136 クリスティーネ女王
民で埋め尽くされた道をお掃除団が通れるようにすると、ラーシュは不思議そう。あんなに大反対していた2人が、たった10分足らずで説得に応じたからだ。
「どうやって説得したのですか?」
「察しが悪いな~。クーデターの首謀者は僕だよ? お掃除団も僕が作ったに決まってるじゃん」
「学校も行かず、何してたんですか!?」
「クーデターって言ってるでしょ」
ラーシュがまたうるさくなったので鉄拳制裁。またボエルと娼婦の話をしていたら、馬車はお城に到着した。
出迎えは数人の騎士だけ。その騎士は暗黒騎士団にビビったのか震える声で案内している。でも、フィリップが「かわいいメイドがよかったな~」とか下品なことばかり言うから、ちょっとは緊張が解けていた。
そうして1階にある応接室に着くと、フィリップだけ中に入っていいとのこと。ラーシュたちは反対したけど、フィリップは構わずスキップで入って行った。
ちなみにラーシュたちが止めた理由は、女王にセクハラすると思って。後方から「オッパイ揉んじゃダメ~!」とか聞こえてた。
「おひさ~。オッパイ揉ませて~」
その期待に応えて、フィリップは女王を見るなりセクハラ発言。斜め後ろに立つメガネの男は、怒りのあまり剣に手を掛けたよ。
「よい。下がれ」
「しかし!」
「妾がよいと言っておる」
「は、はっ……何かありましたら、絶対に呼んでください。孕ませられますよ?」
「下がれと言っておろう!」
女王はメガネの男を追い出すと、急に顔を崩した。
「嘘つき……」
そして頬を膨らませてスネちゃったよ。
「その顔、昔よく見たね~。かわいいな~。チューして空気抜いていい?」
「もう! フィリップもちょっとは君主らしくしてよ~!!」
でも、フィリップはあの頃と変わらないままだったので、女王もあの頃の何も知らなかった二十歳のクリスティーネに戻ったね。フィリップはその顔もかわいいとか連呼しながら前の椅子に座った。
「ホント、久し振りだね~。女王様も板に付いてたよ」
「うん。久し振り。フィリップはちゃんと皇帝してるの?」
「してるしてる。いや、してないしてない」
「やっぱりしてないのね」
「やる気ないも~ん」
フィリップが皇帝らしくないので、クリスティーネはため息連発だ。
「そういえば、さっきのメガネって、クリちゃんのお世話してたヤツ? 確かロビンだっけ??」
「そうよ。よく覚えていたわね」
「ギリね。さっきお掃除団と会ったばかりだから、もう1人いたと思って」
「トム君たちに? 怪我とかさせてない??」
「僕がボスだと言ったらすぐに道開けてくれたよ。すんごい驚いてたけど」
「でしょうね。はぁ~……」
クリスティーネはため息ばっかりだ。
「そういえば、さっき僕のこと嘘つきとか言ってたけど、どれのこと??」
「嘘が多すぎてわからないのね……まず、皇帝にならないと言ったこと!」
「そんなこと言ったかな~? まぁその当時は本当になる気はなかったから許して。兄貴が民を何千万と殺すようなことするから仕方なかったの~」
「まぁその件は仕方がなかったと認めましょう。フィリップは優しいからね。でも、大陸制覇はしないと言ってたよね! どうしてやってるの!!」
クリスティーネが立ち上がってビシッと指を差したけど、フィリップは小首を傾げてる。
「僕、そんなこと言ったっけ?」
「言いました~。その時、大陸中の女を制覇すると言ってました~」
「後者は僕っぽい! でも、あと半分ぐらいで達成だな。ゲヘヘ」
「質問に答えてよ~~~」
クリスティーネが泣きそうな顔をするので、フィリップはスケベ顔をやめる。
「大陸制覇もやる気なかったよ? でも、ウチの嫁さんがさ~。勝手に準備して勝手に宣戦布告して勝手に民に言っちゃたの~。酷くな~い?」
「あの悪役令嬢って書いてた人? そんな人を娶るから悪いのよ!!」
「だって~。怖かわいくてオッパイ大きいんだも~ん」
