をついて出た。


 ずっと思い出せずにいた誰かの名前である。


 そう……ルルーナには双子の姉がいたのだ。


 思い出した。なぜ今まで忘れていたのだろうか。


 ステラはぷくっとほっぺたを膨らませた。口いっぱいにヒマワリの種を頬張ったリスのようだ。


「もう! ほ、他の女の子の名前を言うなんて……ばかぁ」


「すみません。ルルーナさんとピッグミーさんの結婚式でしたね」


「あっ! あれはええと、たしかぶち壊したやつよね」


「ルルーナさんと言うところを、壮絶に噛んでしまいました」


「人名の噛み方がダイナミックすぎない?」


 少女は口元を隠すように、うふふっと笑った。


「ステラさん……私は本気です。恥ずかしいなら二人きりで、誓いましょう。残りの生涯すべてを貴女に捧げると」


 嘘は無かった。得て失う悲しみの深さは計り知れないものがある。


 ならば最初から何も得ず、何も感じずに平穏でありたいという願いもあるだろう。


 だが――


 何もしなかったこと。何もできなかったことでする後悔も、同じく深い。


 こうして一度きりのやり直せるチャンスを与えられて、やっと俺はわかったのだ。


 正解の選択などない。


 ただ、手を伸ばすことを恐れ、諦める言い訳をやめた時に、選んだルートに後悔を残さないこと。


 それが俺の最善の選択だ。


 少女はぽふんと俺に抱きついた。


「じゃ、じゃあそれで……」


 恥ずかしいのか俺の胸に顔を埋めて、ぽつりと呟く。


 優しく髪を撫でると、少女の尻尾がへなへなと力なく垂れ下がった。


 俺はステラの右手に指を絡めて握り締める。


 彼女はそっと握り返しながら、ゆっくりと体重を背中側にかけて長椅子に寝そべった。


 覆い被さるような格好になって、彼女を見つめる。


 熱い吐息の混ざったか細い声が囁いた。


「ねえ……セイクリッド……」


「ステラさん」


「さんは余計よ」


「ステラ……」


 見つめ合うとまた、時間の流れが緩やかになっていく。


 二人きりの夜はゆっくりと更けていった。




 ――翌朝。


 私室のベッドの上で少女はすやすやと寝息を立てていた。


 起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、立ち上がり身なりを整える。


 まもなく心配した少女の保護者ベリアルが怒鳴り込んで来る頃だ。




「セイクリッド貴様! ステラ様に危害を加えていないだろうな!」


 ベリアルが教会の扉を叩き壊す勢いで聖堂に乗り込んできた。三つ叉の槍を手に、戦闘モードだ。


「これはベリアルさん。ようこそ教会へ。本日はどのようなご用件でしょうか……」


「ステラ様をどこへやったのだ!?」


 ベリアル愛用の三つ叉が俺の鼻先に突きつけられた。


「昨晩、愛についてじっくりと語り合いました」


「あ、あああ、愛……だと!?」


「ええ。ですから心配はご無用です」


「そ、そうか。ならばよ……よくはないぞ!」


「近々、婚姻を結ぶことも考えております」


「下らぬ冗談だ。まったく、きさまも嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけ。もう一度魔王城を探してくる。いいか、ステラ様をお見かけしたら、わたしに報告するのだぞ」


 講壇に背を向け、肩を怒らせながら女騎士は聖堂を後にした。


 ベリアルの気配が無くなると――


「ちょ、ちょっとセイクリッド! な、な、なんてこと言うのよ」


 タオルケットにくるまるようにして、ステラロール状態の少女が私室から飛び出してきた。


 ベリアルの怒声に起こされたらしい。


「おはようございますステラさん」


「さ、さんは余計よ……二人きりの時は……」


「おはようステラ」


「お、おはようセイクリッド」


 あっという間に少女の顔が耳の先まで真っ赤になる。


「身体の方は大丈夫ですか」


「う、うん……」


 少女はもじもじと内ももを擦るようにした。


「あ、あのね……その……とっても……気持ちよかったから……セイクリッドは心配……しなくていいからね」


「私もです」


「うう、恥ずかしいんだから……もう……ばかぁ」


 ステラは私室にひっこんでしまった……と、思いきや。


 少しだけ扉を開けて、彼女は告げる。


「けど、嬉しかったから」


 言い終えるなり少女は部屋の扉をバタンと音を立てて閉めてしまった。


 ステラの身支度が整ったら、朝食の準備をしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここで愛を語ることで自分が受けた悲しみを彼女にも背負わせるということだろうに…
[一言] うん?夜のツイスターゲーム?それとも健全な方? どうでもいいのだけど、夢の内容を語ったり、キスした後なのに、結婚できるか聞くのは後学のためって誤魔化すのか
[良い点] ◎ ふたりの真剣なお付き合い、はじまる⁉︎ [気になる点] ◎まさか、一気にCまで⁉︎ ■ 一晩中魔王様とツイスターゲームをしていた… 〉どどどどこでしていたの ? まさかBEッど…
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