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七月病はさすがにない2

  七月後半。

 アイスキャンディ騒動から二週間が経った。あの時よりも暑く、夏本番を迎えた。セミがかしましく鳴き、ただでさえ暑いのにさらに太陽が焼けるように照らしていた。


「あー、もうダメだ……。暑すぎるわ……。スーパーに避難っと」

 ウカは近くの大型スーパーに逃げ込んでいた。ここはエアコンがかかっていて最高に気持ちが良い。

 ウカは人には見えないためずっといてもなんとも思われなかった。


「あれー? ウカちゃん?」

 急に誰かに話しかけられた。

 油断していたウカは驚いて飛び上がってしまった。


「ん? ん? あ、ミタマ君かー。驚かせないでよー。あー、また皆いるのね……」

 ウカは話しかけてきたミタマの後ろにいつものメンバーがいることに気がついた。


「ま、まあな……」

「あっついからー!」

 リガノとイナがそれぞれウカに挨拶をした。


「で、最近はどうなの?」

 ミタマの言葉にウカはため息をついた。


「誰も参拝に来ないわ……。こんな暑かったら来ないわよ……」

「夕方とか来るかもしれないよ?」

「まあ、それはそうかもしれないけど、暑すぎてなんもしたくない」

「だよねー」

 ウカの言葉に三人とも同じ言葉を発した。


「そういやあ、ウカ、一度参拝にきたおじいさん、あれからどうなったの?」

 ミタマが興味本位で突然にそう尋ねてきた。


「ああー、先月やったババ抜きの日にも来ていたらしいのよ。私が回線オフにしちゃってたからなー……」

 ウカは落ち込んでいた。


「あの時の参拝、あのおじいさんだったんだ! ウカちゃん! じゃあまた来るかも! これはチャーンス!」

 イナが満面の笑みでウカの背中を叩く。


「しかし……願いが2ヶ月近く叶わないとはな」

 リガノはため息混じりにつぶやいた。


「まあ、確かにまた来るかもだから回線も準備してるし、どーんと来い! なわけよ」

「ウカちゃん、その調子! で、そのおじいさんの願いを叶えるの、皆でやらない?」

 意味もなくやる気なウカにミタマが意味深な提案をしてきた。


「皆で?」


「うん。願いが叶ったら信仰心を山分けするのさ」

「ああ、そういうこと。まあ、うちらはライバルじゃなくてチームだからいいわよ」

 ウカはあっさりとミタマの提案に乗った。皆、本当に参拝客が来ていないらしい。


「ありがとう! ウカちゃん!! そうとなったら皆! ウカちゃんちに泊まるぞ!」

「おーっ!!」

「ちょーっと待て!!」

 リガノとイナの掛け声をウカはすばやく制止した。


「ん? 何?」


「ちょ、ちょ……うちに泊まる!? う、うちは狭いし、プライベートな空間なんてないわよ……」

「ウカ、私は夜は自分の神社に帰るよ。同居してる神がいるからね!」

 イナは同意はしたものの、ウカの神社に泊まる気はなさそうだ。


「じ、じゃあ、男二人と私じゃないの!!」

「おー! 最近はやりの逆ハーレム! 大丈夫だよ! ゲームとか漫画だと男七人くらいと女の子一人で隔絶空間にいたりするし」


「そりゃ漫画だから!! だいたい私はね、『内気で男が苦手な設定』なのに大量の男と同室または同居できる主人公の女の頭をいつも疑っているのよ……」

 ウカは呆れた顔でイナを見た。


「まさか……ウカちゃんは内気で男が苦手な設定……」

 ミタマが驚きの顔でウカにつぶやいた。


「なによ……その驚き……。それから設定とか言うな!! だって、寝てる時とかお風呂にいる時とかムラムラっと襲ってくるかもしれないじゃないの」

「……俺達は獣かなんかか……?」

 ウカの言葉にリガノはガックリと肩を落とした。


「獣と言うよりキツネ!」

「わけわからなくなるから黙って」

 ミタマの発言をウカはすぐに切り捨てた。


「とにかく! うちはちょっとねー……」

「ウカちゃん、男好きじゃなかった?? こないだ神々の書籍販売店でイケメン男子神の『夏真っ盛り編』買ってたじゃん。あの肌色感が凄まじいやつ! ヨダレ出して眺めながら完熟度計ってたじゃん。『んー、この男はまだまだ青いわね』とか。……あー! この手の本が押し入れに隠されてるから泊めたくないのか!」

「コラ!! イナ!! それ以上言うな! やめてよ!!」

 ウカは顔を真っ赤にしつつ、イナの口を塞ぐ。


「な、なんか……別の意味で……」

「俺達のが危ない……のか?」

 ミタマとリガノはじりじりと後退りをはじめた。


「あー! もう!! 泊まりたいなら泊まれば! もういいわ。吹っ切れるから」

 ウカは真っ赤になりながら叫んだ。


「り、リガノ君……どうする?」

「そう言われると……迷いが……。社外で生活するか?」


 まごまごし始めた二人をウカは見据えながら

「もう、カミングアウトしたからいいわ。ちなみにあんたらの身体には興味ないから」

 とスッキリした顔で答えた。


「じゃあ、同居してみたらー? あ、大丈夫! 私も毎日軽く遊びに来るから!」

 イナは満面の笑みでリガノとミタマに頷いていた。

「好きにしなさいよ……」

 ウカはイナにため息混じりに答えた。


「きょ、興味ないなら大丈夫かな……。大丈夫だよね?? ……じ、じゃあ、よろしくね。自分のとこの回線もオンにしておくから僕らの参拝客もシェアしよ!」

「……ウカに襲われる事を考えたくはないからあえて行こう……」

 怯えながらミタマとリガノは頷いた。


「三人よらば文殊の知恵ってとこ? いいわよ。助け合いだわね。……じゃあ、うち来る?」

「いくいくー!」

「……なんかどっかのテレビ番組みたいなんだけど……ま、いいわ。ちなみに、私も獣じゃないから! どこでも男をハントするわけじゃないんだからそんなに怯えないでちょうだい!」


「だ、だよな……。何をビビってんだ。俺……」

「まあ、ビビりたい気持ちはわかるけど」

 リガノは呼吸を整えて頭を正常に戻し、ミタマは半笑いで小さくつぶやいた。


 こうして7月の後半、のんびり平和なお泊まり会がスタートした。

 しかしこの後、のんびりできない事態が起こることにウカ達はまだ気がついていない……。

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