第23話 見知った顔
豪奢な窓から差し込む陽の光に目を細める。
「んん……ここは……」
あ、そうか……昨日、うとうとしてそのまま眠ってしまったのか。
一昨日に引き続き、考察や検証を進める事ができなかった。
いや、だってあまりにも宿が快適だったからな……。
晩御飯は部屋へと運んでくれたのだが、とろける肉がごろごろと入ったビーフシチューのようなものを中心に、ふわふわの白パン、シャキシャキの新鮮なサラダなど、王城で出された食事を上回る美味しさだった。
「お目覚めですか。主さま、おはようございます」
「あぁ、キューレ、おは、よ、う……」
ゲーム時代から戦乙女 Ωとは、かなりの時間を一緒に過ごしてきた。
人型なのでどんな場面でも召喚しやすく、それでいて数あるユニットの中でも最強クラスの強さを持っており、強さと実用面のバランスが抜きんでていたからな。
それに当時からAIとは言え会話もできたので、護衛役として召喚するのにも最適だった。
だから、ずっとそばで見てきた。
だから、戦乙女 Ωが超の付く美少女だというのはわかりきっていることだし、いまさらだった。
いまさらのはずだった……。
だけどこれは……やヴぁい……。
「きゅ、キューレ? その服はどうしたんだ……?」
もともとの漆黒装備も少し露出気味でかなりの破壊力がある。
初めてユニット召喚した時は、どきどきしたものだ。
だけど、今のこの着崩れた純白のパジャマ姿は普段とのギャップも上乗せされて破壊力が……やヴぁい……。
「え? これですか? そこのクローゼットにあったのでお借りしたのですが不味かったでしょうか?」
と言って、今度はその破壊力の権化であるパジャマを脱ぎ始めた。
「ちょちょ、ちょっと待て⁉ 問題ない! それ似合ってるから! 着ていてまったく問題ない! だから脱ぐな!」
この部屋はかなりの広さがあり、寝室が二つあったから一緒の部屋でも大丈夫だろうと油断していた……。
すぐに脱ぐのを止めることは出来たが、一瞬透き通るような白い背中が見えてしまったせいで一気に目が覚めた。
「そうですか? 主さまがそういうのでしたら。このお召し物は着心地がすごく良くて気に入りました♪」
その笑顔に思わず恥ずかしくなって視線を背けてしまう。
なんか本当に不思議だな……。
キューレは召喚ユニットなんだ。
でも、どこからどう見てもオレたち同様の自我を持っていて、今も人としか思えないはにかんだ表情を見せている。
「そ、そうか。それは良かったな……そうだ! キューレ、今日は街に慣れるためにいろいろ見て回りながら買い物をしよう!」
昨日は今日の予定を決める前に寝てしまっていた。
身体的には今もまったく疲れていないので、ほぼほぼ精神的な疲れからだろう。
だから出歩くのはまったく問題ないし、今日はギルドで依頼を受けるのではなく、この王都を散策しながらキューレの服などの買い物をしよう。
ゲームだったころのユニットとしての戦乙女 Ωには、着せ替えのような事は出来なかった。
でも今は違う。
パジャマ一つでこんなに喜んでいるのだから、普段着も含めていろいろ服をプレゼントしてやろう。
幸いなことにお金には困っていないし、仕事の目処もある程度ついたからな。
「買い物ですか? それなら何かユニットを召喚して命じれば……?」
たしかに買い物など頼めそうなユニットもいるが、今日はキューレになにかプレゼントするのが目的だからな。
一緒に行って一緒に選ばなければ意味がない。
「街をね。散策したいんだ。そのついでの買い物だから……キューレ、護衛を頼めるかな?」
「はい! もちろんです!」
こうしてオレとキューレは、このあと部屋に運ばれてきた朝食を一緒に食べてから王都へと繰り出した。
◆
オレは観光気分で街の景色を楽しみながらも、視界の片隅にクオータービューを表示し、マップを塗りつぶすように考えながら街を歩いていた。
はじめての街やダンジョンに行った時にはマップを埋めるために同じようなことをしていたはずなのだが、今はなんだか新鮮に感じてなんでもないことが楽しい。
「お? あんなところに噴水があるのか」
時精霊の隠れ家を出る前に、デミファルコンよりもずっと小さく周囲の偵察に特化している『ピクシーバード』というユニットを窓から放っていた。
名前にピクシーとついているが、その見た目にピクシー要素はなく、少しツバメに似ている普通の鳥にしか見えない。
体長も20cmほどで戦闘もレベル的によほど格下でもない限り期待できない。
だが、一枠で五羽呼び出す事ができる上、ピクシー同様に透明化の能力を持っており、とても有用な特殊ユニットだ。
「お。ここの一角は少し昔の面影があるな」
だからこの先に何があるのかをすべて把握することができる。
そのお陰で、オレたちは迷う心配をすることなく街の散策を楽しむ事が出来ていた。
そして、ようやくお目当ての店を発見する。
少し高級そうな店構えだが、男性もの女性もの問わず扱っているようだし、窓から見えた展示されている服のデザインも悪くない。
「キューレ、この服屋に入るぞ」
「はい。主さま」
この世界の服屋に入るのは初めてだが、ゲームで利用していた服屋と同じような仕組みのようだ。
「いらっしゃいませ。どれか気に入った服がございましたら、お声をおかけください」
店に入ると、少し年嵩の女性が愛想よく声をかけてくれた。
「あぁ、後でまた声をかけさせてもらう」
やはりあっているようだ。
サンプルが一種類ずついくつも展示されており、その中から気に入ったデザインのものを個別で仕立てて貰う形式だ。
「どうだ? キューレ、気に入ったものは……ん? どうしたんだ?」
キューレが、展示されている服ではなく、奥で何か作業をしている別の若い女性を見ている事に気付き、オレもそちらに視線を向ける。
すると、そこには見知った顔がいた。
「あれ? レスカさまとキューレさんじゃないですか!」
そこにいたのは、昨日ギルドで世話になった受付嬢のリナシーだった。










