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七月病はさすがにない1

「あついー!あついあつい!」

 神社の石段を文句言いながら掃除中の少女。

 彼女はこの神社に住んでいる稲荷神のウカである。


 現在は梅雨が終わり、とても蒸し暑い時期が到来中だ。


「今年は梅雨が長かったじゃないの! もっと梅雨が続いてれば良かったのに! 涼しかったしよく寝れたのにー!」

 なんだか神様らしくない言い分を叫んでいるが彼女は人間には見えないので声も聞こえない。故にどれだけ叫んでも大丈夫だ。


 まあ、参拝客はいないのだが……。


「ウカちゃん! 休む気満々じゃん!」

 ふと石段下から数人の話し声が聞こえた。


「あー……」

 ウカはあきれた顔で石段下を覗いた。誰だかはわかっている。

 この神社に来るのは類友しかいない。


「やっほー! 偉い! 掃除してるよ!」

 ひときわ小さい稲荷神の少女イナは満面の笑みでウカを仰いでいた。


「けっこうやらかしてたからね……僕達……」

 優しそうな青年稲荷、ミタマは今までの事を思い出しながらため息混じりに答えた。


「今日こそ何か祈りを叶えられればと願う……。叶える方なのだが……」

 真面目そうな青年稲荷、リガノは腕を組んで頷いた。


「こんにちは。皆、いつも通りだねー。七夕過ぎちゃったねー……。まあ、私達には関係ない神様だけど」

 真夏の太陽の下でありえないくらいどんよりした空気が流れた。


「暗くなっててどうする! じゃーん!」

 イナは鼻息荒く持っていた風呂敷包みを開いた。


「ん? あー! アイスだー!」

 包みの中を見たウカは跳び跳ねて喜んだ。

 包みの中には高級そうなアイスキャンディが四本入っていた。不思議と溶けていない。


「……ちょっとまて……。イナ、これどうしたの? あんたも人に見えないでしょ?」

 しばらくして疑問が沸いたウカは訝しげにイナを見た。

 そんなことを言ってはいたがもう素早くイチゴ味のアイスキャンディを手に持っていた。


「同居してる友達の神からもらった! 神社にアイス持ってきた参拝客がいたんだって! まあ、神社に勤めてる人間に持ってきたみたいなんだけどね」

 イナが軽く笑いながらオレンジのアイスキャンディに手を伸ばす。


「まって、まって! それ、はやいもん勝ちなの!? 僕達、まだ選んでもないんだけど!!」

 ミタマが残った二本のアイスキャンディを持ちながら慌てた。

 ひとつはぶどう味、もうひとつは唐辛子味だった。


「……」

 ミタマは無言で唐辛子味をリガノに渡した。


「ちょっ、ちょっ……お前ら! 話し合いをしよう! しかし、なぜアイスキャンディで唐辛子……」

 リガノは受け取ってから焦って間に割り込んだ。


「それ、ロシアンアイスキャンディなんだよ。皆に分けるために四本引っこ抜いて持ってきたんだ!」


「これ、外れだよな……。わかってて持ってくる異常性を感じる……」

「わかったわよ。じゃあ、ロシアンしましょ! 風呂敷にアイス入れて棒だけ外に出して……棒を入れ換えて混ぜる!」

 ウカは全員分のアイスを風呂敷に包むと棒部分だけ出して入れ換えをして手で風呂敷の口を押さえた。


「はい。じゃあ、皆取ってー!」

「せーのっ!」

 三人は一気に引き抜く。


 イナはイチゴ、リガノはオレンジ、ミタマはぶどう。


「おー! やったー! 皆当たりー!」

 しばらく盛り上がった後に真っ赤なアイスキャンディを半泣きで見つめているウカに気がついた。


「あ……」

「えーん! 私はどーせ運が悪いわよ!! 参拝客なんて来ないんだからー!」

 ウカはしくしく泣き始めた。真夏の太陽の下、さらにじめじめした暗い空気が纏う。


「……皆で半分ずつ食べ合うのが良さそうだね。リガノー、女の子を泣かせちゃダメじゃないか」

「何を言う……。お前なんか俺に最初に唐辛子渡しただろ……。お前が最初にウカを苦しめたのだ」

 暑さのせいかミタマとリガノは謎のいがみ合いを始めた。


「もー、うるさいなー! リガノもミタマもウカちゃんに『あーん』って言いながら食べさせなよー!」

「あーん……!!」

「あー……ん……!?」

 イナの発言にミタマとリガノはなんだか変な想像をしたのか頬を赤く染めて黙り込んだ。


「ま、まあ……とりあえず……皆の分を割って……ウカ、皿を……」

「はーい!」

 動揺したリガノはアイスキャンディを割ることにした。

 ウカは機嫌を直し、社内からお皿を四つ持ってきた。


「あれ? 四つ?」

 ミタマが首を傾げているとウカが素早く皆が持つアイスを奪い全部粉々に砕いた。それを四等分に盛る。すべての味が混ざったレインボーかき氷のようになっていた。


「ちょっ……まてー!!!」

「ウカちゃーん!」

「やめでー!!」

 三人はほぼ同時に悲鳴を上げた。


「こうなったら痛み分けよー!!」

 そう、彼女は唐辛子アイスまで四等分して砕いた。


 混ぜ混ぜ……混ぜ混ぜ……。


「ちょっ……話し合おう! 早まらないでくれ!」

「ぼ、僕が悪かったです……」

 リガノとミタマに動揺が広がる中、つまみ食いしたイナだけは満面の笑みでこう言った。


「あー! 意外においしい!」

「うそぉ!?」

「はーい、できた! 皆食べよ!」

 ウカは額に汗をかきながらそれぞれに粉々アイスを配る。


 リガノとミタマは恐る恐る口に入れた。


「……お……? ……ん? なんか……スパイシーな感じが意外に邪魔してない……」

「あ、ほんとだ! こりゃうまい」

「はじめから混ぜときゃ良かったのよ!」

 ウカの発言に二人は同時に声を上げた。

「それはない!!」

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