第35話 破壊工作
「言いたくないのはわかるけど……そういう状況でもないだろ?」
ちょっと悪い笑みを浮かべながらそう言ってやると、悔しそうに唇を噛みしめながらこちらを睨んできた。
「これがさぁ。数人とかなら自害とかって選択肢もあるのかもだけど……できないだろ?」
「なに⁉ 我らを愚弄するか!? 命など惜しくないわ!」
いや、そういうレベルの話じゃないんだが……。
きっと優秀なやつなんだろうが、展開についていけていない感じだな。
仕方ないから教えてやるか。
「いや、そういうことを言っているんじゃない。頭を冷やして考えてみろ。だってお前たちはどう考えても……どこかに所属する超がつく精鋭部隊でしょ?」
「…………」
この世界に来てから数日とは言え、戦いを生業にする者たちを多く見てきた。
でも、そんなものたちと比べても、ひとりひとりの実力が段違いに高い。
そんなやつらが三〇〇人だ。
所属する組織の要ともいえる部隊に違いない。
おそらくはこのベルジール王国か、隣接するどこかの国に所属するものたちだろう。
「そんな最精鋭三〇〇人が全員自害するのか? それって……組織が立ち行かなくならないか?」
「っ!?」
普通ではありえない状況だから仕方がないとはいえ、ようやく事の重大さに気付いたようだ。
「だから……もう一度聞く。お前たちは何者だ? そして、どういうつもりでオレたちを待ち伏せしていた?」
「俺たち?」
「まだ気付いてないのか? 背中に槍を突きつけられていることに?」
いくらこの男が優秀だと言っても、竜牙兵にすら勝つことができないのだ。
そんな男がキューレを相手にできるわけがない。
「動くな……それ以上うだうだと抜かすなら、主さまが許しても私が許さんぞ?」
いや、そこはオレの意見を尊重して欲しいところなのだが……。
「……い、いつのまに……」
「キューレ、まぁ待て。それよりあんた。あんたがリーダーだってことはわかっている」
「なっ!?」
もうオレたちに翻弄されまくっていて可愛そうになってくるな……。
まぁだが、ここで時間をあまりくいたくない。
さっさと話を進めさせてもらおう。
「そもそも所属なんて少し調べればすぐわかるし黙ってても何もいいことないぞ? とりあえず目的を教えてくれ。盗賊団のような悪党ってわけでもなさそうだし正直に言えば悪くはしない。あ、嘘は吐くなよ? あとで嘘がバレたら所属する組織ごと……根絶やしにする」
さすがにオレたちを抹殺するつもりだったのなら、ちょっとこいつらどうするか考えないといけないが、理由があるなら許してやらないでもない。
どうせここまでの力の差を見せつければ、もう下手なことはしてこないだろう。
そもそもこんな大勢の人を殺したくないってのもあるのだが……。
「く……わ、われわれは……」
お。やっと話す気になったか。
「国王様から勅命を受けた特殊執行部隊『カタストロ』だ」
「は? それってあれか……『王国の剣』とか言われている……」
「そうだ」
このレベルの精鋭を三〇〇人も揃えている部隊だ。
所属は国だろうとは思っていたが、王国最強とか言われている部隊じゃないか……。
「そんな精鋭部隊が勢ぞろいしてどうしてオレなんかのところに?」
「それはこの森で先日発見された……」
ん……えっと……なんか嫌な予感がするぞ……。
「ある大規模な破壊工作について、徹底的に調査するようにと勅命を受けたからだ!」
ちょっと待て……大規模な破壊工作って、まさか……。
「そ、その、だな。大規模な破壊工作ってのはあれか? この北の大森林の少し奥地にあるクレーターとかのことか?」
「あぁ、知っているだろう? 調査からすべての状況がお前が関係していると掴んでいるんだ!」
「…………」
「だが、あれほど大規模な破壊工作をいかにして成しえたのか、その方法がわからん! その理由がわからん!」
方法は無理に話すことはないだろうが……これ、理由は話さないとまずそうだぞ……。
でも正直に言うのか?
まさかこんな威力があると思わず、キューレの戦技を試し打ちさせましたとか……。
「くっ……最高位の実力を持つ異邦人だということは掴んでいたが、まさかこれほど化物じみた力の持ち主だったとは……」
う……焦って少し本気を見せてしまったのは不味かったな……。
この世界の他の異邦人だと、リビングアーマーレベルの魔物を一〇体ほど使役するのが限界だ。
オレの強さが異常なのはもう隠しようがない。
「オレの長年の勘が危険だと告げていた……だから、実力行使で事情を聴きだすために、カタストロの全戦力を以って臨んだというのに……」
これは……オレが悪い……。
当然もうこいつらを殺す気はない。
だが、大規模破壊のことやその理由、竜牙兵の事をどう説明するべきか。
「そ、それは悪い事をしたな。あいにくオレは異邦人の中でも、ちょっとばかし異質な力を持った存在なんでな」
「ちょっとばかし……?」
そこはスルーしとけ……。
「正直、お前たちがこれ以上オレたちにかまわないなら、もう命をとるつもりはない。たしかにあの大規模破壊はオレがやったことだしな」
「そ、そうか……その点については恩に着る……我々全員が死ぬようなことになれば、この国に大きな混乱が起きるのは確実なのだ……」
この世界に来てから、王国の剣の話はオレもいろいろ聞いたことがある。
酒の肴になるぐらいに有名だからな。
国として対外的にも、そして国内の秩序を守る上でも、大きな抑止力になっていることぐらいは想像がつく。
もしカタストロが全滅などという話になれば、大袈裟な話ではなく国が大きく乱れるのは事実だろう。
「オレはこの国にきてまだ日が浅いが、結構気に入っているんだ。敵対するつもりはないということだけは信じてくれ」
「そうか……」
「それで……あ~言えないならいいんだが、あんた名前はなんというんだ? まぁ特殊執行部隊だし本名とかじゃなくてもいいんだが話がしづらい」
声をかけようとしてまだ名も聞いていないことに気付いた。
「もうここまで話したのだ。本名を明かそう」
そうか。別にコードネームみたいなものでもいいと思ったのだが、教えてくれるのならもちろん本名でかまわない。
「自分の名はゾック……ゾック・フォン・ベルジールだ」
……は?










