表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/366

聖下、再び

 聖堂で独り神に祈りを捧げていると、いつものごとく大神樹の芽が光り輝いた。


 蘇生を求める魂ではなく、どうやら教皇庁から“転送”されてきたもののようだ。


 光は人の形に集まると、赤いカーペットの上に美しい彫像のような女性の姿となって現れる。


 最上級を意味する純白に金縁の聖衣ローブに身を包んだ教皇――の、ゴーレムである。


「セイくんさぁ。ちゃんとおつとめしてるぅ?」


 いきなり馴れ馴れしいのだが、このゴーレム素体を遠隔操作しているのは何を隠そう、俺の姉君であった。


 そっとひざまずいてこうべを垂れる。


「教皇聖下におかれましては、このような辺境に玉体お運びなされま……」


「カタッ苦しいのはいいから、ちょっとねえセイくんに相談があるんだけど。ほらほら立って! 顔上げなきゃ見られないでしょ?」


 聖衣の下からヨハネは一枚のファイルを取り出した。開くと中に金髪に青い瞳のしとやかそうな少女が、そっと椅子に座ってこちらに微笑みかける姿が写されていた。


「写真集作れちゃうような美少女よねぇ」


 ヨハネは自慢げに笑ってみせる。いったいどこのご令嬢だろうか。


 整った気品のある顔立ちだ。大きな瞳はやや垂れ気味で、どことなくおっとりとした印象を受けた。母性的というか女性的というべきか、この“最後の教会”に訪れるどの女性たちにもない、品の良い包容力と柔和さを感じさせる。


 が、相応に幼さも覚えた。年の頃なら15、16歳といったところか。ステラやアコたちと同じくらいだろうに、百合の花のようなしおらしさから年齢以上の大人な印象だ。


「こちらの淑女がどうなさったのでしょう?」


 教皇は俺の胸にファイルをぐいっと押しつけると、やれやれといった顔で告げる。


「どうもこうもないわよ。本当にセイくんって王宮に興味ゼロなのね。第十三王女のクラウディアちゃんよ」


「それは失礼いたしました」


 俺は姉ではなく、写真の人物にそっと頭を下げる。


 するとヨハネはうんうんうなずいた。


「さっそく写真相手に尻に敷かれちゃうなんて、本当にドMなんだから。それじゃあ! 結婚……いってみっか?」


「はい?」


「良かったじゃないのセイくんさぁ。王族の仲間入りよ?」


「私の理解力が足りないのでしょうか。聖下の仰っていることの意味が、今一つわかりかねるのですが」


 俺の隣に立って肩をポンポン叩くと、ヨハネは「だーかーらー!」と前置きしてから口元を緩ませる。


「セイくんとクラウディアちゃんが結婚するの! 挙式は教皇庁でズバッ! と大々的にやってあげるから、全部ヨハネにお任せよん♪ 式の日取りが決まったら、盛大に説法ライブでアゲアゲなセレモニーにしてあげるから!」


「また勝手に約束を交わしましたね……姉上・・


「どうして不機嫌なのよ? もしかして、他に好きな女の子とかいたりしちゃうの?」


 イタズラっぽく笑う教皇だが、こちらとしては一向に笑えない。


「仮にもし、婚礼などということになった場合、この過酷な“最後の教会”の任務は誰がこなすというのですか?」


「ん~なんで急にそういうこと言い出すかなぁ。ここに任地が決まった時とか、あんまり乗り気じゃなかったクセに。っていうか人事権はヨハネが持ってるんだから、適当に引き上げてもらっちゃっていいわよ。ほら、開発部の記憶水晶だっけ? あれをおいて置けば問題ないんだし」


 ヨハネは銀髪を指でつまむようにしていじりながら、青い瞳でじっと俺を見据える。


「今さら王族と縁戚関係にならずとも、十分な権力ちからをお持ちでしょうに」


「ヨハネは心配なだけなの。セイくんってほら、アレじゃない……世間様にはちょっと言えないっていうかもう、ぶっちゃけロリのコンでしょう?」


「何を根拠にそのような……誤解があったことを誠に遺憾に存じます」


 教皇は人差し指を立てて「チッチッチ!」と左右に振った。


「ニーナちゃんのこと好きすぎるの、見ているこっちがハラハラするんだから! だからセイくんは早く身を固めて、自分の娘を溺愛するような素敵なパパになるんだよぉ!」


 語尾が完全に脅迫です本当にありがとうございました。


 眉一つ動かさず、俺は即答する。


「お断りいたします」


「ヨハネの言うこと聞けないって言うわけ?」


「これ以上、私を左遷しようにも行かせる先もないでしょうし。まさか教皇聖下ともあろうお方が、清廉潔白の大神官を罰することなどあるでしょうか」


 教皇は腕組みをして首を傾げる。


「ん~~セイくんさぁ……これは教皇からっていうよりは、家族として姉として言ってるんだよねぇ。まあ、自由恋愛には賛成よ。好きな人と結ばれるべきだと思うの。だけど犯罪は良くないわ。セイくんが早まったことをする前に、未然に犯罪の芽を摘むのも姉の使命だと思うわけ」


 今回はずいぶんと食い下がるな姉君よ。


「そもそも婚姻などは相手あってのことです」


「それなら大丈夫! クラウディアちゃんはとーっても良い子よ! セイくんのことに興味しんしんみたい。最も危険な前線で教会を守る信仰の守護者様って。あははは! セイくんやるじゃないの! この天然ジゴロ神官! スケベ人間! 女ったらし! ロリコン!」


 おい殺すぞ……おっと、つい本音が口から暴発しそうになった。目を丸くして教皇は締めくくる。


「早く甥っ子か姪っ子を抱っこしてあげたいわぁ。もう祝福しまくっちゃうんだから! 良い名前も贈るし、チューだってしちゃうし!」


 実に気の早いことだ。


 とはいえなるほど、相手は俺の噂などを人づてにしか聞いていないようだ。実像は小さいのに、大きくなった影を見ているに過ぎない。


 この影は大きければ大きいほど、実際に会った時の違いに落胆するものと相場が決まっている。


「わかりました」


「じゃあ、さっそく式の準備にかかりましょう!」


 ゴーレムの馬鹿力な腕が、俺の右手首を折る勢いで掴みかかってきた。


「お待ちください。性急すぎます。人間同士なのですから、まずは会って話してみないことには……」


 スッと俺の右手を解放して、ヨハネはパンッと胸の前で手を打った。


 なにやら錬金術でも発動しそうな動作だが、次に彼女が口走ったのは、ある意味こちらの思惑通りというべきか。


 いや、もしかしたら俺は乗せられてしまったのかもしれない。


 最初に無茶な要求をしておいて、こちらに敢えて妥協案を提示させるのだ。


 誰に似たのか。こういうところは姉弟だと、我ながら思う。


「じゃあまずはお見合いね! セッティングは任せてバシッとやるから! それじゃあ覚悟しておきなさいよ! アディオース!」


 ヨハネは実に満足そうな笑みを浮かべて、転送でゴーレム素体を教皇庁に戻すのだった。


 騒がしい姉の来訪から解放されて、ホッと俺が安堵したのもつかの間――


 聖堂の正面口の扉が少しだけ開いており、赤い瞳がじーっと俺を見つめていた。


 魔王ステラその人である。きっと彼女はこう言うのだろう。




「話は聞かせてもらったわ! あたしもその“お見合い”とかいうのに同行させなさい!」




 ――と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