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秘密の道具でデコデコレーション

 キルシュが寝ている間に、彼女を説得するべく俺は方策を立てることにした。


 とりあえず聖堂の長椅子に横たわらせる。


 スヤスヤと寝息を立てているのも今のうちだろう。目が覚めれば、再び俺に暗殺という名の正面突破を図ってくるのは火を見るよりも明らかだ。


 ステラが腕組みしながら顔を……というか、キルシュの胸をのぞきこんだ。


「ねえ、神様って不公平だと思わない?」


「何がですか魔王様」


「どうして私とカノンだけ……あ! なるほどそういうことね。きっと魔法の才能に反比例するんだわ」


 思えば神官見習いのカノンも人間ながら、魔法力の潜在値は高かった。


 ステラは指さし、キルシュの胸をプニプニツンツンと突く。


「つまり、この子は魔法は苦手とみたわ!」


「ベリアルさんはアレで上級爆発魔法を使うことができますよね?」


 赤毛の少女の尻尾がビクンッ! と跳ねるように立つ。


「じゃあ関係ないっていうわけッ!? 発展途上にあるとはいえ、現段階でももう少しその……手心を加えてください神様!」


 こちらにお尻を向けてステラは教会奥の大神樹の芽に祈る。


「神頼みも結構ですが、まずは暗殺者をどうにかしましょう」


「そんなの簡単よ。いつも通り、転移魔法で最寄りの街にでも送っちゃえばいいじゃない」


 くるんと振り返りスカートの裾をふわりと花弁のように広げて、魔王様は「ぷぷーそんなことにも気づかないなんて、大神官も衰えたわね」とドヤ顔だ。


「二つほど問題がありまして、転移魔法は相手の同意が必要なわけです」


「あれ? そうなの?」


 俺は溜息交じりに大神樹の芽に視線を向けた。


「魔法力を増強して転移魔法を強化し、無理矢理どこぞの大神樹の芽がある付近に飛ばすことは可能ですが……」


「ならいいじゃない? やっちゃいなさいよ」


「恐らくキルシュさんは、この“最後の教会”を蘇生地点に設定しているかと」


 ステラの尻尾が?マークの形になった。


「つまりどういうことなの?」


「仮に王都に送り返しても、魔物と戦ってわざと敗北して、ここに戻ってくるわけです」


「あ! じゃあずっと魂を大神樹の芽に留めておくと、天に召されるんじゃないの? そういうシステムよね?」


 言われてみればその通りだが――


「あのアコさんやカノンさんを、律儀に毎回復活させている私に、そのような事ができるとお思いですか?」


 見殺しにしても罰則があるわけではないのだが、寝覚めが悪いのはいただけない。


 俺は咳払いを挟んで続けた。


「というわけで、キルシュさんには私の事を諦めてもらい、納得の上で家族の元にお返ししたいのですよ」


 オタクのお子さん、暗殺者には致命的に向いていませんよという一筆も添えて。


 ステラは胸を張った。


「わかったわ! そういうことなら協力してあげる。けど、この貸しは高くつくわよ」


「でしたら、王都のカフェにリベンジはいかがでしょう。次こそは美味しいコーヒーをご馳走しますよ」


「乗ったわ! それで手を打ちましょ。えっと、ともかくキルシュが暴れないようにすればいいのよね」


「ええ。落ち着いて話合いさえできれば、説得には自信がありますから」


「ちょっと待っててね。使えそうなものを探してくるわ」


 尻尾を左右にフリフリさせて、上機嫌で魔王様は一旦居城へと戻っていった。




 十分後――


 ベリアルが巨大な荷車いっぱいに拷問器具を山盛り満載させて、正面口から聖堂内に入ってきた。


 馬車馬のように女騎士はカートを引く。


「す、ステラ様、このような道具をいったい何に……」


「セイクリッドが、どうしても持ってきて欲しいっていうから」


 ベリアルの隣でステラが頬を赤らめた。


 ちなみに荷台にあったものをざっとみた所――




 赤い荒縄、蝋燭、アイマスク、三角木馬、張付台、刷毛のようなものがついた水車、首輪とチェーンで繋がった黒の本革製ハンドカフス、ボール型の口枷、伸縮性のあるバンド付きのフック、鍵付きの下着のようなもの、ステラの前腕ほどもあるガラス製のシリンジ、飴色のボディーストッキングなどなど。


