第32話 主力ユニット
それは門を出て王都を発ったあと、監視のものたちが乗るラプトルを置き去りにして北の大森林に到着した直後に起きた。
いや、正確に言うと大森林に到着した直後に起きたのではない。
到着した直後になってようやく気付いたのだ。
伏兵に囲まれているという事に。
「主さま」
「あぁ……わかっている……」
ここへ到着する前に、ピクシーバードでちゃんと確認はしていた。
しかしこの者たちは、それ以前からこの場に潜んでいたのだろう。
上空からではまったくその気配を察知することが出来なかった。
完全に囲まれているな……。
ピクシーバードで補足できている数だけでも一〇〇人近くいる。
オレやキューレにまったく気づかせずにこんなことが出来るものがいるとは思いもしなかった。
この世界に来て、周りのものたちや魔物の強さがゲーム時代より弱くなっていたことで完全に油断していた。
今までオレたちを監視していたものたちとは、隠密の練度が段違いだ。
オレとキューレは、すでにナイトメアから飛び降りて臨戦態勢をとっている。
キューレがいれば大丈夫だとは思うが、馬上にいると相手が強力な飛び道具を持っていた場合に、防ぐ手段が少なくなってしまうからな。
それに……オレたちが飛びおりるだけで、ナイトメアという立派な味方ユニットのできあがりだ。
これを活用しない手はない。
ナイトメアは高ランクの魔物だけあって、生半可な相手なら文字通り蹴散らすだけの強さを持っているのだから。
「やってくれるじゃないか。ナイトメア、守り優先で臨戦態勢をとれ!」
奇襲された時は、ユニットをあらたに召喚する時間が稼げるか稼げないかが勝敗を分けることもある。
さすがに戦闘になって後れを取るとは思わないが、ちょうどいい機会だ。
練習台になってもらおうか。
「主さま、蹴散らしてきてもよろしいのでしょうか?」
ナイトメアがオレの護衛についたのを確認すると、キューレが攻撃の許可を求めてきた。
練度が高いといってもキューレの敵ではない。
殺すつもりで戦えばあっという間に決着はつくだろう。
だが、相手もすぐに襲ってきていないことを考えると、少なくともオレを殺すことが一番の目的ではないように思える。
「いや、相手の出方をみたい。オレが指示を出すまで待機だ。だが、こいつらが攻撃してきた場合は……滅ぼせ」
「わかりました。それでは攻撃を受けた場合はすみやかに殲滅、排除いたします」
オレの秘密を知りたいのか、それともなにか従わせたいことでもあるのか。
もしくは自分たちに有利な状況を作り出し、脅しを聞かせつつ交渉でもしたいのか。
だけど……その考えは気に入らない。
脅す相手を間違えたこと、その身を以って理解させてやろう。
「ウォーモード!」
オレは……いつの間にか笑みを浮かべていた。
有利な状況? この程度の状況で?
笑わせてくれる。
敵の数は少なくとも一〇〇人はいることがわかっている。
しかも全員が手練れだ。
それに、ここまでのことをするのだ。
まだ他にも多くの伏兵が潜んでいてもおかしくない。
だとするとその数は?
クオータービューを使って潜める場所を一瞬で特定し、その潜んでいる可能性のある場所にすべて敵が潜んでいると仮定して計算する。
限界まで潜んでいたとすると、最大で五〇〇人……。
やはり笑わせてくれる。
たった五〇〇人でなにをするつもりだ?
どういうつもりか知らないが、相手はまだ動きを見せない。
有利な状況を作り出せたと誤認しているからか?
ならば自分たちが置かれている状況を教えてやろう。
少しだけ本気を見せてやる。
オレの主力ユニットを使ってな。
ユニット名は『竜牙兵』。
こいつはかなり特殊な召喚ユニットだ。
条件さえ満たせば、ユニット枠ひとつで上限なく複数体同時召喚できるからだ。
だが、その条件を満たすのがかなり厳しい。
召喚するためには、あるアイテムが必要だからだ。
必要なアイテムの名は『竜の牙』。
その名の通り、ドラゴンだけがドロップするとても貴重なアイテムだ。
その貴重な竜の牙が、竜牙兵を一体召喚するのに一本必要だった。
もちろん竜牙兵にはそれだけの価値があるのだが、その姿はゲームでもほどんと見かけることはなかった。
見た目は、竜の牙から生まれる骸骨の姿をした騎士といったところか。
個人的には結構カッコイイと思う。
一体の強さはアダマンタイトナイトとあまり変わらない。
その姿を気に入っていたオレは、普段から好んで使っていた。
だが、竜の牙を持っていたとしても、普段使いするには非常に難しい問題があった。
竜の牙は召喚しただけでは消費されないのだが、呼び出した竜牙兵がダメージを受けて倒されてしまうと、竜の牙も破壊されて消費されてしまうからだ。
だからとっておきの切り札として皆が欲し、手に入れると温存していた。
その姿が気に入るかは別として、ユニットを召喚するタイミングさえ間違えなければ、ユニット枠たった一つで戦況を変える事ができる可能性を秘めているのだ。
大事にとっておきたいのが人の心情だろう。
しかし、そのせいでだれもがこぞって一本でも多くの竜の牙をと買い求めるようになり、その価格は天井知らずで跳ね上がり続けた。
それこそ最終的には貴重すぎて使えないユニットに成り下がるほどに……。
そんなユニットをオレは……普段から好んで使っていた。
なぜそんなことが可能だったのか?
簡単な話だ。
オレだけがとあるエンドコンテンツで、ソロでのドラゴン討伐が可能だったからだ。
二つ名である『不敗のレスカ』は、もともとこの竜牙兵を主力として活用し、数多の戦闘にすべて勝利を収めてきたことからついたものでもある。
「さぁ、そろそろ遊戯の時間といこうか」
【ユニット召喚:竜牙兵】
コマンド操作とジャスチャーでの指示を出す。
その瞬間、周囲一帯が光に包まれた。
まるで森そのものが光を放つように……。
隠れ潜んでいる敵をもすべて取り囲めるほどの広範囲に、数えるのも馬鹿らしくなるほどの無数の魔法陣が出現していた。
今回召喚用に使った竜の牙は三〇〇〇本。
つまり三〇〇〇個の魔法陣が出現し……三〇〇〇体の竜牙兵が姿を現したということだった。
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