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29話:なんかとんでもなく大きくなったんだけど

 「え?何これ?」


 そう呟く俺の目の前には、ゆうまくんと⋯⋯謎の火の化身がいた。


 今いる場所はゆうまくんたちが住んているあの家だ。


 「来てほしい」という連絡を受けて実際に来てみたのだが、入ってすぐにゆうまくんと俺の間に突然次元の裂け目が現れ、「こっちです」と言われて裂け目をくぐると鍛冶場の一室にたどり着いたというわけだ。


 「これは?」

 「どうやら、朱里さんの仰る通り⋯⋯職業が解放されたんです」

 「へっ⋯⋯?」


 あれ? 確かカードも通していない人はスキルや能力値は与えられないのではなかったかい?


 俺がおかしいのかな?


 自嘲気味に心の中で呟き、話をまとめた。


 「つまり、研いでいたら青いウインドウが現れて、『貴方は覚醒者になりました。黄金の鍛冶部屋の主が貴方を招待しました』っていうテキストが出たってことでいいよね?」


 「はい!それで色々試したんですが⋯⋯」


 そう言ってテーブルの上にある一本の直剣を手に取るゆうまくんがこちらへとその直剣を持ってくる。


 「そこにいる火の化身⋯⋯フレイと共に作ってみたのですが、確認してみてもらえませんか?」


 「いいの?」

 「はい! 勿論です!」


 その剣を受け取った瞬間、直感が言った。

 

 "この剣は普通のものでは無いと"


 「⋯⋯⋯⋯」


 シンプルなデザインの直剣だ。

 鉄剣と見間違えてしまいそうな程に普通すぎて、何も理解できなければ捨ててしまうかもしれない。


 「試しに振っても?」

 「はい!剣はその為にありますから!」


 ゆうまくんはあれだ⋯⋯人間の顔をした犬や。可愛い。

 

 そんなことを言っていると、ゆうまくんが「こっちです」と言って隣にある試し斬り場所へ案内してきた。


 ⋯⋯そんな場所まであんのかよ。


 「ここでなら全力で振っても大丈夫⋯⋯とフレイが言っています!」


 両手を前に小さくガッツポーズをするゆうまくん。やばい、男なのにすげぇ可愛い。


 「じゃあ行かせてもらうわね」


 そこまで入れなくてもいいだろう。4割くらいで──



 ズガンッ──!



 「⋯⋯え?」


 そこには、剣が地面に付いたところから広範囲に広がる修羅があった。


 3mは地面に食い込み、衝撃波が30m向こうまで飛んでいってる。


 なんやこれ。4割くらいでしか振り下ろしてないのに。


 剣を見て、そして目の前の景色を見る。

 交互に4回は見た。


 そして、俺の中でのゆうまくんの価値を再評価。


 こりゃ最優先事項でしかない。


 「これ凄いわよ。いま市場に出ている武器よりも数段別格よ」

 「本当ですか!? 良かったぁ⋯⋯」


 そう言ってゆうまくんはその場にへたれ込んだ。


 「どうしたの?」

 「いやぁ⋯⋯もし評価が悪かったらどうしようと思ってたので⋯⋯」

 「そんなこと言うわけないでしょ?これを見てそんな事が言えるなら、冒険者を辞めるべきだと思うわ」


 こんなのが作れると分かったら、カネなんていくらでも突っ込める。色々聞かないと。


 「そういえば作ったって言ってたけど、素材とかはどうしたの?」


 「⋯⋯あ、どうやら前にこの職業になっていた人がいたみたいで、色んな素材が奥の保管庫に置いてあったんです」

 

 マジでチートじゃねぇか。


 「カネもかからない、凄い職業に付いたわね」


 「はい、これでもっと朱里様の役に立てれます!」


 「ここまでやれると思ってなかったから、もっと食事や睡眠、家の補強も行わないとね」


 「そんな!」


 「あなた自分で気づいていないかも知らないけど、この能力はとんでもないものよ?いつ誰がここに攻めてくるなんて分からないんだから」


 五香さんに見せたらどんな反応するか楽しみだわ。永久機関にするんだろうか⋯⋯などと一人でノリツッコミをしまくったあと、俺とゆうまくんは家に戻る。


 「そしたら、色々お金が必要な場面はすぐに連絡して欲しいのと、お兄ちゃんは何処かしら?」


 「あっ、紅里様!」


 「お疲れ様、今時間ある?」


 「何を言いますか⋯⋯紅里様のご配慮で全く仕事もなく。穏やかな時間を過ごせるだけで感謝のしようがありません」


 りゅう君の軽いお辞儀の姿に何とも言えない気持ちが湧き上がったが、グッと堪えて続ける。


 「明後日ダンジョンに行くことにしたの」


 「やっとですか」


 「ええ、一応ある程度の装備や武器は用意するからお金は一切掛からないわ。日時と時間は追って連絡するから、電話⋯⋯しっかり見ておいてね」


 俺はそう言ってスマホをりゅう君に見せ、家に戻る。


 帰りの道の車内、いつものように鈴木さんと何気ない話をしていた。


 「煌星さんも大変ですね」


 「何がですか?」


 「いや⋯⋯あっちこっち縛られている中で、ここまで当たり前のように過ごせる人も中々多くはありませんから、素直に尊敬していますよ」


 自分では外に出るのが最小限というのはかなり有り難い部類だが、そうか他の人にとってはそうでもないことがあるんだな。


 「鈴木さんは外に出たいタイプで?」


 「⋯⋯恥ずかしながら」


 「今度住んでる娯楽エリアでビリヤードでもやりませんか? 結構楽しいですよ」


 「本当ですか?ぜひご一緒させてもらいます」


 鈴木さんはオフの車内だとかなりフレンドリーに接してくれる。仕事モードが終わったなのか、打ち解けるのに時間はそうかからなかった。


 鈴木さんは現在30歳ジャスト。

 ご結婚もされているそうで、娘さんが二人の結構大所帯ではなかろうか、こんな殺伐とした時代に。


 ⋯⋯いや、こんな時代だからこそだろうか。


 「娘が「この冒険者みたいになるんだー!」って息巻いてるのですが、その冒険者が紅里さんで、困ってますよ。煌星さん、なんとかしてくださいよ」


 こんな冗談も言えるような関係になったのは少し嬉しい。


 「では近々いきますかね」


 「ありがとうございます」


 「そういえば、最近どこもかしこも静かですよね? 世間は何かあったんですか? あんまりニュースとか見てなくて」


 「最近外がうるさいんですよ」


 鈴木さんが溜息混じりにボソッと口にする。


 「外?」


 「ええ、最近突然内戦が頻発しまくりで」

 

 「それが日本となんの関係が?」


 「陰謀論者たちが時代が変わってから初の第一次世界大戦が起こると予言している人が突如現れたんです。それで今国中も結構荒れてまして」


 それは初耳だ。あとでオイゲンにも聞いてみよう。


 「いやぁ、折角収まっている戦争が始まってしまうなんて勘弁して欲しいですよ」


 「本当ですよね。行ってないですけど一度も」

 

 などと冗談を言っていると家の前だ。


 「それではまた明日」


 「はい、また明日」


 明日⋯⋯とは、五香さんとお喋りする日の事だ。今は暇な時間が大半なため、五香と進捗確認の為に週に一回は会うようにしているのだ。


 「時間はいつも通りでいいんですよね?」


 「勿論です!」


 「では」


 ウインドウ越しにハイタッチをして、鈴木さんは帰っていく。俺も明日に備えてなんの土産を渡しに行くか考えないとなぁ。

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