第38話 流れ
「そう言われてみればっ!?」
「つまり、レスカの気持ちひとつでこの王城などいつでも簡単にたった一発の戦技で消し飛ばせるということだ。騎士団が強かろうと関係ない。防ぎようがないではないか」
「な…………」
宰相のリセントは、もう完全に絶句してしまった。
思わずそのような事態を想像してしまったのだろう。
もちろんオレはそのようなことをするつもりは毛頭ないが、できるできないで言えばできるのは確かだ。
しかし、最初のほんのわずかなやり取りから一瞬でそこまで見抜くのか……。
口を滑らせたオレもオレだが、国王様が切れ者なのは間違いない。
「それから、この次にお主のしようとしていた質問。あれが事実なら、そもそもその騎士団総出で戦っても負けそうだがな」
「…………」
なにを質問しようとしていたのか正確な所はわからないが、カタストロを制圧した時のことに関するものだろうか。
その言葉にも反応できず、リセントはまた黙り込む。
「どうした? リセント? 儂の意見に反対だったと思うたが、もうよいのか?」
なんだ? 国王様と宰相の間で、オレについての対応でなにか揉めていたのか?
「へ、陛下……しかしですね……」
「しかしもなにもないわ! 現実を見よ! せっかくレスカがこうして友好的に接してくれておるのに、それに対してこの国はどうこたえるつもりか? お主のその狭い常識にそぐわないからと、その実力を疑って不誠実な対応をとるのか? それがどれだけ国益に反する行動かわかっておるのか?」
たしかにオレの力があれば、ちょっとしたスタンピートなどが起こっても簡単に止められるが……国益とか言われると改めて自分の持つ力の強大さを認識させられる。
「あらためて聞く。リセントよ。お主はどういった対応をとるつもりだ?」
「そ、それは……」
あれだけ威厳に満ちた感じだった宰相が、開始数分で意気消沈してしまった。
な、なんか、オレのせいで申し訳ないな……。
少しぐらい助け船を出すか。
「あぁ……オレは気にしてないから大丈夫ですよ。それに、この力をバックに何かを要求などもしないし、国王様のおっしゃる通り友好的にいきましょう。質問にもできるだけ答えます」
一応、さらに配慮するような言葉をかけたつもりだったのだが、リセントは小さく頭を左右にふると、迷うような表情を消し、今度は力強い視線をこちらに向けて口を開いた。
「……いいえ、レスカ殿。報告を信じさせて頂きます。ですので、その内容に間違いがないかだけ確認して頂けますか。この度は失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした」
深く頭をさげる宰相の姿に驚く。
そもそも、そんな謝られるほどの対応をとられたわけではないと思っているので、逆に対応に困る。
「はい。謝罪を受け入れるので頭をあげてください。なにか疑問があればその都度聞いて貰って大丈夫なので話を進めましょう」
オレがこの世界にきた経緯だとか、すべてを話せるわけではないが、こちらもこたえられる範囲では出来るだけ誠実に答えていくことにしよう。
「ほれ。レスカもこう言ってくれておる。話を進めてくれ」
それにしても……これ、国王様は最初から狙ってやってたんじゃないか……。
宰相がオレに反感を持つ態度を見せて、それを国王様が諫める。
この流れによって、オレは国王様に好感を持ち、反省の態度をみせた宰相にも友好的に接することになった。
粛々と宰相の読み上げる内容を確認しつつも、この流れを作った国王様に対してそんな感想を持ってしまった。
まぁ国のトップを務めている人なんだ。
これぐらいしたたかな方が頼りがいがあっていいがな。
それから二〇分ほどかけて確認作業は終わった。
途中で二、三質問が入ったが、オレの返答も素直に信じてくれたようだ。
ただ、何をしてあんな大破壊が起こったのかについての核心部分については、詳細は伏せさせて貰った。
キューレは今後も人として扱って欲しいからな。
「確認ありがとうございました。しかし竜牙兵一体の強さがAランク冒険者並だとは……」
「そうだな。良い勝負になるのではないかと思う」
まぁ実際には並のAランク冒険者じゃ太刀打ちできないと思うのだが、そこまで言う必要もないだろう。
竜牙兵は特殊召喚ユニットだから、召喚可能レベルがそのまま一体の強さと一致してはいない。
だが、レベル80でようやく使用できるようになったユニットだ。
ギルドマスターのガンズを上回る強さのアダマンタイトナイト。
あれでレベル50のユニットなのだが、だいたいの強さは似ている。
竜牙兵はアダマンタイトナイトを少し攻撃寄りにした強さだと思えばわかりやすい。
「こうやってあらためて話を聞くと、レスカの思惑ひとつで国などどうにでもできるのではないかと思えてくるのう。もう竜牙兵一〇〇体ほどだけでもこの国の騎士団すべてと対等に戦えそうではないか」
まぁ実際にどうにか出来そうではあるが、オレは乾いた笑いを浮かべて聞き流しておいた……。
しかし、国王様の斜め後ろに立つ若い男……顔立ちから息子だと思ったのだが、いつになったら紹介してくれるのだろうか。
さすがにこれだけ時間が経っても全く話に触れる様子がないと気になってくる。
そう思って視線を向けたのだが……オレの視線に気付くと、目を見開いて驚くような表情を見せた。
目が合っただけなのだが一体何に驚いたのだ?
よくわからないが……もう直接聞けばいいか。
「国王様。ちょっとよろしいでしょうか?」
「ん? どうしたのだ? なんでも言ってくれ」
「その……そろそろ後ろの方をご紹介頂きたいのですが?」
オレがそう言った瞬間、その若い男は踵を返して逃げ出したのだった。










