第31話 監視
思った以上にオレはこの世界の常識から離れた存在なんだなぁと、あらためて認識させられた。
「長い時間かかってしまって、すまなかったな」
「いいえ。私の方こそ、何度も確認をいれてすみませんでした。でもレスカさまが規格外だということがよ~くわかりましたし、次はもう少し早く達成報告の処理を終わらせてみせます!」
「規格外……」
オレの今日の報告で規格外なら、キューレの本当の能力がバレたらいったいどうなるんだろうか……。
そしてキューレがオレの召喚したユニットだと知ったら……。
ずっとバレずにいるのは難しいかもしれないが、せめてこの世界でのオレの立場や生活が安定するまでは平穏にいきたいものだ。
「それで達成報酬の件ですが、本当にそれぞれの口座に半分ずつ振り込む形でよろしいのですか?」
冒険者ギルドでは銀行業務のようなこともやっている。
オレの場合はアイテムボックスにしまっておけばいい話なんだが、この世界に来て稼いだ額がわかりやすいように報酬は口座にいてれもらうことにした。
ただ、普通はキューレのようなお共の場合は、その雇い主が全額受け取るのが普通なので最後にもう一度確認してきたのだろう。
「かまわないからそれで頼む。キューレはオレの共ではあるが、冒険者としては仲間として対等に扱ってくれ」
「わかりました。それでは以後そのようにさせていただきますね」
しかし今度は、リナシーとのやりとりを聞いていたキューレが申し訳なさそうに確認してきた。
「主さま? 本当にそのような扱いでよろしいのでしょうか?」
「あぁ。キューレには先に話していただろ? それから、自分で稼いだお金は自由に使っていいからな」
キューレはオレの召喚ユニットだが、この世界では完全に自我を持っている。
せっかく冒険者登録もおこなったことだし、キューレの稼いだお金はどう使おうとキューレの自由にさせようと思っている。
だけどキューレはお金を使う事に慣れていないだろうから、あまりにも金遣いが荒かったり騙されそうなことがあれば、口はだすしアドバイスもするつもりだ。
「それでは報酬はこのあとすぐに処理させていただきます」
こうして冒険者としての初めての依頼はなんとか無事に終わった。
後日、巨大な黒い雷を見たという不確定情報の元にギルドから調査依頼がだされ、大規模な森林破壊が見つかって大きな騒ぎとなるが、それはまた別の話ということで……。
◆
依頼を受けるようになってから十日余りが経過した。
謎の大規模な森林破壊をのぞけば、オレたちの冒険者活動は順調過ぎるぐらい順調に推移している。
こなした依頼の数は二〇を超えており、早くもガンズからオレのAランク昇格が検討されているとの連絡も受けた。
しかし……オレの能力の検証はちょっと難航していた。
「はぁ~……またか……」
オレとキューレに監視がつよくようになったのだ。
「2、3……とうとう5人になったな」
冒険者になってからは、ずっとピクシーバードを周囲に展開しているのでバレバレだ。
最初は二人だけだった。
だが、さくっと撒いたら翌日には三人に、次の日も、その次の日も同じように撒いたら、とうとう今日は五人になっていた。
「主さま、そろそろ私の方で排除しましょうか?」
ぶっちゃけ不快だし鬱陶しいのだが、なにか大きな害があるわけではない。
それに、監視を指示しているのが大物貴族だったのであまり揉めたくなかった。
「いや、やめておこう」
「わかりました。主さまがそれでよろしければ私はかまいませんが……」
いくら異邦人が貴族相当の扱いだと言っても、大物貴族相手に安易な手段に出るのは避けたい。
ヘタに手を出して揉め事に発展しても面倒だ。
こちらがなにかされない限りは、基本放置でいいだろう。
「どこの手の者かはわかってるし、なにかされたわけでもないからな。今日も放置でいいよ」
まぁオレの能力やユニットの検証がやりにくくて進まないのだが、この世界では誰かを監視するのを禁止するような法律もなさそうだからな。
そうなると実力行使するわけにもいかない。
そもそも毎回監視しているものたちはあっさり撒いているので、能力の検証を進めてしまってもいいのだが、その場では撒いていても痕跡を辿るなどしてオレが行使した能力を探られる可能性がある。
オレも本腰いれて調べていないので、その大物貴族がどういった目的で監視を付けているのかまではまだ把握できていないが、今のところは静かにしておくつもりだった。
「それじゃぁ、そろそろ今日も撒きますか?」
「いや、今日はそれすら必要ないだろ。これから依頼で北の大森林に行くし、街中ではもう放置でいい。どうせ街の外に出てナイトメアに乗ればついてこれないからな」
今日は『グレートベア』という巨大な熊の魔物の討伐依頼を一つだけ受けている。
ちなみに一つしか依頼を受けていないのには理由がある。
最近ハイペースで複数の依頼をこなしていたせいで、高ランク向けの依頼が一時的に底をつきそうだとリナシーから聞いたからだ。
だからすこし自重しているというわけだ……。
それで話を戻すが、そのグレートベアの生息地は北の大森林だ。
オレたちは、いつものようにナイトメアに乗って向かうつもりでいる。
それに対して、今監視しているものたちが街の外に用意してある移動の足は、ラプトルという騎獣だ。
このラプトルは大型のトカゲの魔物の一種で、貴重でかなり優秀な足の速い騎獣だ。
一昨日、オレたちが馬を一瞬で置き去りにして走り去ってしまったので、頑張って用意したのだろう。
だが……相手が悪い。
ナイトメアと比べてしまうとその自慢の走力を以てしても話にならない。
「ラプトルでぶっちぎられたら次はどんな騎獣を用意するんだろうな。さすがに飛竜とか用意されると勝てないけど、そこまで用意できるかな?」
監視しているものたちには悪いが、ちょっと楽しみだ。
そんなふざけたことを考えていたのだが……。
「もし飛竜を使われても、私が主さまを抱えて走れば同じように振り切れます! 問題ありません!」
「いやいや⁉ それはそれで別の問題があるから!」
キューレに言われて、思わずお姫様抱っこされている自分の姿を想像してしまい、そのあと頭を振って必死にその姿を追い出したのは内緒だ……。










