春待ち稲荷3
「縁結び発動! って言ってみる! 縁結びってだいたい突然感じるから実際はわかんない。こばるとくん、どこにいるのー! オーイ! こばるとー!」
イナはとりあえず叫び始めた。
「なんか変わるの? それで……」
ウカがあきれたため息をついたところでイナが何かを感じ取った。
「こっち!」
「ちょ、イナ!」
「イナちゃん⁉」
イナが突然走りだし、ウカ達はイナを追う。
「ど、どこにいくの」
イナは道ではない山の中へと足を踏み出した。
「ええ……」
ウカ達は進んで行ってしまうイナを必死に追いかけた。草が覆い繁り、歩くのも大変だ。
「イナ、そんなに進んだら危ないぞ!」
リガノが声を上げるがイナは変わらない。
「イナちゃん、なんかゾーンかなんかに入ってる? 導かれて集中してる?」
ミタマがウカに困惑しながら話しかけた。
「声かけにも反応しない。なんかやばそう……」
「オイ! そこから先は冷えの林! 冷林だ!」
ふと、上から声がした。木の上に焦った顔のミノさんが見えたと思ったら、ウカ達は全員足を滑らせ、草木で全く気がつかなかった穴に勢いよく落ちた。
「うわあああ!」
「そこは冷林伝説二番目の地域で大穴が……って、落ちちまった……。なんであいつら、あんなに身体能力ないんだよ……」
ミノさんは頭を抱えつつ、木から木へと飛び移り、穴の中へと入っていった。
「いってて……」
穴に落ちた先でミタマが腰を抑えながら起き上がる。
「皆、無事?」
ウカは座りながら辺りを見回した。
「無事じゃないのがひとりいるぞ……」
声はウカの下から聞こえた。
「わ! リガノくん、ごめん!」
ウカの尻に敷かれていたリガノは唸りながらウカをどかした。
「ウカちゃんのお尻の下に入るなんて、リガノ君、男前じゃん」
「……入りたくて入ったわけじゃない……。尻に敷かれてなにが男前だ……」
「ま、稲荷はこんなんじゃ怪我もしないけどね」
ウカ、ミタマ、リガノは立ち上がり、辺りを見回した。光が微妙に上から差しているが暗い。イナは三人の前に背を向けて立っていた。
「ここ……」
イナは何もない空間に手を伸ばした。
「イナ!」
ウカがイナに手を伸ばした刹那、稲荷達を白い光が包み、どこかへと消した。
その後すぐにミノさんが上から降りてきてウカ達を探し始めた。
「ん……?」
ミノさんは少し歩き回った後、土が微妙に擦れている部分を見つける。
「もしかして、冷林に……。あー、そうかい。こりゃあ、心配いらないな。安徳帝でアマテラス系列で、紅雷王の系列なら大丈夫だろ」
ミノさんはそうつぶやくと、どこか安堵の表情で去っていった。




