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死亡フラグのデスゲーム

 井戸端対策会議in魔王城門前。


 おおむね、どうするか打ち合わせが終わったところだ。


 俺とステラと門番のベリアルが、城門前にずらりと並ぶ。


 教会が記憶水晶セーブポイントによって、完全に乗っ取られてから三十分が経過した。


 うかうかしていると、ニーナが起床して教会に遊びにやってきかねない。


 俺たちに残されている時間は、残りわずかだ。


 鎮座する青い水晶を見据え俺は口を開いた。


「まさに自立防衛型の名に恥じない記憶水晶ですね」


 隣で魔王が俺を横目に睨む。


「誰かさんが壊せって言うからこうなったのよ!」


「別に指示した覚えはありませんよ」


 会議の八割はこういった水掛け論である。作戦はおざなりだが、魔王と神官ということもあって責任のなすりつけあいには余念ない。


 普通、逆だよね。


 さて、ここで記憶水晶のスペックをおさらいしておこう。


 火力はシンプルだが魔法力を凝集ぎょうしゅうし、照射する火線――さしずめ魔力粒子砲といったところか。


 最強クラスの防御魔法三層重ねのうち、二層を貫通し最後の一枚でようやく止まった威力は、大神樹の芽から魔法力供給を受けてのものと推察された。


 聖堂の赤絨毯を踏もうものなら問答無用で“撃って”くる。


 専守防衛という教会の理念を体現してか、記憶水晶側から積極的にバカスカと攻撃してこないのは救いだが……。


 ともあれ魔王をかばったのが気に入らないらしく、俺も敵勢力に認定されてしまったようだ。


 俺から仕事だけでなく命まで奪おうというのか無機物クリスタルめ。


 そもそも感情など持ち合わせていないだろうに、寄らば撃つ。と、青い水晶は静かに光をたたえたままだ。


 攻撃もやっかいだが、防御も厚い。


 ステラの極大爆発魔法に耐えたのも、水晶の背後にある大聖樹の加護あってのこと。


 その光の力を帯びた教会の建物によって、入り口以外すべて魔法防壁に囲まれているようなものだ。


 あ~~王都の大神樹爆発しないかな……管理局と開発部もろとも。


 ベリアルが一歩前へ出た。


「いや、やはりここは……この命を賭してでも」


 太く低い声が荒野に哀しげに響く。


 ステラが巨体にしがみついた。


「あなたじゃ無理だから! 犬死にっていうか熱線に焼かれてステーキにされちゃうわよ!」


「GRRRRUUUUUUUUUUUUU……」


 小声でうめくようにベリアルは吼える。声は太いが勢いは仔猫のようだ。


 俺は顔を上げてベリアルに告げる。


「まあ、元はと言えばこちらの落ち度なわけですし、この場は私たちに任せてください」


「人間よ……魔王様を頼む」


「ええ、承知いたしました。彼女が傷つくようなことは絶対にさせません。この身を賭しても守ると誓います。攻撃は苦手ですが神官は防御と癒やしが得意ですから」


 途端にステラが俺の顔を指さした。


「ちょ、ちょっと! いっぱい傷ついてるんだからね! 心ない神官のさりげない一言に! マイナス15点じゃなくて、100点ちょうだい!」


「はははステラさんの笑顔はいつも100点満点ですよ」


「ええそうよね笑顔が素敵よねぇあたしって……セイクリッド目が死んでるじゃない! 欠片かけらも本心じゃないでしょ?」


「私は元々こういう顔です」


 魔王はむぅとうつむいた。


「ニーナがいる時はあんなに優しいのに……あなたこそ素材が良いんだからもっと笑顔を絶やさず生きなさい魔王命令よ」


 常に笑っている人間がいたら……逆に怖い。


「小さな子には優しくしてあげるものでしょう。貴方はお姉さんなのですから、しっかりなさい」


「はい……って! ついうなずいちゃったじゃないの! もー! お姉さんとかお姉ちゃんとか言われると弱いんだからぁ」


 魔王ステラのこういう素直なところ、可愛くて嫌いじゃ無い。


 まあ、好きと言ってしまうのは立場上よろしくないので、適度な距離感はこれからも保ち続けていこう。


「では、あの忌々しい開発部の作り上げた無機質な欠陥製品をバラバラに砕いてやりましょう」


 ステラは軽く握った右の拳を開いた左手にパンッ! と叩きつけた。


「ええ、やってやろうじゃない。今日が魔王軍の……いいえ、人間も魔族も……この世に生きるありとあらゆる生命いのちが立ち上がる記念日よ! 石ころなんかクソ食らえだわ!」


