132 蒸気機関車
フィリップが皇帝になってから1年と3ヶ月。第一皇子を出産したエステルは乳母に昼間は育児を任せようとするので、フィリップが育メンしてる。
子育てを半分放棄したエステルが何をしたいかというと、皇后の仕事。ただ、フィリップがこの通りだから、皇后の仕事もほとんどないのだ。
なので、エステルは無理を言って皇帝の名代のポジションをゲット。皇帝は軍事関連ぐらいしか大きな権限はないので、エステルは興味がないだろうとフィリップは安請け合いしてた。
それでもエステルは勝手に仕事を探して、議員の妻たちと婦人会なんかを作って裏から議会を操作しようとしているらしい。
それをフレドリクに勘付かれて大喧嘩。フィリップが間に入り、説得してエステルを引かせた。だって、フィリップが裏から議会を操ってるんだもん。
というワケで、エステルがやりたいことはフィリップを通じてフレドリクに指示。いちおうフィリップとフレドリクで話し合って、ヤバイ法律は骨抜きにしていたよ。
何やらエステルは裏で動いているみたいだけど、もう何もできないと思ってフィリップは夜遊び。たまにホーコンやボエルを誘って堂々と娼館に行ってやがる。
ちなみにフィリップは変装してるよ? さすがに皇帝の見た目で行くとエステルにバレるもん。ホーコンはフィリップの紹介した娼婦にゾッコンなんだって。
そんなことをしていたら、エステルから相談があると言われたのでビクビクするフィリップ。どのことがバレたのかサッパリわからないもん。
「ウッラが側室になりたいと言ってますが、どうします?」
「な~んだ~。そんなことか~」
「そんなこと? そういえばお母様から、お父様から女の匂いがすると聞いたのですが、そのことは関係あるのですの~??」
「あるある。ありまくる! その娼婦、紹介したの僕です! 申し訳ありませんでした!!」
エステルにバレそうになったので、義父を売るフィリップ。ウッラの側室入りを許可したら、すぐに逃げてった。
「あの焦りようは陛下も行ってましてね……ウッラ、頼みましたわよ?」
「はい。でも、自信はありません……」
フィリップの女癖の悪さは病気。そんなことを頼られても、困るだけのウッラであったとさ。
ウッラは戦力になれるように、カイサとオーセからフィリップの弱点を聞いたり技術を習得していたけど、3人掛かりでも敗北。
エステルが参戦したら勝てることは勝てるが、滅多に加勢しに来てくれない。4人でスッポンポンなんて恥ずかしいもんね。
そんな感じでフィリップが昼は育児、夜はマッサージ生活をしていたら、朗報が届いた。
「おお! 本物のSLだ~~~!!」
フィリップが発案した蒸気機関車が完成したのだ。でも、フィリップが驚いているということは、最初に手伝った以降は何もしてなかったんだね。
「もうこれ、辺境伯領まで繋がってるの?」
なので、あとのことは全てを任せたフレドリクに興奮して聞いてるよ。
「ああ。2日後に試し乗りを兼ねてダンマーク辺境伯領まで出発する予定だ」
「2日後ってことは~……土日だね? 辺境伯たちに里帰りさせてあげようよ!」
「もう手配済みだ……」
「あ……そうなんだ。あんがと……」
フレドリクが全て手配済みでは、フィリップも感謝しかやることがない。エステルに里帰りできると言いに行っても「なんで知らないのですの?」と蚊帳の外だ。
その日が来たら、フィリップはめげずにウキウキ。一番前の車両に乗って出発進行だ。
帝都の北側に作られた駅には多くの民が集まり、蒸気機関車が動き出すと驚きの声があがる。
その声に押されるように、蒸気機関車は速度を上げて帝都を離れて行くのであった。
蒸気機関車は煙を吐き出しながら颯爽と走る。
「思ってたより遅いね……」
なのに、フィリップは文句だ。この件を一任されていたフレドリクも文句だ。
「これのどこが遅いのだ? 馬より何倍も速いぞ??」
「馬と比べられてもね~……僕のほうが速いし。辺境伯領まで一晩で着いたもん。実質、5時間ぐらいだったかな?」
「あの距離を走ったのか!?」
馬車で10日も掛かる道程を走るヤツなんて想像もできなかったフレドリクはビックリ。フレドリクがこんなに驚いているから、みんなビックリだ。
エステルだけは、そんなフレドリクを見てクスクス笑ってるけどね。
「そんなに驚かなくても……兄貴も走ったら、日がある内に着けると思うよ?」
「さすがに自信はないぞ」
「まぁスタミナの問題もあるか。それでも近場の町ならすぐに着くよ。今度、試してみたら?」
「そうだな……フィリップと話すと、自分がどれほど狭い世界にいたのかと驚かされてばかりだ」
フレドリクもそれぐらいならできそうと納得したところで、フィリップは閃いた。
「そうだ! 雷魔法……なんで僕、蒸気機関車なんか作ってるんだよ~」
「ん? こんな画期的な物を作っておいて、何が悪いのだ?」
「雷ってのは電気って力のことなんだ。その力を使えば、こんなに空気を汚す乗り物なんて必要なかったの。しまったな~」
「つまり、フィリップの頭の中には、蒸気機関車より素晴らしい乗り物があるということか……」
「そそ。モーターなら雷魔法で強力な磁石を作れるから……あ、ダメだ。電気を貯める物がわからないや。兄貴が人力発電しなくちゃならないね。プププ」
「1人で考えて簡潔するな」
フィリップにはフレドリクが世紀末に人力発電する奴隷に見えて笑っちゃった。ただ、次の乗り物の構想が浮かんだので、フレドリクには詳しく説明してみたらある程度は理解してくれた。
「雷とは、そういう事象だったのか……」
「こんな説明で理解できるだけ凄いよ。ちょっと先の話をすると、蒸気機関車を作って、電気で動く機関車を作る。古くなった蒸気機関車を他国に売ってボロ儲けってのでどう?」
「うん。いいな。無駄なく新技術に移行できる。開発費も取り戻せるな」
「僕もウロ覚えだから、10年後を目処に考えて行こうね」
「線路を大陸中に張り巡らせるなら、それぐらいがちょうど良さそうだな」
これは蒸気機関車の試乗なのに、2人は電車の話ばかり。それを聞いていたエステルとホーコンは……
「なんの話をしてるかわかります?」
「サッパリだ……陛下は賢いとはわかってはいたが、ここまで賢いとは……」
「フレドリクも陛下について行けるなんて……陛下がフレドリクを処刑しなかった理由はこういうことでしたのね」
「ああ……帝国に必要不可欠な人材だ……これから帝国はどうなって行くのだろうな」
「それはもちろん大陸制覇ですわ。初代様の夢は陛下の代で叶えてくれるはずですわ」
「陛下はそんなことを考えているようには見えないけどな~……ま、この2人が揃っていたら、帝国は最強だな」
こうして天才2人に夢を見るエステルとホーコンであった……
「ここがママの故郷でちゅよ~? 初めて来れて嬉ちいでちゅね~?」
「あう~」
「だよね~? のどかな田舎町って空気が美味ちいでちゅよね~??」
でも、ダンマーク辺境伯領に着くなり親馬鹿になったフィリップを見て、エステルとホーコンは「大陸制覇なんて考えてねぇなこいつ」と悟ったのであったとさ。




