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クリスマスに年神!1

 「あー……さっぶ」

 ウカがコタツに入りながら横になっている。手には漫画雑誌。横にはみかん。

 時刻は夜の六時過ぎ。

 だいぶん寒い。今日は特に寒く、五度を下回っている。

 「ウカちゃーん、夕飯! 今日はクリスマスイブじゃん、キッシュ、リガノが作ったよ。あと、サラダとミネストローネとケーキ!」

 ミタマが顔を出し、なんだか楽しそうに躍りながらやってきた。

 「わあ! やっとごはん! 楽しみ! 今日はイナが時神さん達とミノさん付きでクリパしてるみたいだから、ぜーんぶ私達の!」

 「イエーイ!」

 「二人で踊るのはいいが、手伝ってくれ……」

 「はーい!」

 ミタマとウカがウキウキで準備していると、神社の扉が突然に開け放たれた。

 「ひぃぃ!」

 驚いたのと寒さで悲鳴をあげるふたり。

 「どーもーっす! 新年明けましておめでとーうっす! 年神の挨拶でーす! 今年もよい一年になりますよーに! って! 部屋が汚いっす!」

 入ってきたのは元気な少女で魔女帽子をかぶった全体的に緑の創作着物を着た年神だった。

 「あー……新年に家々をまわる年神……の、クゥか……」

 「明けましておめでとーうっす! 遅くなりましたっす! じゃ!」

 「ま、待って⁉」

 ウカが止めるとクゥは眉を寄せて立ち止まった。

 「なにっすか? 今日中に全部の家をまわらないといけないっす! きれいなお部屋だとイイコトあるっすよ!」

 「じゃなくて! いま! クリスマス!」

 「え?」

 クゥが驚きの表情を浮かべた。

 「え、じゃなくて、年末なんだけど。あんた、今まで気づかずに朝から家をまわってたわけ?」

 「なんだと! クリスマス!」

 「そうだよ……」

 ミタマもあきれた声を上げた。

 「今来たらクリスマスの食事、おいしくなくなっちゃうじゃんか……。師走だけども。皆急いでいるけども!」

 「あー、はやとちりしたっすねー! 慌てん坊だったっす!」

 「慌てん坊って……サンタの歌じゃあるまいし。一月一日にまた来てよ」

 ミタマがてきとうに手を振った時、クゥが寂しそうにこちらを見てきた。

 「なんか食べるっすか? クリスマスのご飯作ってるっすか?」

 「え、ええ……」

 言葉を濁すミタマにリガノが台所から顔を出し答えた。

 「俺がほぼ作ったぞ」

 「リガノくーん」

 ミタマが首を横に振った。

 「うわあ! 何か違う神がいた! ウカがしゃべっているのかと」

 リガノが台所から居間にご馳走を持って入ってきた。

 「うわあ! ミネストローネだあ! キッシュだあ!」

 「あー、タイミング悪かったか?」

 リガノの言葉にウカとミタマは深く頷いた。

 「えーと、食べる?」

 ウカがとりあえず聞くと、クゥは何度も頷いた。

 「いやー、朝から家をまわって疲れたっすよー!」

 「間違えるにしても早すぎだけどね⁉ てか、あんたもそれぞれの家に沢山いるんじゃないの?」

 ウカは仕方なくクゥをコタツに入れ、温かいお茶を出す。

 「んー、私は時神でもあり、穀物神でもあるっすけど、沢山いるかはわからないっす! 社がないっすから。兼業している神もいるかもっすねぇ」

 「あんた、時神なの? じゃあ、紅雷王に詳しかったりする?」

 ウカはキッシュを切り分けながらクゥに尋ねた。

 「湯瀬紅雷王っすね。てか、ウカノミタマとも親類っすよ、私。一応、親父はスサノオ様っすから!」

 「えー! そうなの? で、紅雷王はアマテラス様の子孫で、アマテラス様はスサノオ様の姉!」

 「そうみたいっすねぇ」

 クゥは手を合わせるとキッシュになにやら赤い粉をかけ始めた。

 「うわっ! カプサイシンすぎるぞ!」

 「なにやってるの! 素材の味が!」

 隣でリガノやミタマが悲鳴をあげている。

 「で? 紅雷王は! ああ! 見てるだけでからいっ! 舌おかしいんじゃないの!」

 「赤いは正義っす! 痺れる辛さがたまらないっす! えー、この真っ赤な感じの男の話っすよね? 彼とは皇族時代に会ったっす! 当時、世界が過去、現代、未来の三つの世界にわかれていて、未来神は未来の世界、(よん)にいたけども、私はホウキで飛んで時間を渡れるっすから普通に挨拶しにいったっすねー」

 「えっ! 世界って三つにわかれていたの⁉」

 ウカの驚きにクゥは苦笑いを浮かべた。

 「知らないっすか? こないだまで時神さんは別々の世界にそれぞれいたっすよ。過去は参の世界、現代は壱の世界っす。それがある時神により統合されて、時神さんは壱の世界に全員存在するようになったんす! だから、紅雷王を本来あんたらは知らないはずっすね」

 「なんかとびすぎててわかんないなあ」

 ミタマが頭をかきつつ、キッシュを口に入れる。バターの香りが広がり、顔がほころんだ。

 「じゃあなんで知ってるのよ? あたしら」

 ウカが首をかしげながらミネストローネを飲んだ。トマトの酸味とあたたかみに顔がほころんだ。

 「紅雷王を知っている理由は別の全く同じ外見のあんたらが肆(未来)の世界にもいたってことっす。過去、現代、未来は三直線。同じ時代の未来、過去があるってことっす。つまり、二千年なら未来の二千年、過去の二千年それぞれ同じように別にあるってわけっすね。それが今、全体でひとつの神がいるという風になり、参や肆からでも壱にいるすべての時神の認知ができるようになったわけっすよ。それにより」

 クゥはミネストローネにも真っ赤なパウダーをかけ始めた。

 「別々に存在していたあんたらも同時期の未来と過去の記憶を統合されてここにいるから紅雷王を始めから知ってるわけっすね」

 「クリスマスの日に哲学か……」

 リガノがガーリックトーストも持ってきた。ニンニクの香りが広がる。

 「おいしそうっす!」

 「全部その赤いのをかけないでよね」

 「自分のだけっすよ」

 クゥは笑いながらガーリックトーストにも辛いパウダーをかけた。

 「全部同じ味になっちゃうじゃん……」

 「この辛さの奥から素材の旨味を感じるっすよ!」

 「何かレベルが違うわ」

 ミタマはあきれつつ、ガーリックトーストをかじる。ガーリックの風味が心地よい。

 「うまい! リガノくん、料理上手!」

 「最高! 天才!」

 「まあ、検索すればこのくらい……」

 ミタマとウカにほめられ、照れるリガノ。

 「……一番アマテラス様の食事係をしっかりやりそうっすね、リガノくんは。本来の稲荷っす」

 クゥの発言にウカとミタマは苦笑いを浮かべた。

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