十二
午前10時30分。警視庁の前に一台のタクシーが停まった。女はタクシーから降り、警視庁のビルを見上げる。
その女の服装を一言で表すなら和服。桜の花びらをモチーフにした柄が印象的で、美しい花びらが咲いているかのようだった。帯の色は可愛らしいピンク色。
その女帯刀美咲は警視庁の受付で用件を伝える。
「捜査一課3係の刑事に情報を伝えに行きまする」
その対応はデスクワークをしていた合田警部が担当する。合田は警視庁内にある会議室に帯刀美咲を案内して、話を聞く。
「事件に関する情報提供というのを聞かせてもらおうか」
「岡本宇多の件で思い出したことがありまする。御坂妙子が中毒死してから彼女は弱くなったなり。彼女が中毒時した日から剣に迷い生じ隙が多くなりけり」
「つまり一連の事件には御坂妙子が中毒死した事件が関わっているということか」
「そういうことになりける」
「だとしたら犯人の動機は御坂妙子中毒死事件の関係者に対する復讐。貴重な情報をありがとう。ついでということになるが、あなたは岸尾恵を恨んでいないのか」
「恨む必要は皆無。故に彼女との面識は皆無。彼女は道場に通っておらぬ。御坂妙子は道場に通っていたから私にも動機が当てはまると言える」
「因みに今日の午前6時40分頃どこで何をやっていた」
「道場に籠って一人稽古をしておった。証人はもちろんおらぬ」
それから帯刀美咲は警視庁を去った。丁度その頃大野と沖矢は勝京介が暮らす自宅を訪問した。大野がインターフォンを押すと、中から勝京介が顔を覗かせた。
大野と沖矢の2人は警察手帳を見せる。
「刑事さんなりか。今日は何のようでござるか」
「今朝岸尾恵が襲われました。それで関係者に話を伺っています。まずあなたは岸尾恵さんを恨んでいませんか」
「恨みなどという感情は持たぬ。彼女は岡本宇多以上にいい女。そんな奴を恨む者はおらぬ」
「それでは今朝午前6時40分頃どこで何をしていたのだよ」
「自宅で寝ておった。一人暮らしだから証人はおらぬ」
2人は勝京介が帯刀美咲以上に話しやすいと感じた。帯刀美咲は勝京介以上に古風な話し方をする。一方勝京介も古風な話し方をするが、口調が明るいと2人は感じた。
「最後に御坂妙子さんとあなたは関係がありますか」
「何度か剣を交えたことがありにける。御坂妙子は生涯の好敵手と呼べる剣士。彼女が中毒死して寂しいと感じける」
話を聞き終わった2人は勝京介の自宅を後にする。その車内で沖矢は呟いた。
「やっぱり馬鹿口調は感染するのかもしれないのだよ」
「それはどういうことですか」
大野の突っ込みに対して沖矢は顔を赤くする。
「それは聞かないでほしいのだよ。あれはあくまで独り言なのだから」
「そうですか」
その後2人は警視庁に戻ることにした。




