9話:三木の荒野〈1〉
「よっと⋯⋯!」
唯一丈夫そうな枯れ木に屈みながら見渡す。
広がる枯れ木の海に、俺は早くも予想外だと溜息をついた。
⋯⋯話には聞いていたが、暑いのは苦手なんだが。
──三木の荒野。
等級はD級で、中級冒険者の最初関門として有名?らしい。
環境適応能力に状況判断能力、一度に様々な事を考えながら攻略しないといけないということだろう。
「さ⋯⋯てと」
まぁ本来のやり方なら、真正面から歩いていくべきなんだが。
俺は別にアイテムが欲しいわけではない。
俺が求めているのは、オドやあの多額のコインを払ってまでレンタルしたあの力が反映されているのかが知りたいという純粋な疑問だ。
D級で楽勝なら、今後もある程度通用するということだ。そうなれば、黄河煌星として早々にランクを上げればいいし、こっちの方でも上手いこと隠れ蓑の役目をすれば、安心して今後動ける。
そんで今回の踏破としては、別に正攻法でやる必要はないってことだ。
俺はウインドを立ち上げ、あるアイテムを購入。
[冷たい美味しい水を購入しました]
「んー!」
これは少し暑さに強くなるという効果付きの水。荒野では必要だろうとお気に入りリストに入れておいた。
「そろそろ行きますか!」
ぐっと、目を凝らす。
オドを使って全ての存在の痕跡を辿ろう。
両眼を閉じてアルカとやっていたようにオドを巡らす。
ドクン、ドクン。
視野が広がる。自分の見える視野を超え、より拡大し、鮮明になっていき、遠い距離も近くにいるような感覚。
この辺にはいないが、2キロ先にウルフがいるな。
「行ってみようかな」
**
「いた」
大型犬くらいの大きさをしている小さい黒い塊⋯⋯ウルフが映る。
とりあえず、手始めに⋯⋯というか、自分がどこまでやれるのか──やっと知れる。
あの時は別の世界というべきダンジョンだったから分からなかったが、流石に自分の生きているダンジョンで倒せれば正確なレベルを知れる。
「ヴゥゥ!!」
ウルフが俺に気付いたようだ。
これは好都合だ。俺はウルフと同じ場所に降りて少しずつ距離を近付ける。
犬特有のハッハッと荒い口呼吸音が近付く。
別に興奮しているわけでもなく、俺を食べたくてしょうがない──獰猛な魔物だ。
ある程度の距離から地面を蹴って、飛び上がった。
おそらく速く、本当だったならば、恐怖も一段とあったのだろう。
以前の俺ならビビって尻込みしていただろうが。
──遅い。とんでもなく遅い。
コマ送りかなんかか?
「ヴゥゥー!!」
熟練度たったの2%。
それだけなのに、なんだこの効果は。
⋯⋯オドは使ってない。ぶっ壊れているのか?
俺はなんてものを手に入れてしまったんだと改めてこのストア神に別の意味で恐怖することになった。
写真の連射のようにゆっくりこちらに向かって迫ってくるウルフ。正確にはハイランドウルフだっけ? ちょっと⋯⋯使わせてもらうぞ?
白炎。
片方の拳だけに白い炎を纏わせ、上から飛びかかってくるウルフの頭を地面に振り落とす軌道で振り下ろした。
「──ギャ」
コンマ数秒聞こえたウルフの声は、瞬く間に割って入る破裂音に被さり臓物が飛散する音で掻き消えた。
右手の指先に伝う赤い血。
俺は、地面にあるウルフだったものを見下ろしていた。
原型は留めておらず、あるのは一体分の赤い血と⋯⋯先程までウルフだった肉片だけが、そこに散らばっていた。
「⋯⋯⋯⋯」
その場で佇む煌星の周りに、同胞のニオイに釣られたのかウルフの群れが囲む。
「──白炎。」
狙うウルフ達の中心にいる煌星は、もう一度呟くと、両の拳に白い炎が巻き付く。
次の瞬間、一斉にウルフが攻撃を仕掛けた⋯⋯が。
一匹のウルフがその異次元の動きに気付いた頃には、自分の視界が遥か上に飛ばされている事に気付いた時だった。
舞い踊る星々よ、輝きを増し、真なる夜空を彩れ。
煌く光、一つ一つを集め、輝きの渦と成れ。
星の煌めき、心の風を呼び、嵐の始まりを皆に告げよ。さらば与えられん。
星星の嵐よ、全てを包み込み、輝く煌嵐となれ。
「白炎・星舞煌嵐」
渦巻く滝のように、全てを浄化する白炎は吹き上がった。
煌星は血だけを浄化し、倒れている死体をインベントリへと回収してその場から離れた。




