第34話 リーダーマーク
竜牙兵を広域展開させるように呼び出すと、潜んでいたものたちに剣をつきつけてこの場を制した。
突然のことに誰も対処できず、身動き一つとれない。
それはそうだろう。
現時点でも一人に付き最低三、四体の竜牙兵に囲まれて絶望的な状況なのに、その数が徐々に増えていっている。
疑わしい場所すべてに竜牙兵を配置した。
だが、疑わしい場所すべてに敵が潜んでいたわけではない。
結局だれも潜んでいなかった場所に配置したものたちは、近くの敵まで移動させている。
最終的には一人に付き一〇体近くの竜牙兵に囲まれることになるはずだ。
「やつらは三〇〇人ってところか。一瞬焦ったけど、あっけないものだな」
竜牙兵を広域に展開したおかげでクオータービュー上に表示される情報が増えており、詳細な敵対しているものの人数まで把握できるようになっている。
そこにはちょうど三〇〇と表示されていた。
「……ん?」
そんなクオータービューに追加された情報を確認しつつ竜牙兵に細かい指示を出していると、敵にリーダーマークがついているものがいることに気付いた。
ほう。ゲーム同様に部隊のリーダーにはマークがつくのか。
なんかこれだけでもかなりチートな気が……。
敵の大将の位置とかまるわかりなんだが……。
まぁ、リアルとなったこの世界で縛りプレイなどするつもりもないし、ありがたく活用させてもらうけど。
「キューレ、せっかくこれだけの歓迎を受けたんだ。ちょっと向こうのリーダーに挨拶でもしにいくか」
「挨拶……ですか? このような場合、どのような挨拶をすればよいのでしょう?」
あ、これは本気でオレが「はじめまして」などと、挨拶すると思っているな……。
挨拶といえば挨拶に違いないんだろうが、どう説明したものか?
キューレのあごに指をあてて首をかしげて考える仕草はかわいいんだが、ちゃんと誤解をといておこう。
「ちがうちがう。友好的な本来の挨拶って意味じゃなくてだな……まぁとにかく、せっかくこんな大掛かりな罠を用意してくれたんだ。顔でも拝みに行こう。話も聞きださなきゃいけないしな」
「なるほど……わかりました。それなら、主さまにこのような真似をしたのです。話を聞きだしたら私が罪を償わせましょう」
キューレが罪を償わせるとか言うから、この世界で初めて放った『神罰』のあの光景を思い出して一瞬ぞっとしてしまった。
「あ、あぁ……ほどほどに頼むぞ? ほどほどにな?」
「え? はい。わかりました」
それに、まだこいつらの正体もつかめていない。
オレたちを襲おうとした理由などを聞き出したうえで、どうするか判断するべきだろう。
「とありあえず……飛ぶか」
「はい」
オレはクオータービュー上に表示されている敵リーダー近くの竜牙兵二体を選択し、あるユニットコマンドを実行した。
【コマンド:ユニット交換】
ユニットを自由な場所に配置できるユニット配置というもっと便利なコマンドもあるのだが、自分の占有エリア内でしか使えないうえ、残念ながら自分自身を指定することができない。
それに対してユニット交換は、指定したユニットと対象の位置を交換するというコマンドだ。
自由な配置はできないが、占有エリア以外でも使え、プレイヤーやその仲間をその対象に指定できるので、こういう状況では非常に便利だ。
「お。リーダーはあいつかな」
一瞬の視界暗転後、少し離れた場所に竜牙兵に取り囲まれている目的の人物を見つける。
他の者たちが喉元や背中に剣を突きつけられて完全に制圧されているのに対し、もう時間の問題とはいえ、剣を構えてまだ制圧されずに竜牙兵と対峙していることにちょっと驚いた。
「これは悪夢か……」
うん、敵からしたらこんな状況悪夢にしか見えないよな。
でも……。
「残念ながら夢じゃないんだ」
オレが話しかけながら近づくと、慌てて振り向き誰何してきた。
「なっ!? だれだ!?」
もちろんこいつがオレの事を知らないわけがないし、この状況なら予測もつくはずなのだが、よほど焦っているのだろう。
「だれだってことはないだろ? これだけの歓迎の準備をしていたんだ。招待客の名前ぐらいわかるだろ?」
「な、なぜここに……」
うまく意表をつくことができたことに、思わず笑みがこぼれてしまう。
「ふふふ。残念ながら秘密だ」
知られてしまっても大きな問題はないのだが、ユニット交換には使用に制限……つまり先に同数のユニットを配置しておかなければならないなどの準備が必要だ。
それがバレると、いざという時に対策をうたれかねないし、そもそも調子に乗ってしゃべる必要もない。
これだけの実力の持ち主だ。
普段のこいつなら取り囲んでいた骸骨の騎士が少なくなったことに気付いたかもしれないが、この急展開の中では無理だろう。
「それより、せっかくの歓迎だったのでわざわざ挨拶にきたわけだけど、そちらはどちらさまで?」
「くっ……」
まぁこの状況で「はい。私は○○です」とは言わないよな。
でも、この状況だからこそさっさと言ってしまった方がいいという事を教えてやるか。
「言いたくないのはわかるけど……そういう状況でもないだろ?」
オレはそう言って、今度は悪い笑みを浮かべて見せたのだった。










