幼女の愛がおねーちゃを救うと信じて
地面に這いつくばって、少女は拳をぎゅっと握る。
「ごめんね……ニーナを守るの……あたしにも無理だったみたい」
マーゴが倒れたフードローブの少女の元へと歩み寄った。
軽く蹴り上げて仰向けにさせる。
「くっ……」
仮面の少女の口から苦悶の声が漏れた。
「こっちに残ったからお利口さんかと思ったのにさぁ……どうしてマーゴさまって、こう部下に恵まれないんだろ。めっちゃ不幸じゃない?」
仮面の(*´∀`*)(まつたり)とした顔がマーゴに返した。
「あなたみたいなろくでなしを、どうして光の神様が王様候補に選んだのか、そっちの方がわかんないわよバーカバーカ!」
追い詰められてこの口振りは、さすが魔王様の面目躍如。なによりも、人間の決めたルールなど破ってマーゴを殺してしまうことができるのに、ステラはそれをしなかった。
先ほどの撲刀の一撃を、本気の魔王が殺すつもりになって放てば、いかに王印紋の加護があろうともマーゴを殺めることはできただろう。
甘く優しい魔王は今、逆にマーゴの手の内だ。
「このクソ女がああああ!」
再び倒れたステラの腹をマーゴが蹴り上げようとした瞬間――
小さな影が光のように駆け抜けて、その一撃を身を挺して防いだ。
そして幼女は倒れた赤毛の少女の前に立ち、両腕を広げて顔をあげるとマーゴに立ちはだかり、声を上げる。
「ステラおねーちゃをいじめないでっ!!」
初めて俺がニーナと出会った時も、たしか同じ言葉を幼女は口にし、同じく姉であるステラを庇ったのだ。
あの時と変わらず。守ろうとしてくれる者を守るために。ニーナも守られなければならないという立場から、目の前で誰もが倒れていく姿を、ただ見ているしかできなかった。
俺やカノンやキルシュにアコ。それにメイドたちや、マーゴ側からニーナについた美女軍団も。
だがステラの危機だけは、すべてを越えてニーナを突き動かした。
マーゴの表情が醜く歪んだ。
「へええ、ちびっ子の大切な人なのか。じゃあ……いじめちゃうよ~ん!」
マーゴが光を放つ右拳を振り上げた。
「ニーナッ!」
「おねーちゃ!」
それでもニーナはステラの盾となり、ぎゅっと瞳を閉じる。振り下ろされる拳に耐えようとする。
が――
もう、その必要はない。俺を守る強固な鎧でもあり、力を制約し続けたリミッターの最後の一つが解けて消えた。
立ち上がると縮地歩行で間合いをつめて、ニーナの正面に立つとマーゴの一撃を背中で受け止めた。
くるぶしあたりまで身体が地面に沈んだが、それがなんだというのだろう。
「セイ……おにーちゃ……」
幼女が安堵の表情で、広げた両腕を降ろした。
「セイクリッドのばかああああ! 倒れっぱなしだから死んだのかと思ったじゃないのおお!」
泣き笑いつつ魔王様は恨み節だ。こちらの打ち合わせとは違う単独行動をしてくれたおかげで、作戦のいくつかは水泡に帰したが……敢えて言おう。
結果オーライと。
「お二人とも、お待たせして申し訳ございません」
そっと膝を着いて俺はニーナの手の甲に口づけすると、立ち上がって振り返る。
若々しく自信に満ちていた青年は、今や凶暴な魔族とも変わらぬ形相を浮かべていた。
「なんだ、まだやろうってわけ? あんたじゃ相手になんないって、もうわかってるっしょ? どきなよ」
「そうは参りません。それに三度目の正直という言葉もありますし。さて、ニーナさん……」
マーゴと対峙したまま、俺は幼女に問う。
「貴方はどうしたいですか。みんなのために優しい王様になりたいですか……それとも……」
首だけ振りかえると、幼女は仰向けに倒れた姉を抱き上げ、ぎゅうっと抱きしめていた。
「ニーナは……ニーナはぁ……」
泣き出しそうな幼女の頭を、ステラはそっと優しくなで上げる。
言葉には出さないが、ステラもニーナに委ねているようだ。
ニーナの好きにしていい。ニーナの思うままに生きてほしい。
エメラルドグリーンの瞳が俺を見つめてから、視線をステラのルビー色の瞳と交わらせた。
「ニーナはやっぱり、ステラおねーちゃの、えーせー妹さんですからぁ!」
俺はゆっくり前に向き直る。マーゴにではなく、ステラとニーナと、そして自分自身に向けて宣言する。
「その言葉を待っていました」
神官服のコートに手を掛けて、俺は全てのしがらみを脱ぎ捨て己を呪ってでも目の前の男を倒すと決意した。無論、ニーナの勝利はニーナ女王誕生を意味するのだが、そんなことも関係ない。
そう、姉妹の絆の尊さの前に、王位継承など関係ないのである。
今回のシーズンはコミカライズ版一話のネームを拝見したことで生まれました
未読の方はコミックウォーカーやニコニコ静画でチェックしてみてね☆