 細かく列挙すればキリがないが、ともあれそういった類いのものが山盛りだ。




 ベリアルが俺をチラリとみてから、すぐに視線を背ける。


「くっ……この……変態が! このような呪いの装備群で、い、いい、いったいなにをしようというのだ? というか、わたしにさせようというのだッ!?」


 俺は息も荒い上級魔族をスルーして、ステラに確認した。


「せいぜい縄があれば十分だったのですが……どこからどうしてこのようなものを?」


「お父様の“秘密の部屋”からよ! 拘束具らしいのだけど、わたしには使い方がわからないから、適当にベリアルに見繕ってもらったの。それにしても、秘密っていったいなんなのかしら?」


 なんなのでしょうね。はっはっは。心の中だが乾いた笑いしか出ない。


 俺は視線を褐色肌の美女に向け直した。


「なるほど、ベリアルさんのセンスでチョイスしたわけですね……あ、ベリアルさんが遠くへ……遠くへ行ってしまいますよ。止めなくていいのですかステラさん?」


「ちょっとベリアル! 使い方を教えてくれなきゃ困るじゃないの! 待って! 待ちなさいってば!」


 ベリアルは「しばらくお暇をいただきます魔王様!」と声をあげつつ赤いカーペットを駆け抜け、魔王城の中へと逃げていった。門番の仕事を辞する覚悟か。


 壮絶な自爆である。


 そして残される俺と魔王と秘密道具たち。


 神聖なる教会の聖堂に、山となった前魔王のコレクションが異様な貫禄と雰囲気を醸しだす。


「こういったモノは焼いて供養してもいいかもしれませんね」


 ステラが目を丸くした。


「え!? どうして焼かなきゃいけない?」


「焼いて清めるという方法もあるわけです。が、ひとまず赤い縄でキルシュさんの手足をしばっておきましょう」


 長椅子に横になったまま、黒髪の少女は「う、う~んむにゃむにゃ、もう殺せないですよぉ~」と物騒な寝言を呟いた。


 ステラに手伝ってもらって、俺は縄で暗殺者の手首と足首をそれぞれ縛り上げる。


「ねえセイクリッド、このアイマスクもいいんじゃないかしら? 暗いと心が落ち着くし」


「そうですね。ではお願いします」


 ステラがアイマスクをキルシュに装備させた。


「あ! このボールのついてるやつ、口にくわえさせるんじゃない? いきなり舌を噛まれたりしても困るし……よしっと、ちゃんとついたみたい。まずはこちらの言い分を聞いてもらって、キルシュが落ち着いたら外してあげましょ」


 父親の愛した秘密道具を知ってか知らずか……恐らく知っていれば、こんなに冷静には使いこなせていないだろう。


 無意識のうちに、ステラは正しい使い道を選択していた。


 長椅子に横になり、目隠しと口枷をされて両手両脚を赤い縄で拘束されたキルシュからは、犯罪の二文字しか連想できない。


「アロマキャンドルかしら? 初級火炎魔法っと」


 指先から小さな火を出して蝋燭を灯すと、ステラは四つほどキルシュの頭のそばや足下に配置した。


 さながら、長椅子は生け贄の祭壇の様相をていしてきたな。


「これで落ち着いてお話できそうね」


「ええと……まあ、よいのではないでしょうか」


 ステラは「あっ! 大事なことを忘れてたわ」と、声を上げる。


 まさか……刷毛のついた水車を使おうなどとは思うまいな。


「ちょっとキッチン借りるわね。紅茶の準備をしておくから。普通に会話できるようになったら、あとは美味しい紅茶とお茶菓子でもてなしてあげれば、きっと説得もスムーズに行くはずよ」


「それはよいお考えかと」


 タッタッタと軽い足取りでステラは聖堂から、司祭の私室に移動する。


 俺は胸をなで下ろした。と、開け放たれっぱなしの正面口から、風が舞い込んで蝋燭の火を揺らす。


「風が出て来たようですね」


 蝋燭の火が消えるのは構わないが、外の埃が入りこんできては困りものだ。


 正面扉を閉じる。


 まだキルシュは目を覚まさない。


 さてどうしたものか。ステラには悪いが、さすがにアイマスクやら口枷はまずいだろう。


 暗殺者の元に戻って、俺が口枷を外そうとしたその時――




『たっだいまー! セイクリッド! お待ちかねのアコちゃんタイムだよ!』


『セットで神官見習いはいかがでありますか? スマイル0ゴールドキャンペーン中でありますよ!』




 (頭が)ハッピーセットがやってきた。

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