「そんな理由で決めるからでしょ! なんてことしてくれるのよ!!」
久し振りの再会は、フィリップは愚痴でクリスティーネは喧嘩腰。あんなに愛し合った2人なのに、溝が深まってしまうのであったとさ。
クリスティーネは本当はフィリップと思い出話や近況を語り合いたいが、カールスタード王国の女王だ。君主らしく、今回の件を問い質す。
「それで……フィリップはこの国をどうするつもりなの?」
「特には……カールスタード王国の王国ってところを取って、頭に帝国って付けてくれたら、だいたいそのまま」
「はい? それだけ??」
フィリップの答えに、クリスティーネも目が点だ。
「まぁ、軍の縮小とか法律の変更とかやってもらうことは多いけど、誰1人殺したりしないから安心して。犯罪者は別ね」
「待って待って。誰1人殺さない? 他の国では残虐非道に殺して来たんじゃないの??」
「その噂、誰が流してるんだろうね。そのせいでどの国も軍隊が襲って来るから、殺さずに制圧するの大変なんだよ? この国だけ。僕たちを無条件で受け入れてくれたの」
「本当に本当? 私は自分の命と引き換えに民の命乞いをしようと思ってたんだけど……」
「僕がクリちゃんを殺すワケないじゃな~い。そう信じてたから、兵を配置してなかったんでしょ?」
「ううん。フィリップがいたらどっちでも一緒だから」
「なんで信じてくれないんだよ~~~」
戦時中はネガティブな情報が多くなるのだから、信じられなくなるのも当然。特にフィリップは嘘ばかりつくのだから……
フィリップがブーブー言っていたら、クリスティーネが謝罪してこの話はおしまい。早く戦後処理をしたいんだって。
「さっき言った通り、帝国のカールスタード州ってことにしてくれたら、だいたいオッケーなの」
「君主は? 女王や国王は退かないとダメじゃない?」
「しばらくはそのままでいいよ。名称もね。帝国は王の中の王、皇帝だから、変える必要もない」
「本当にそのままなのね……でも、あとからいくらでも変えようがあるってことよね?」
「おお~。クリちゃん、賢くなったね~。さすが女王様だ」
フィリップが拍手したら、ギロッと睨まれちゃった。
「将来的には、ウチでも最近始めた議会ってのをやってもらうよ。できたら民が議員ってのを、多数決で決められるのがベスト。それで君主は政から退くって流れ」
「議会は聞いたことがあるわ。私もやってみたいと思ったけど、貴族の反発が凄かったの」
「まぁ貴族の仕事を奪うことになるもんね~」
「そうそう……そこまでが、私が女王でいられる期間ってこと?」
「ううん。王族の直系は文化として残す。ある程度の利権があれば、未来に残せるはずだよ。予定としては、カールスタード王国の文化全てを伝えるような役割にしたいと思ってるの」
「なんだか本当にほとんど変わらないのね……」
これが流通を牛耳る大陸制覇に変わる、フィリップが考えた大陸制覇第二案。国ではなくなるが、民も王族もそのままそこで生きられるから、他の国でもたいした反発はされなかったのだ。
もちろん、たった100人という少人数で万の兵を倒す戦力と、たった1人で王都を落とすフィリップがいては断れないってだけだ。
「あとは~……ウチが技術協力するから、蒸気機関車を走らせてあげるよ」
「蒸気機関車!? それ、すっごく気になってたの! 何百人も乗せて遠くの地まであっという間なんでしょ??」
「そそ。計画としては、全ての国に繋げるから、雇用も生まれて経済も発展するの。帝国に入るのも悪くないでしょ?」
「うん。血も流さず民が幸せになれるなら、それにこしたことはないわ」
さらにアメまで用意されていては、クリスティーネも脱帽。笑顔で立ち上がり、フィリップに握手を求めるのであっ……
「今晩どう?」
「既婚者が人妻誘うなよ」
でも、フィリップが夜のお誘いをするから、握手はクリスティーネが手を叩いて拒否するのであったとさ。




