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ぅゎょぅι゛ょレょゃぃ

 ニーナの背中で赤いチューリップが花開く。


 幼女の欲望がベリアル同様、全員の目の前で映像となって展開した。


 場所はどこかの花畑である。色とりどりの草花に囲まれて、映像の中のニーナは顔を上げた。


『わあああぁぁ……』


 エメラルドグリーンの瞳をキラキラさせて、幼女が見上げた先に立っているのは――


『セミーンだぁ』


 ニーナは幸せそうに目を細めた。


 先日、天寿を全うしたセミーンとニーナの二人きりの花畑。


 俺だけでなくステラもアコもカノンも、マイペースなキルシュでさえも目が点になった。


 パピメリオは警戒するように身構える。


「か、完全体のセミーン……いったい、どうしてこんなところに……」


 幻影とはいえ、その姿を見ただけで蝶魔族をおののかせ、幼女を夢中にさせるセミ男。戦わずして退けたのは幸運だったのかもしれない。


 現実のニーナは目をこすって眠そうにあくびをした。


 彼女の背中でさらにチューリップの花弁が膨らむように大きくなる。


 夢の世界のニーナがパッと挙手した。


『しつもんです。どうしたらセミーンみたいに、かっこよくなれますか?』


 セミーンは腕組みして頷いた。


『なんでも好き嫌いせず食べるといい』


 オリジナルのセミーンとも口調がどことなく違う気がするのだが、ニーナは両手を万歳させて『はーい!』と、元気に返事をする。


 カノンがめがねを曇らせた。


「ニーナちゃんのセミ好きはよっぽどでありますな」


 アコに動きを封じられたまま、ステラが吼える。


「吸って! ニーナのそれは吸って!」


 言われたパピメリオも「え? ええ?」と困惑したのだが――


「そ、そうだね。うん、セミーンの信奉者からその想いを奪って、ぼくの勝利を確定させるんだ」


 夢の中のニーナはセミーンの背中に乗って、空を自由に飛びまわった。


『わああ! ハーピーよりもはやぁい♪』


『ミーンミンミンミンミン!』


 パピメリオのストローが、二人の甘い時間を吸い上げた。現実のニーナは大きなあくびをもう一度すると、そのまますやーっと眠ってしまった。


 月下蝶がゲフゲフとむせる。


「なんか幼女の可愛い夢だから美味しいとおもったのに、むちゃくちゃ苦いんだけど。なんなんだよまったくもう」


 ベリアルとニーナが倒れ、残るは俺とステラとポンコツ三姉妹となった。


 しかも勇者一行は身動きをパピメリオに封じられている。最初から頭数に入らないどころかステラの動きまで封じてくれては、戦力外どころの騒ぎではない。


 宙に浮いたまま、パピメリオがステラに視線を向けなおす。


「それじゃあ赤毛のおねーさんで口直しといこっかな。あと、おにーさんは別にいいや。なんかどす黒い感じがするし」


 ステラがぶるりと震える。


「や、やだ……みんなに見られるなんて……たすけて……セイクリッド」


 三度目の鱗粉がパピメリオから放たれる瞬間――


 俺は空中のパピメリオめがけて中級風刃魔法を放った。


「ムダムダ! それくらいの魔法じゃ、ぼくは倒せないよ」


 渦巻く風の刃はパピメリオを包んだが、その風に身をゆだねるようにして、細かな蝶の群れに姿を変えた魔族は自ら吹き飛ばされて拡散した。


 再び群れが一つに集まって少年風の姿に戻る。


「それにしても、赤毛のおねーさんをみんなして守ろうとするなんて、いったいどんな秘密があるのかなぁ」


 ステラを羽交い絞めにしたまま、アコが吼えた。


「ステラさんはすっごくいい人だから、秘密なんてないよ! っていうか、動けなくするのやめろおおおおおお!」


 アコが気合を込めると、彼女の胸元の勇者の証たる聖印が光輝いた。


 直後、ステラが暴れだす。


「熱ッ! ちょ! アコやめて! それなんかすごくあたしに効くから!」


 勇者の中で燃え上がりかけた聖なる心の炎が、ステラの苦しむ姿にしゅんっと鎮火した。


「ご、ごめんステラさん。ステラさんを傷付けるつもりなんてなくて……ああ、ボクはなんておろかで無力なんだ」


 珍しくアコが落ち込んだ。なるほど巨乳を押し付けられて力が出なかったというよりは、魔王ステラはアコの聖印によって力を弱められているとみるべきか。


 パピメリオが溜息をついた。


「じゃあさぁ赤毛のおねーさんの欲望を、みんなで鑑賞会してみようじゃない?」


 再びパピメリオが羽を蠢かせ、鱗粉をステラめがけて放つ。


 もはやここまでか。


 俺はステラとアコを背に庇って鱗粉の直撃を受けた。


「このような毒蛾の粉など、受けきってみせましょう」


 俺は全身に解毒魔法を循環させた。


 鱗粉と相殺していくのだが、パピメリオは「ふっ」と鼻で嗤う。


「ムダだってば。まあ、考え方はよかったけどね。ぼくの出す鱗粉の勢いのほうが、おにーさんの魔法を上回ってるみたいだよ」


 俺の体は次第に鱗粉に包み込まれ、力が抜けて立っていられず地面に膝を屈した。


 ステラが首を左右にぶんぶん振って声を上げる。


「だめぇッ! セイクリッドの欲望は世の中に公表しちゃダメな類のやつだから! ニーナがニーナでニーナだからああああああああ!」


 アコも「ろ、ろろろ、ロリコンパラダイスなのセイクリッド!?」と目を白黒させていた。


 キルシュはといえば「まあ、妄想するだけなら犯罪じゃないですし」と、まるで俺がダメ人間とでも言いたげだ。


 背中から何かがぞわぞわと生えるような感覚がおぞましい。


 と、カノンが声を上げた。


「え……セイクリッド殿の背中から……はうぅ!」


 何が生えたというのだろうか。相手が蝶なら食虫植物でも生えてくれればいいのだが、なにぶん自分の背中のことなのでわからない。


 先程まで悲鳴を上げていたステラたちも、その表情から焦りや毒気のような感情が、まるで洗い流されたように俺の背中に視線を向けた。


 パピメリオにいたっては、俺を追い詰めているはずなのに、その顔が恐怖に歪む。


「あの、みなさん、私の背中に何が……」


 カノンが瞳を希望に輝かせた。


「セイクリッド殿は、大神官なのでありますな」


 ステラもそっと頷いた。


「その背中のそれ……大神樹の芽よね?」


「はい?」


 自覚はないのだが、俺の背中には花ではない、なにか別のものが生えているらしい。


 そして、芽と思しき何かは俺を包むように天高く枝葉を伸ばしていった。


 アコがぽつりと呟く。


「セイクリッドの欲望が……解き放たれるんだ」


 ステラたちはてっきり俺からニーナが山ほど飛び出してくると思っていたようだが、俺の欲望のイメージは大神樹に姿を変えて、火山の赤い山肌や荒れ野を、緑豊かな肥沃の大地へと染め上げていった。

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