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グループ  作者: 山本正純
後編 中二病の暗号
16/21

十六

 午前11時。大野と沖矢は渋谷署を訪問した。渋谷署の署長は大野たちを会議室に案内する。その会議室の机の上に櫻井幸一郎が担当した事件の調書が置かれていた。

「これは櫻井が担当した事件の調書です。櫻井は去年の4月に入ったばかりの新人だから調書は少ないでしょう。それでは終わったら声を掛けてください」

 署長は会議室を退室した。大野たちは一冊一冊調書を読んでいく。調書は30冊あるためノルマは一人15冊だ。

 1時間後30冊ある調書の内、28冊が読み終わった。だが櫻井幸一郎が恨まれるような事件は一件もない。

残った2冊の調書を読んだ大野は椅子から立ち上がった。

「沖矢。これを見てください」

 大野が手にしている調書には『四葉学院女子高生中毒死事件』と書かれていた。

「組対が調べていた事件です。この調書には渋谷署に自首した流星会幹部潮岸昭宏の取り調べを担当したのが櫻井幸一郎と書かれています」

「取り調べだけなら恨まれる必要はないのだよ」

「潮岸昭宏と櫻井幸一郎に接点があったとしたら話は変わるでしょう。一通り調書を読んだから分かりますよね。櫻井幸一郎は麻薬絡みの事件を何度も検挙しています。9か月の間で麻薬絡みの事件を20件解決している。これは異常です」

「つまり櫻井幸一郎は警察組織内部に潜入した流星会のスパイである可能性が高いということだね。スパイだったら麻薬流通ルートを把握することができ、いくらでも検挙することができるのだよ。その事件の捜査で麻薬の売人たちと知り合えば大金を得ることができる」

「犯人がこの構造を知ったとしたら、立派な動機になると思います。犯人にとってこれが許されざる真実だとしたらの話ですが」

 その頃岡本郁太の自宅にアタッシュケースが運び込まれた。そのアタッシュケースを岡本郁太が開けると、一億円が収められていた。

「さすがだな。たった1時間で一億円を用意するとは」

「一億円なんて安いものだからな」

 この瞬間木原は違和感を覚えた。国土交通省幹部に要求する身代金にしては安すぎる。30億円くらいが妥当ではないか。犯人にとって身代金はどうでもいいのではないか。誘拐の目的が身代金目的ではないとしたら。誘拐の目的は監禁されている岡本宇多か身代金を運ぶ櫻井幸一郎の殺害だとしたら。

 嫌な予感が木原の脳裏に浮かぶ。

 誘拐犯との取引の時間が近づく中で合田は部下に指示を与える。

「A班は身代金取引に応じる櫻井幸一郎巡査部長の護衛。B班はこの場に待機する」

 A班のメンバーに選ばれた木原と神津たちは櫻井幸一郎巡査部長と共に身代金受け渡し場所である東京湾第一コンビナートに向かう。

 合田がA班のメンバーを見送ると、大野から電話がかかってきた。

『合田警部。組対が調べていた事件と今回の誘拐事件の繋がりが見えてきました』

大野は明かされた事実を合田に話す。

「分かった。大野と沖矢に調べてほしいことがある。捜査が終わるまで岡本郁太の自宅に戻ってくるな」


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