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八月は暑い!1

 八月。

 夏真っ盛り。蝉さんのタガが外れたらしい。拡声器をつけて歌っている。

 そして体が蒸発する勢いで暑い。

 眩しい日の光が反射しカゲロウのようにゆらゆらと……


「あつーい!! 考えるだけでもあつーい!!」


 稲荷神ウカは自分の社内であまりの暑さに放心状態だった。


「ほんと……暑いね……ここは……」

「な……」

 会話少なげに隣にいた青年稲荷ふたりも団扇で仰ぎながらぼうっとしている。

 現在ウカの神社に泊まっているミタマとリガノである。


「まさか扇風機とかまでないとは思わなかったよ……」

 ミタマは半泣きで冷たい場所を探していた。


 ここはウカの神社内部にある霊的空間だ。この空間はデータとして存在している神だけしか入れない。ある一定のデータが鍵となり中に入れる。ウカの場合は鏡とお酒だ。幸い近くの神社の神主さんが毎回お酒を持ってきてくれていた。鏡は社内にすでに飾られている。


「窓が開いていても意味ないな……こりゃ……」

 リガノは着物を一枚脱ごうとしてやめた。

 ちらりとウカを見る。


「ひっ……」

 リガノは顔を青くした。

 ウカは目を輝かせてこちらを見つめていた。そのうち写真を撮り始めそうだ……。


「そんな変態じゃないわよ!!」

 知らずに声が出ていたらしいリガノはウカに思い切り怒鳴られた。


「す、すまん……な、なんだか恐ろしく脱ぎにくくてな……」

「リガノくん、もう神社帰ろうか……」

 ミタマがいたずらな笑みを向けてきた。なんだか嫌な笑みだ。


「いや……泊まる」

「あー、これで僕の勝ちだと思ったのに」

 よくわからないがここにいる内にお互いだんだんと意地になって泊まり込んでいるようだ。

 どちらが先に泣いて帰るかの勝負事になっている。


「お前も暑いなら脱げばいいんだ」

 リガノの言葉にミタマは横目でウカを見る。

「いぃっ……!?」

 ミタマは後退りを始めた。

 ウカは目を輝かせて期待を込めてこちらを見つめていた。


「興味がありすぎて怖いー!」

「あ、あんた達に興味はないわよ!! 前も言ったじゃないの!」

 ウカは慌てて目をそらすと顔を真っ赤にして怒っていた。

 顔の赤みは怒っているからか恥ずかしいからか……。


 どちらでも構わないがとりあえず、ウカは男好きなのである。


「そ、そんな大胆なことやってないのになんでそんなに避けるの……」

 ウカは悲しみを含んだ目で顔を手で覆った。


「ご、ごめんよ。いや、なんか顔が……」

「そう、顔がな……大胆な事が恐ろしくて聞けないが……」

 ミタマとリガノは慌ててウカを慰めるが慰められているかは謎であった。

 しばらく蝉の鳴き声だけが響いていたが突然に蝉の声を掻き分けるように大きな声が響いた。


「じゃじゃーん!! イナチャンさんじょー! じゃーん!! 今日も蒸し暑いねー!」

 社の扉を思い切り開けたのはチビッ子少女稲荷イナチャン……もといイナであった。


「ありゃ? またウカちゃん泣かしたの??」

「泣かしてない!」

「誤解だ!」

「というか、『また』とかつけるな!」

 イナの言葉にヤイヤイとふたりはやかましく騒いだ。


「あー、イナいらっしゃい」

 ウカはため息混じりにイナを招き入れた。


「てかさ、リガノもミタマもそんな着て暑くないのー?」

「暑い!!」

 イナが発した当然の疑問に着崩していないふたりは同時に即答した。


「なんかふたりとも私の前で脱ぐの嫌がるのよね。オトコノコって難しいわ」

「おぅい!!!」

 ウカのさりげない言葉にミタマとリガノは同時に頭を抱えた。


「まあまあ、じゃあ外に行こうよ!! 外のがこのクッソ暑い神社よりも涼しいよ!」

「あんた……けっこう口悪いわよね……」

 ウカはため息をついてから再び口を開く。


「で? このクッソ暑いのにどこ行くわけ?」

「お前も口が悪い……」

 リガノもすばやく突っ込んだ。


「まあまあ、とりあえず、ミノさんとこに偵察にいかない? って話」

 イナは一同をなだめつつ、ビシッと指を立てた。

「このクソ暑いのに!?」

 今度はミタマが叫んだ。


「どいつもこいつもクソクソと……お前ら……太陽神様をお助けする神としてかすってるのになぜ、太陽を貶めているのだ……」

「あちゃー……」

 リガノの言葉で一同は口をつぐんだ。


「ま、まあ……でも暑いじゃない? そこまでして行く必要ある?」

 ウカが汚い言葉を取っ払い仕切り直した。


「実は……」

 突然にイナが真顔になり顔を近づけてきた。皆もとりあえず、イナに近づく。


「あの例のおじいさんがミノさんの神社付近に現れたらしい……」

「なんだって!!」

 イナの告白にウカ達は目を白黒させて驚いた。


「……まずいわ……持っていかれる! 十月にあるカムハカリの中間発表までにミノさんが願いを叶えてしまったら……」

「僕達の負け……」

 ミタマの声がか細く流れた。


「こうしちゃいられないわ! 皆、偵察よ!!」

 ウカは元気を取り戻しすばやく立ち上がると社の扉を開けた。

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