春待ち稲荷5
クゥに連れられて楽しく宇宙空間を浮遊した後、ウカ達はミノさんに叩き起こされた。なぜ、宇宙空間を楽しく浮遊した記憶があるのかはわからないが、弐の世界は夢の世界でもある。
「オイ! 起きろ! こばるとが帰ってきた!」
「ふぇ!」
ミノさんに起こされた稲荷達はイナとミノさんが居候している時神さんのおうちの裏の社に寝かされていた。
なぜ寝ていたのかはわからないが、弐の世界とはそういうところだ。
「俺がおたくらをひとりずつ運んだんだよ」
「あ、ああ……ありがとう」
ミタマがとりあえずのお礼を言い、リガノが慌てて起き上がった。
「はやく、時神に助けたことを言わないと、稲荷ランキングが!」
「そうだ!」
「その後、ご飯をご馳走に!」
ウカが起き上がり、イナはお腹がすいて飛び起きた。
がめつい稲荷達である。
「なんかな、こばると、すげぇ怒られてるぞ。助けてやれよな」
ミノさんが呆れたため息をついた。
とりあえず稲荷達は社から出て庭を横切った。まだ冬だったことを思い出し、寒さに震える。
「あったかいもの、食べたいね」
「イナ、後でにしてよね」
イナを注意しつつ、時神さんの一軒家に入ると、畳の一室から声がした。
「どこに行っていたんだ? 神力を辿られないようにしたのは誰だ? なぜ、何も言わない?」
紅雷王プラズマがこばるとを厳しく尋問していた。
「こばると! 何も言わないで出ていかないで! あなたはまだ神力が安定していないの。いつ消滅するかわからないのよ!」
アヤにも叱られていた。
「……うん。わかってるってば……」
こばるとは涙目でズボンの裾を握りしめていた。
「俺達、ナメられてるよな? 時神全員で探したんだぞ。俺達をナメてるのか? 見つからない、そう思ったってことか? 誰かどこぞの神と組んでイタズラでやったのなら……俺は許さないぞ」
プラズマに睨まれたこばるとは震えながら首を横に振った。
「違います! 違います!」
こばるとの態度を見た紅雷王プラズマはため息をつくと雰囲気を変えた。
「違うなら何をしていたのだと聞いている。時神は世界に影響を与えられる存在。だから私はすべてを把握しなければならない。報告義務は守れ」
「……だ、だって……皆に迷惑かかっちゃうし……その……」
「こばると、言葉遣いを教えたはずだ」
正座をしたプラズマに睨まれ、こばるとは本格的に泣きながら頭を下げた。
「ごめんなさい……本当に言えません。約束もしてしまいました」
こばるとの言葉にプラズマは立ち上がった。こばるとの小さな悲鳴が障子扉に隠れたウカ達の耳にも届く。
「うわー、時神の主、こえー……」
「あの子、私達の稲荷ランキング、あげようとしてくれてる……」
「それで? お前達は何を?」
プラズマが立ち上がった理由は稲荷に気がついたからだ。いつの間にかプラズマがウカ達を覗き込んでいた。
「わっ! えっと、えーと……」
稲荷達は複雑な顔でプラズマを見上げた。
「あ、あの! 僕は稲荷様に助けられました……」
「んん?」
こばるとの発言にプラズマは眉を寄せた。
「……こばるとくん、もういいよ。私達の稲荷ランキングはもういいから、真実を説明しよう」
「だって稲荷様、ランキング上げたいんでしょう?」
「時神の主に嘘をついてまでこばるとが俺達の稲荷ランキングを上げようとしなくていい」
発案者のリガノが止めたので、こばるとは口を閉ざした。
「こばると、どういうことだ?」
「大したことじゃないんだ。実は……」
こばるとはようやくプラズマにすべてを話した。
「なるほどな……。お年玉か。怒って悪かった。クゥ達には言ってほしくないんだな?」
「……はい。迷惑かけてしまうから」
こばるとの説明に頭を抱えたプラズマはアヤを横目で見る。
「だってよ、アヤ。しかし、冷林……あの子はもう……もっと上の自覚を持てよ……はあ」
「大丈夫な神でも、勝手に行ってはダメよ。せめて時神の誰かに言ってから行きなさい。そもそもイナに見つからなければいいのだから、私達に隠す必要はなかったじゃないの」
アヤに言われ、下を向くこばると。
「まあ、正論……」
ミタマがつぶやき、プラズマが再びため息をついた。
「まあ、なんか……誰にも秘密にしておきたいっていう気持ちはわかるけどな」
プラズマはいつもの雰囲気に戻ると、こばるとの肩に手を置いてから他の時神に神力電話で連絡を入れた。
「こばるとは見つけた。稲荷が保護をしてくれたようだ」
この連絡で時神達の安堵のため息が聞こえた気がした。




