梅雨1
六月。梅雨には入っていないが、暑く雨の多い日が続く。
「あー、だるっ。何もやる気でなーい」
「いつもは『いつもやる気ないでしょ』とか突っ込むけどさ、僕もダメだー。しかも、今日はちょっと涼しい」
ウカとミタマは社内の一室で横になっていた。何もしたくない。
「六月病が到来か! 検索をしなければ! 乗り越えられん!」
変な方向にスイッチが入ったリガノはスマートフォンで六月病の検索を始めていた。
「なんなのー、この状況ー」
「たぶん、六月病だよ、ウカちゃん……」
ミタマはため息混じりに外を眺めた。外は良い感じに雨が降っている。
「アジサイとかキンシバイとかキレイなんじゃない? 今」
「キンシバイ? なんか禁止されてんの?」
ウカが湿った旅行雑誌を意味もなくパラパラとめくり、ミタマに尋ねた。
「黄色い太陽みたいなお花ー。梅雨の太陽って言われてる」
「あたしみたいじゃん」
「いや、ウカちゃんはコケでしょ、今。キノコ生えそう」
「失礼しちゃうねー」
意味もない会話をしていると、ジメジメに似合わない元気な幼女の声がした。
「イナチャン! さんじょーう!」
「あー、イナか」
ウカは目の前に立つ元気なイナを寝転がりながら見上げた。
「雨だね! 水たまり、楽しいよ! ヤモリも楽しそうだよ!」
「ああ、あの地味めの龍神か」
ウカはつぶやきながら起き上がった。
「この雨、ヤモリの友達の誰か龍神が持ってきてる?」
「さあ? 掃晴娘やる? 雨が楽しいのはわかるけど、梅雨じゃないのに続きすぎ……」
ミタマが苦笑いを浮かべ、ウカは眉を寄せた。
「なに? そうせいじょって」
「てるてる坊主のモデル。ホウキで雨雲を払ってくれる美しい女性なんだって。てるてる坊主はいわれがなんか怖いからさ」
ミタマが説明し、リガノは唸った。
「そうせいじょとは何をするんだ? てるてる坊主を作った方が良さそうだぞ?」
「雨雲を払う! アマテラス様に近い僕達がさ、ホウキ持って神社を掃けばもしかしたら晴れるかも」
ミタマがそんなことを言い、ウカは笑った。
「龍神と対決するの? 楽しそうじゃん」
「ホウキで遊ぶっ!」
イナも叫び、なぜか雨の日に遊ぶことになった。
変な方面のやる気がある稲荷達である。




