春待ち稲荷4
イナ達が目を開けると、そこは様々な花が咲く暖かな世界だった。
春が恋しい。
「あったかーい。寝よ」
「ウカちゃん!」
ウカが寝ようとしたのでミタマが鋭く止めた。
「ああ、いけない! って、ここどこよ?」
「弐の世界だな。生きている者分の世界があってすべての心の世界や夢、霊魂が住む世界とされている」
「弐の世界かあ。だから急に春に。誰かが想像した世界にいるわけだね、私ら」
リガノの言葉にウカは頷いた。
「イナ、こばるとはどこ?」
ウカは座り込んでいたイナに声をかけた。
「んー。ここにいそうだけど、イナ、わかんなくなっちゃったー」
「あー、縁結びタイム終わっちゃったか」
とりあえず、元に戻ったイナを連れて稲荷達は歩き出した。
「あ! あれ!」
しばらくてきとうに花の世界を歩くとイナが声を上げた。
「んあ?」
ウカ達は眠くなっていたので慌てて目を覚まし、イナが指差した方を向いた。
目の前に男の子三人組となぜか年神がいた。
「あれ? クゥと……誰?」
「こばるといるじゃん!」
イナの声にこばるとが振り向いた。
「あ、稲荷かあ……」
こばるとはいきなりため息をついた。
「稲荷かあって、ひどくない? あんた、時神が探してたよ!」
ウカはあきれた顔でこばるとを見た。
「んー……まあ、いっか」
「なにがよ? てか、残りの子は?」
ウカが残り二人の少年が誰なのか聞いた。答えたのはクゥだった。
「あー、アマノミナカヌシの一柱、ミナト君と、あと、あんたらの上司でもある冷林っすよ」
「えー!」
ウカ達は驚いた。
青い髪に烏帽子、水干袴姿の少年が冷林、黒い髪に礼服みたいなものを着ているのがミナトのようだ。
「冷林様ってさ、渦巻きが顔についた変な人型のぬいぐるみじゃなかった?」
「本来はこの姿だよ。彼は安徳帝、僕達と同じ子供だよ。お初ですね。よろしくお願いいたします」
ネクタイを直したミナトがウカに一礼をした。礼儀正しい少年だ。
「あ、ああー、はい。よろしくお願いいたします……」
ウカ達もそれぞれ、頭を下げた。
「てか、何しにきたの? ……あ、来たんですか?」
こばるとは言い直しつつ、ウカ達を見上げた。
「あんたを時神が探しているから、私達も心配して探しに来たのよ」
「あー、いないことバレちゃったかあ。まだ一時間くらいだよね?」
こばるとはミナトに軽く聞いた。
「だね。ここは冷林の心の世界だから、正確な時間はよくわからないけど」
ミナトが答え、ウカが眉を寄せる。
「何してたのよ」
「そーだ! イナちゃんに隠れて楽しそうなことしてー!」
イナが怒ったところで、こばるとは堪忍して話し始めた。
「あー、えーとね。お年玉もらったんだけどさ、何を買おうかなと思って、どうせなら皆で遊べるなんかを買おうとしててさ、友達のミナトと冷林に相談して、イナにサプライズしようかと。ああ、こっちの世界にいる友達、ルナとかスズ姉とかとも遊べるかなーってさ」
「えー! さぷらいっ! ありがとう! イナちゃんにも相談してくれたら良かったのに!」
イナが目を輝かせてこばるとを見た。
「あのな! サプライズなの! イナに相談したらサプライズじゃないじゃんか!」
「あー! そっか! さぷらいって何? ぷらずま?」
イナの抜けた発言にずっこけたこばるとを見つつ、稲荷達はため息をついた。
「クゥちゃんはなんでいるの?」
ミタマがなぜかいる年神に声をかけた。
「お年玉っすから、ご協力のためっすね! どこでもお店に送迎するっす!」
「そのために? ……はあ」
ミタマがさらにため息をついた。
「じゃあ、ちょっといいか?」
話が一通り終わったところでリガノが口を開いた。
「ん? なに?」
「俺達が君を見つけたってことにして、稲荷ランキングを上げていいか?」
「なに? 稲荷ランキング? よくわかんないけどランキングなら上げた方がいいよね? どうぞ」
こばるとはてきとうにそう言った。
「じゃあ、一回、時神さんのところに戻ろ! 黙って出てきたら心配するって」
ミタマがそう言い、こばるとは冷林とミナトにどうするかと聞いた。
冷林は手を振り、ミナトは
「もうイナちゃんに隠す必要もないから、ここじゃなくてそちらのおうちに行くよ」
と答えた。
「あ、じゃあ、帰る。クゥさん、結界で止めてた神力を解放していいよ。逆にさ、神力たどられないようにしたからママとかが混乱したのかもしれないし」
「まあ、そうっすね」
こばるとにクゥはそう言うと指をならして結界を解除した。
「じゃ、じゃあ、お帰りということで?」
ミタマが尋ね、こばるとは頷いた。
「帰るー! イナにバレちゃったのは悔しかったけどね!」
「じゃ、行こうか。どうやって出るの?」
ウカはあきれつつ、こばるとに尋ねた。
「あー、クゥさんが……」
こばるとがクゥを仰ぎ、クゥは頷いた。
「このホウキを使えば空を飛んで軽くこの世界から出られるっすよ!」
「ホウキ、かっこいい! イナもやりたい!」
イナが目を輝かせているのでウカはため息をついた。




