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(2025~)稲荷とキツネ編

 寒い冬。だがだいたい晴れる正月の夕暮れに稲荷達が神社の霊的空間に集まり、お鍋料理をつついていた。


 「んん! うっま! しいたけの出汁と昆布?」

 ピエロ帽をかぶり、着物という不思議な稲荷少女ウカがお鍋料理を作ったキャスケット帽に着物の青年リガノに尋ねる。


 「ああ、後は魚介類だな」


 「深い! 深海だ! ご飯、おかわり!」

 ウカはリガノにご飯茶碗を差し出しす。ウカのとなりでご飯を食べていたナイトキャップに着物のこれまた変な格好の青年ミタマはため息をついた。


 「ウカちゃん、自分で持ってこようね……」

 「寒くて台所までが遠くてさ……」

 ちなみにこの稲荷達がいる茶の間は畳にコタツとなかなかあたたかい。


 「いっぱい食べる!」

 さらに横でお鍋の汁ごと飲み干している幼女の稲荷イナはドンブリ状態のご飯をすでにたいらげ、さらに要求していた。


 「イナちゃん、食べ過ぎだってば……」

 稲荷はよく食べるがイナは腹がブラックホールだ。気がつくとお釜に入っていたご飯が空になっている。


 「それで? 珍しいニンジンがはいっているとか。細長くて甘いやつ」


 ミタマの向かいで白菜をおいしそうに食べる青年稲荷のミノさんは冬でも袖無しちゃんちゃんこ一枚にニッカポッカのようなものを履いている神で他の百合組地区の稲荷とは違い帽子で耳を隠していない。キツネのような耳がたくましくはえている。


 「ああ、栽培が難しくて手間がかかるあのニンジンお鍋に入ってるよ。かなり甘いね」

 ミタマが笑顔で答え、ミノさんはどこか懐かしそうに味を確かめた。


 「あー、これな。育てるのが難しいから育てる農家がいなくなったニンジンじゃねぇか。うーん、うめ!」


 「ねぇ、ミノさんってさ、実りの神で起源はウケモチ神だよね? 私達ウカノミタマとは違うよね?」

 ウカは最近勉強したことをミノさんに尋ねた。


 「ウケモチ神はえーと……」

 リガノが横で高天原電子端末スマホを取り出し調べ始めた。


 「保食神(うけもちのかみ)、穀物の神でアマテラス様がウケモチ神が出した穀類を植えたと。ふむ。俺達はアマテラス様に食べ物を運ぶ神だった。俺達とミノさんは違う神かもしれないが、人間が稲荷とくくったらしい」


 「人間、てきとう……」

 「人間はいつだっててきとうだぜ?」

 ミノさんは手を叩いて笑っていた。


 「イナなんて子供がたくさん食べ物を食べられるようにって想像された稲荷だよ? 追加で縁結びにもなった」

 イナが幸せそうな顔で笑うので、一同も笑ってしまった。


 「イナはもう全然違うじゃん」

 「この辺は食べ物に困らない! ミノさんの神社の裏、スーパーだし」

 イナの発言に稲荷達は爆笑した。


 「そうそう、俺の神社は再建された神社なんだよな」

 ミノさんがキノコを熱そうに食べながらそんなことを言った。


 「へー! だからなんか新しいんだ!」

 「この辺、駅が近いから都市開発で区間整理してたんだよ」

 「あー、そんなことあった気がする!」

 ウカが思い出したように声を上げ、

 「ウカちゃんもてきとうじゃん」

 とミタマが苦笑いで答えた。


 「ミノさんはなんか謎が多いよね? 自分のこと、調べたりした?」

 「んー……いや?」

 ウカに尋ねられたミノさんは少し考えた後、そういえば何もしてないことに気付く。


 「自分の出生、わからないの? まさか」

 「んあ……わからねー。と、いうか知らないな……。なんで知らないんだろ?」

 ミノさんはシイタケを口に含みながらつぶやく。


 「皆でミノさんの秘密、探ってみない?」

 「ウカちゃん……闇の地域って呼ばれてる百合組地区の活動はどうすんの?」

 ウカの言葉にミタマが聞き返した。 


 「この地域で一番、親しまれてるのがミノさん。私達は太陽神様の神社の横に稲荷として祭られているけど、ミノさんの本社は独自に再建されてお祭りもやる、かなり大きい社。どうしてこれ、稲荷ランキングに反映されないの?」


 「確かに。ミノさんのでランキングあがりそうだけどね」

 ウカの疑問にミタマが頷いた。

 「ミノさんは稲荷じゃないのかも」

 ウカはミノさんを見つめる。

 「まあ、わかんねぇけど、俺」

 ミノさんが不安そうな顔をしたのでウカは慌てて付け足す。


 「いや、別に稲荷じゃなくてもいいんだよ? でも、気にならない?」


 「気になるけど、おたくらを失望させてしまう出現理由かもしれねぇよ? 嫌われんのやだぜ」

 ミノさんが心配していたのは真実を知った後、元の関係のままでいられるかだった。


 「嫌わないよ、あんたはあんたでしょ? それに出現理由をあんたが知らないのはわりと問題ありそうなんだけど」

 「んん……確かに」


 「ミノさん、僕達は皆、変わらないよ。ずっとね。百合組地区は基本頑張らないでしょ? 闇の地域とか言われていてもなんかするわけでもなく、皆で鍋を食べてる」

 「まあ、そうだなあ」

 ミタマの言葉にミノさんは頷いた。


 「ミノさん、俺も百合組地区稲荷は何も変わらないと思うぞ。検索して稲荷とは違うかもと思っても皆、なんとも思っておらん」

 「そんな気がするな」

 リガノの言葉にもミノさんは頷く。


 「自分のこと、知りたいなら協力するよ!」

 にこやかなウカが代表で鍋にうどんを入れた。


 「知っといた方がいいかもな。俺、なんか知らないのにこの辺に詳しいんだよな」

 ミノさんは煮込まれるうどんをぼんやりと眺めていた。横からイナがうどんを取っていく。


 「イナ、ひとりで食べない!」

 ウカに叱られ、イナは頬を膨らませながら箸を退いた。


 「じゃあ、調べてみよ! 明日、神々の図書館に行くよ!」

 「俺の記述なんてあるかなあ」

 ミノさんは自信なさげにうどんをすすった。


 稲荷達は軽い気持ちだった。

 これが大変なことへと繋がるとは稲荷達は誰も思っていなかった。 

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