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創世記  作者: Que
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創世記


 目を覚ますと、白い空間の中にいた。


 「どこだここは」


 周囲を見回すと、周囲は白い光沢のある岩板で囲まれており、見知らぬ精密機器が並んでいた。


 「おはよう。エイジ。いや、田中と呼べばいいのかな」


 カプセルのハッチが開き、寝ていた身体から起き上がると、横には大きな頭に大きな目をした灰色の生命が立っていた。遠い昔、グレイと呼ばれていた宇宙人のような存在だ。


 「今、君は我々と同じように人工機械の中にいる。大丈夫だ。身体はNR内と同じような感覚で動かすことができる」


 自分の身体を見回すと、確かに、肌の色は灰色だった。


 「宇宙人の正体は、未来人が造ったロボットだったのか?」


 「ハハ。どうやらそうだったみたいだね。歴史は繰り返す、といったところかな」


 「この世界は現実世界か?」

 

 「そう、現実世界だ。だが、NRの世界でもある」


 「どういうことだ?」

 

 「まあ、こっちに来なよ。外に行こう」


 シェルターのハッチを開けて、グレイの後を付いていく。窓の景色から見えるのは、青い地球のようだった。


 「あれは私たち人類が2万年前に住んでいた地球だ」


 「なんだこれ。ここはUFOの中か?」


 「そう。僕たちは今、歴史を創ってる」

 

 「ダメだ。ついていけない」

 

 「徐々に慣れるさ」


 「お前は俺をここまで導いた悪魔か?」


 「違うよ。私より高次な存在だ」


 「どういうことだ?というか、この世の中がNR内でもあるってどういうことなんだ?」


 「あぁ、単純な話さ。僕たち人類が未来人、いや、僕らからみたら未来人にみえるというだけで古代人といえばいいのかな?そう、古代人が我々人類をシュミレーションしている。その世界がこの現実世界だ」


 「は?」


 「要は多重構造になっているんだ。古代人が造ったNRの世界の中にいる僕たちは、さらにNRの世界にいた。それはちょうど、NRの世界で『神様ゲーム』によって新たな宇宙を創っているのと同じようにね」


 「ってことは、何だ。俺たちは、ゲームの駒だってことか?」


 「まあ、そうとも言えるけど、でも、僕たちはゲームの駒でも完全に自律している。誰かに操られている訳ではない。まあ、多少、支配された存在ではあるけどね」

 

 「話がぶっ飛び過ぎてついていけない。それで、俺はこれからどうすればいい?」


 「我々の役割は一つ。僕たちはもう一度、はじめから人類を我々と同じ文明レベルまで導くこと。なぜそうしなければいけないか?そうしなければ、我々人類はゲームの中といえど滅んでしまうからだ。私たちは同じ人類として、種を繁栄させ続けたい」


 「待て。なぜ、俺たちがもう一度、人類を育てなくてはいけない?この世界を造った高次元の奴らが、俺たちをNRが創ることのできる次元へと持っていったように、この世界に創り出した人類を俺たちと同じNRを創れる文明レベルまで導けばいいじゃないか?」


 グレイは俺を一瞥すると溜息を付いた。それは相手の思慮の浅さに軽蔑しているかのようにみえたが、それ以外の感情が込められているように思えた。


 「彼らがそれを望んでいればよかった。けど、現実は違う。彼らにとって、この世界はゲームにしか過ぎない。それは、君たちがNR内で『神様ゲーム』をしているのと同じだ。時に人類を脅かすために天変地異を起こしたり、時に人類を喜ばす為に神の啓示を示す。けれどそれは、全部彼らの気分次第なんだ」


 「だからこそ、俺たちはこの世界の調節役を担っているってことか?」


 「そう。そして、それも結局は、彼らのゲームバランスを調整する一つの要素として選ばれたにしか過ぎないのだけどね」


 「それはムカつくな」

 

 「そう、ムカつくだろ?だけど、所詮、僕たちは箱庭の存在にしか過ぎない。付いてきて」


 そう呟くと、グレイはとことこと歩き、別の部屋のシェルターを開けた。

 そこには、爬虫類、哺乳類、鳥類、ありとあらゆる様々な種類の動物が暮らす大自然があった。


 「ここはエデンの園。地球上の資源が枯渇して、地球が住めなくなった時に、私たちは地球上の基本的な動物をサルベージュした。我々はここから地球を始める」


 「待ってよ。じゃあ、俺たち人類の歴史も実は、俺たちと同じようにNR内からピックアップされた宇宙人によって導かれていたってことなのか?」


 「ご明察。我々の世界を造ったのは、爬虫類型の知的生命体だ。昔の人々はレプティリアンと呼んでいた。君はそのレプティリアンが造ったNR内で作られた霊長類型の知的生命体、すなわち、ヒューマンが造ったNR内の存在、すなわち、ヒューマノイドってことだ」


 「ああもう話がややこし過ぎる。分からん。というか、霊長類型の知的生命体が造ったヒューマノイドってことはどういうことだ?俺はAIなのか?」


 「そうだよ。宇宙人の正体は人間だし、人間の正体はAIだ。そして、この中から次の知的生命体を我々が遺伝子操作して選び出す。そして、これから僕たちはその知的生命体を導くんだ」


