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忘却?

遥が階段を降りていく音が聞え、階下から談笑の声が聞こえ出す。

なんとなく寂しい気持ちになりながら、本棚からパタリ○を引っ張り出そうと

手を伸ばした時、本棚の間に何かが挟まっているのを見付けた。

良く見ると、それは手紙の束。

何気なく引っ張り出してみる。

「若宮 遥様」と宛名書きされているその封筒を裏返すと、

「博隆より愛を込めて」

と書かれていて思わず吹き出す。

芳野先輩からのラヴレターかよ…

まあ、俺が西村から貰ったラヴレターの宛名の

「愛しのショウ様へ」

ってのもアレだが、女の子が書いたと思えばまだ可愛いモンだ。


っと、こんな事してちゃマズイよな。

元のところに戻して、と…


ピンポーン!


また誰か来たのか?千客万来だな今日は…

「ただいま〜」

「あら、お帰りなさいあなた。」

「お帰りパパー!」

おっと、おじさんが帰ってきたのか。

「あ、お邪魔してます。始めまして!」

芳野先輩の爽やかな挨拶が聞える。

時間は午後六時、そろそろメシだよな…


現在時刻、午後七時。

階下からは楽しげな談笑の声が絶えない。

どうやら芳野先輩も食事していく様だな。ってか、もう食べてるようだ。

「おかわりいかが?」

…おばさん、ちょっと残酷だよそれ…

どうも俺はうっかりすっかり忘れられている様だな…

ガチャ

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「…沙里、か」

「ごめんなさい、ママもハル姉も忘れっぽいから、

 お兄ちゃんの事忘れてるみたい…」

あ、やっぱり。

「そっか、じゃあ俺帰るわ。今、皆リビングに居るんだよな?」

「うん…」

「オッケー、じゃあ気付かれない様に出られるな。内緒だぜ、沙里」

「でも!お兄ちゃんが可哀想…」

両目に涙を溜めている沙里。

俺は沙里を抱っこして涙をハンカチで拭いてやる。

「良いんだよ、沙里。俺はキミのママにも遥にもいつもお世話になってるからね。

 こんな事位なんでもないから」

「でも、でも…」

「優しいね、沙里は。俺はそんな沙里の事大好きだよ」

「え…」

かあっと赤くなる沙里。

「じゃあ、行くよ。また今度遊ぼうね」

「お兄ちゃん!ちょっと待って」

「ん?」

立ち上がった沙里は俺のほっぺにキスしてくれた。

「お兄ちゃん、沙里も大好きだよ」

「ありがとう、それじゃまたね」


俺はそっと階段を降り、靴を履くと静かに玄関を出た。

あははは、と一際大きく笑い声が弾ける。

ま、こんなもんだろ。

俺は胸を吹き抜ける何とも言えない感覚を持余しながら部屋に帰った。

部屋に入ると何故か涙が溢れ出す。

いや、別におばさんにも遥にも腹なんか立っていない。

っていうか、感謝こそすれ腹を立てるなんてとんでもない。

だけど、この自分でも解らない感情はどうしたら良いのだろう。

「久々に、走るか…」

俺はヘルメットとグローブ、そしてキーを持ち駐輪場に向かった。

愛車・ヤマハDT50にキーを差込み、チョークを引いてキック一発、

ポロン!と軽やかな音と共に一発で始動した。

直ぐにチョークを戻し、軽くアクセルを煽って暖気する。

ヘルメットを被りグローブをして、夜の街へと走り出す。

高校に入ると同時に学校に内緒で免許を取り、

バイトして稼いだ五万円で近所の自転車屋から買った。

規制前のモデルなのでらくらく90km/hは出る。

俺は何となく海が見たくなり、ギアを二段落としてアクセルを全開にした。

この胸の寂寥感とでも言うべき気持ちがスピードで振り切れれば良いと思いながら。


「それじゃ、そろそろお暇します。ご飯ご馳走様でした!」

博隆が爽やかに挨拶し、ソファから立ち上がる。

「でも、遥さんの具合も良くなってて安心しました」

「なんだ、もっとゆっくりしていけば良いのに」

イイ感じに酔っ払ったパパが引き止める。

「あなた、もう九時近いんですから。ごめんね、芳野くん、

 これに懲りずにまた気軽に来てね」

「いえ、とんでもないです、素敵なお父さんとお母さんで羨ましいです」

「芳野お兄ちゃん、また来てね!」

「ありがとう、香奈ちゃん。また来るよ」

「…あら、沙里は?」「二階に居るみたい」

私は博隆を外まで見送る為に玄関を出た。

「じゃあ、遥また明日な」

「うん、ありがとね博隆」

「おやすみ、愛してるよ」

「もう、バカ…私も」

博隆のほっぺにキスをする。

「気をつけてね!」

自転車に跨り帰っていく博隆。

さて、家に入って、と…

あら?沙里が降りてきたわ。

「どうしたの、沙里?怖い顔して」

「…リビングに入って」

「何よ?…泣いてるの?どうしたの?」

「いいから!リビングに入って!!」

泣きながら大声で怒鳴る沙里。

この娘がこんな声だすなんて…?

「どうしたの、沙里!何で泣いてるの?」

ママが驚いて出てくる。パパと香奈もそれに続く。


「ママのバカ!ハル姉の大バカっ!!」

沙里の剣幕に呆気に取られる私達。

「ふえっ…ショウ、ひっく、兄ちゃんの事、ひっく、忘れてたでしょっ!!」

「!あっ!」「いけないっ!!」

うわーん、と泣きながらパパに縋り付く沙里。

ママと私は押し黙ってしまう…

「何だ?どうしたんだ沙里?ショウがどうしたんだって?」

沙里を抱き上げたパパは混乱している。

「ショウ!」階段を駆け上がろうとする私。

「バカ姉っ!ひっく、もう帰ったよっ!ふえーーーん!!」

「何てこと…私ったら…」

ママが両手を口に当てて涙ぐんでいる。

「ショウの部屋行って来る!」

飛び出す私。

バカバカバカバカバカバカ私のバカっ!!!

自分を罵倒しながら夜道を走る。

ショウのアパートに辿り着き、ドアの前に立つ。

電気が消えてる…

コンコン

返事は無い。

コンコン

「ショウ、居ないの…?」

気配も無い。駐輪場を見に行くと、ショウのDT50が無い。

今日はバイト無いよね…

どこかに走りに行ったのかな…

トボトボと歩いて家に戻ると、パパとママが玄関の前に立っていた。


「ママと沙里から話は聞いた。可哀想な事をしてしまったな…」

「ごめんなさい、遥…私が迂闊だったわ…」

しゃくり上げながらママが謝る。

「ううん、私だって同じだわ…どうしよう…」

「沙里の話では、ショウは怒ってないそうだから

 明日もう一度ご飯に呼んで、しっかり謝ろう。な」

パパがママの背中を撫ぜながら言う。

「孤独に耐えて頑張ってるショウくんに、なんて酷い事しちゃったの…」

ママが顔を覆って泣き出してしまう。私も思わず涙が溢れてくる。

沙里は泣き疲れた様で、パパの膝で寝息を立てている。

香奈は沙里の剣幕に驚いて、二階の部屋に引っ込んでしまった。


どうしよう、明日、ショウの顔見れないよ…



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