第58話 開戦
キューレと別れたオレは、すぐに護衛兼移動の足としてナイトメアを呼び出すと、一度魔物の群れから距離をとった。
ナイトメアの他にもヘルキャットを二匹呼び出して哨戒させている。
大きな戦いを前にして、そばにキューレがいないことに少し不安はあるが、戦闘中でなければユニット交換で呼び寄せることもできるし、必要十分だろう。
これで残りのユニット枠は八つ。
今回の戦いではユニット枠を使い切る予定なので無駄にはできない。
『主さま、これから行動を開始いたします』
『わかった。ユニットを見つけ次第倒してくれ』
今回の魔物のたいはんが、北の大森林に生息する魔物であることはすでにクオータービューで確認してある。
だが同時に、その中にリーダーマークが点在しており、それらがすべてユニットであることも確認していた。
つまり今回の件は、おそらく魔神の眷属が関わっている。
キューレには、それらのユニットの殲滅を依頼したわけだ。
『ただし、あまり派手にするなよ』
そして、リーダーマークがついている魔物がすべてユニットであることから、なんらかのチートによって魔物を操っているのはこれで間違いなくなった。
だがそうなると、その操っているユニットを倒した場合が問題だ。
統率を失った魔物がどういった行動を起こすかが予想ができないため、できるだけ他の魔物を刺激しないようにしたい。
『はい。闇属性のスキルには便利なものがありますから』
キューレは闇属性のユニットだ。
そして闇属性の戦技や魔法は、単体攻撃に特化していることと暗殺系のスキルに特化していることなどが特徴だ。
キューレの戦技も例にもれず、威力が馬鹿みたいにあがった究極戦技をのぞくと、大規模殲滅向きのものはない。
まぁ個の能力が飛び抜けているのでかなりの規模の敵でも対応はできるのだが、属性的には向いていないということだ。
『そうだな。頼りにしている』
これで統率がとければあとの魔物は烏合の衆だ。
既に王都を出発している騎士団の第一陣とも協力して掃討すれば、なんとか切り抜けられるだろう。
「しかし、これだけのことが出来る魔神の眷属を放っておくのは危険だな……」
ユニットが見つかったことから、この魔物の群れを王都に差し向けたのはプレイヤーで間違いない。
あまり気は進まないが、今から倒す覚悟はしておく必要がある……。
「こんなことじゃ駄目だな……」
オレは誰に言うでもなく一人つぶやくと、気持ちを切り替えて意識をクオータービューへと向けた。
「そろそろスノーウルフエレメントたちが接敵しそうだな」
この最初のひと当てでどれぐらいの魔物を倒せて、こちらにどれぐらいの被害がでるかを見極めなければ。
「3・2・1……はじまった!」
多種多様な魔物の群れにスノーウルフエレメントたちが襲い掛かっていく。
クオータービュー上で戦いが繰り広げられ、魔物が次々と倒されていくその光景は、ゲームでは何度も見た光景だ。
それにこの世界に来てからも、依頼で既に何度も目にしている。
だが、今回のように自分の行動がこのベルジール王国に住む人たちの命や生活を左右すると思うと、緊張するなという方が無理な話だ。
「ふう……焦らず慎重にいかないと……」
その時、敵ユニットの一つが消滅した。
これで二つ目だ。
「キューレもうまくやってくれているようだな」
キューレには、スノーウルフエレメントたちの戦いが始まるのを合図に戦闘を開始するように命じていた。
しかし、それにしても見事なものだ。
周りの敵の陣形があまり崩れていないことから、ほとんど戦闘らしいことにもならず瞬殺していることがうかがえる。
ざっと確認したところ、敵ユニットはアダマンタイトナイトぐらいの強さのものが多い。
だから今回の相手もキャップ50か60時代ぐらいにチートしてアカウント削除されたプレイヤーなのかもしれない。
普通に戦えばまったく苦も無く倒せる相手だと思うが、チートが無くてもスノーウルフエレメントだと返り討ちにあう。
そのため、キューレにはスノーウルフエレメントたちが最初に接触するあたりから順にユニットの掃討を命じていた。
「スノーウルフエレメントの損耗も想定の範囲内だな」
スノーウルフエレメントたちには、魔物が北の大森林から溢れ出さないように戦いの場を移動させながら戦わせているのだが、今の所は順調のようだ。
魔物の群れの奥へとは深入りさせず、群れの縁を削るように魔物を倒しており、いい形で戦闘が進められている。
まずはこのまま騎士団が到着するまで時間を稼げれば作戦の第一段階は完了といったところだ。
「とりあえず出だしは好調だな。このまま進んでくれると楽なんだが……」
ただ、相手も間違いなくプレイヤーだ。
そうなると何か対抗策を打ってくる可能性が高い。
「勝負はこれからといったところか。気を引き締めよう」
普通に考えればキューレをおさえることが出来るようなユニットを送り込んでくるのが定石だが、キャップ60時代のプレイヤーだとするとそういうわけにもいかず、チートを使った搦め手でなにかしてくる可能性もある。
オレにはベルジール戦記でどのようなチートが横行していたかの知識がない。
油断せずに状況に応じてすぐ対応できるように、こちらも準備をしておく必要があるだろう。