「あまり汚い言葉は使わない方がいいですよ。雑魚よわく見えます。それに人間の生存権を脅かす魔王が命の尊さを訴えかけるのはいかがなものかと?」


「今のぶっちゃけ、ノリで言ってみただけだから! かっこよかったでしょ?」


 子犬のように尻尾をブンブン振って魔王様は得意げに胸を張った。


 身構えて、二人で呼吸を整える。


「いつでもいいわよセイクリッド!」


「六十二秒もあれば充分ですね。さて、ちょっと教会内の様子でも見に行きましょう」


「ちょっと見に行って帰ってこない死亡フラグ多いからやめて!」


 ピアノの連弾をするように、俺と魔王ステラは同時に動く。


 作戦は至ってシンプルだ。


 俺が防いで魔王が壊す。


 まず、俺が前に出て赤絨毯に踏み込んだ。正面から魔力粒子砲が連射される。


 それを上回るペースで防壁を張り続け、肉薄したところで俺の背後からステラがジャンプした。


 俺の肩を踏み台にし、ふわりと宙を舞うステラ。


 白い布地がスカートの中に眩しく見えた。


 たぶん見られたと気づいていないだろうが、あとで「今日の貴方の下着の色を当ててさしあげましょう。これがメンタリズムです」と言う遊びができそうである。


 さて、先手せんて、地上から俺が迫り空からステラが強襲した。


 これに対して後手ごて、石ころの反応は――


 跳んだステラを打ち落とそうと、射角を調整したのである。


「極大雷撃魔法ッ!」


 どちらがはやいか勝負は一瞬――


 魔王の放った撃ち抜く雷撃と記憶結晶の熱線は、ほぼ同時にお互いに到達した。


 ただし、魔王には俺が生み出した三重の防壁があった点だけが違い、その違いは決定的な差となる。


 ほとばしる雷撃に砕け散る青い結晶。稲妻が聖堂内を暴れ回った。


 そして――


 直撃ではないが、のたうつ稲光は俺をも穿うがち、熱と衝撃が全身を駆け抜けた。


 着地と同時にステラが握った拳を振り上げる。


「やったわセイクリッド! 作戦通りばっちり……え? なんで黒焦げなの? あなた防御は大丈夫って……心配いらないから全力の魔法で攻撃しろって!?」


 ステラは俺の願い通り、きっちり忌々しい水晶を砕いてくれた。


「お約束したでしょう。貴方に傷一つつけないと」


「あ、あたしだって大丈夫よ! 防壁なんて二枚で良かったのに、なんで三枚全部こっちに張ってくれてるの? バカバカバカ! 人間なんて脆いんだから、そんな無茶したら死んじゃうじゃない! 誰か助けて! ここに回復魔法を使える神官の方はいませんかッ!?」


 いるさっ、ここにひとりな。


「誰かッ! 誰かあああああああああッ! 死んじゃうセイクリッド死んじゃうからああ!」


 どうやらステラは回復魔法はからっきしの完全攻撃特化型魔王のようだ。


 俺は赤い絨毯の上に膝を着く。


 泣きながらステラが俺を包むように抱きしめた。


「あなたがいなくなったら……えっぐ……あたし……ううっ……ニーナもっ! あうぅ」


「あんまり強く抱きつかないでください。死んでしまいますよ。ああ、いや私を倒す絶好のチャンス到来ですね魔王様」


「バカなこと言わないで! 死なないでセイクリッド!」


「私は死にませんよ」


 ステラが「へ?」と、少々間抜けな声を上げた。


「完全回復魔法」


 これぞ大神官だからこそなしえる治癒の力。


 どれほどの死の淵にたたされていようとも、即座に全回復ができるのである。


 スッと立ち上がると俺は溜息をついた。


 聖堂内の講壇や椅子などは大神樹の芽の加護で護られたが、魔王の全力攻撃を受けて耐えきれず砕け散った青い水晶は、砂利をばらまいたように礼拝堂のそこかしこに四散していた。


「ずいぶん派手に粉々にしましたね。掃除を手伝ってくださいますか魔王様?」


 今朝、使わず立てかけておいた清掃用具ほうきとちりとりを手にすると、ステラが顔を真っ赤にして吼えた。


「あたしの涙返してよバカアアアアアアアアアア! 恥ずかしいこと言いまくっちゃったじゃないのおおお!」


「こんなにも魔王様に思われているなんて、私は幸せな人間ですね」


「ううううっ! 思ってないし全然思ってないし! に、ニーナよ! ニーナが寂しがるって思っただけで、あたしはそんなんじゃないんだからああああ! メッチャ傷ついたからベリアルに言いつけてやる!」


 泣きながら尻尾をブンブン振り回して、ステラは教会から走り去っていった。おいおい配下に言いつけるな首領だろ魔王。


 一瞬ベリアルと目があったが、ステラが泣いているからか怒りのオーラで空気が歪んでゴゴゴッている。ゴゴゴ系女子ベリアルさん。


 はぁ……これは誤解を解くのに骨が折れそうだ。

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