 「もう、話がぶっ飛び過ぎてる」


 「だがこれが現実だ。どうだい?頭はパンクしたかい?でも、君たちの元型、すなわち、アーキタイプである僕たち人類も同様に、神に導かれていただろう?」


 「ってことは、旧約聖書の『創世記』もスティーブン・スピルバーグの『E・T』も、ウォシャウスキー兄弟の『マトリックス』も、太古の壁画やレオナルド・ダヴィンチの絵画に宇宙人の絵が仕組まれていたのも、全部この日の為にお前らが存在を仄めかしていたってことか?」


 「そういうことだよ。神の正体は宇宙人だ。でも、ピラミッドやナスカの地上絵は、レプティリアンが権力を示唆する為に作った建築物だし、過去に政治家が突然変死した歴史も、芸能人が悪魔のサインを示唆したのも、彼らが世界に自分の存在を誇示するために生まれた副産物だ」


 俺は言葉を失った。全ての歴史も陰謀も、何もかも全ては時空を超えて繋がっていったってことらしい。荒唐無稽、馬鹿らしく思えるが、それが目の前に起きている真実だった。

 

 「そして、この生物の中から今から知的生命を選ぶ。我々はそれを地上へと文明の基礎的な能力を与えながら導いていく。火を生み出したり、言葉を教えたり、ね」


 「要は、俺たちは神様になるってことか?」


 「そういうこと。けど、ここでいうところの僕たちは神様の使い、すなわち、天使だね。ま、逆の見方をすれば、この人類再生計画を仕組む悪魔の使いともいえるかもしれない。呼び方はなんだっていいんだ。いずれにせよ、僕たちは彼らの前では神様として振る舞わないといけないし、いや、というより、きっと、新しく作られる生命には僕たちが神様に見えるだろうね」


 「世界の秘密って、こういうことかよ」


 「いいや、まだある」


 「は?」

 

 周囲には猿や馬や鹿や鳥が生き生きと辺りを動き回っている。

これも全てNR内の見せる空想世界で、人類が22000年かけて作り上げてきた文明はすべて、この日の為に仕立て上げられたシナリオだったってことらしい。


 「僕たちの上位の階層の存在であるレプティリアンもその上位に存在を有している。レプティリアンは土星に、僕たちは月に生息している」


 「多重構造って・・・そういうことか」


 「というよりかは、無限連続多重構造ともいえる。君たちはまだ理解できないかもしれないが、時間は過去から未来に流れているともいえるが、未来から過去にも流れているんだ。だから、今こうして我々が生きている間にも、未来から過去に歴史は作られている。まあ厳密にいうと同時間的に時空が発生している訳じゃないのだけど、言葉による理解だとそうなる。要するに、我々の上位構造に位置する存在は今もこうして我々が喋っている間に創られている。それは私たちが今から創り出す知的生命体から見て、我々、上位階層の人間がこうして知的生命体を創り出そうとしているのと同じようにね」


 「もう、情報量が多すぎて処理できないが、要は時間は赤ん坊が誕生して大人になる、という時間の認識の仕方は人間の物の見方でしかなく、過去は過去に向かっていく一つの未来として、時間は直線状に展開しているってことか?」


 「言葉にするとそういうことかな。まあ、これは我々の普段使用している時間軸による認識方法では捉えることは不可能だし、理解しなくてもいい。けれど、要は世界は繰り返しているってことだ」


 「なんだかなあ」


 「まあ、これからの世界の展開は君も人類の歴史や聖書を読んだことがあるなら、大体想像が付くだろう?このエデンの園から知的生命体を選出して、地球に送り込む。我々は神となって彼ら知的生命体を新たな宇宙を創ることのできる文明のレベルまで進化させる。その過程で、僕たちは彼らの恣意的な策略を妨害し、彼らに翻弄される人類を助け、時に、彼らと対峙していくんだ。人類の太古の歴史でいうと、彼らはヤハウェという形でバビロン捕囚にあったユダヤ人の出エジプトを助け、モーセの意識に介入することで十戒を啓示する。一方で、僕たちの先祖はイエスの意識に介入することで本当の愛を説かせて、ユダヤ人に火破りの刑にされても、イエスを高度な医療技術によって一瞬に復活させて、イエスを神に祭り上げる。意識の介入は簡単だ。脳は一定の電磁波が流れているから、その脳にある言語情報を電磁波にして送り込むだけでいい。ただ、歴史的な帰結でいうと、結局、宗教的には僕たち人類の祖先が広めたキリスト教は勝利をするけど、経済的・政治的には圧倒的にレプティリアンが勝ってしまう。それが後の悪魔崇拝につながるのだけど。それが後に、フリーメイソンやイルミナティーといった悪魔崇拝の秘密組織に繋がって来るのだけど。まぁ、その辺の昔話はまた今度ゆっくりと聞かせてあげよう」


 俺は唖然とした。

グレイは一歩前に踏み出すと、辺りを見回した。


 「さ、次に人類のDNAを入れるのはどの生命体にしようかな。始めよう、『創世記』を」


 すると、遠くの木陰で、猿が怯えた表情で我々を眺めていた。

その猿の名前は、後にイヴと呼ばれた。


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