端午の節句2
「イナちゃんさんじょー!」
「うわぁっ!」
扉が開け放たれ、イナが元気よくウカの神社に入ってきた。
「い、イナ……びっくりしたあ」
お風呂を沸かしている間に旅行雑誌を見ていたウカは飛びはねて驚いていた。
「イナちゃん、どうしたの? 今日はいつにも増してみなぎっているじゃん」
横にいたミタマが苦笑いを浮かべ、寝ていたリガノは飛び起きた。
「いや、寝てない。これからのために休養を……ってイナか」
「菖蒲! 菖蒲が必要なの! いますぐ外を歩いている赤ちゃんだっこしてる人に渡して!」
イナは興奮気味に言うが、ウカは眉を寄せていた。
「え? どういうこと?」
「イナちゃん、一応、菖蒲はあるけど、なんで?」
ミタマに尋ねられ、イナは手短に話した。
「えーと、ヤモリからその人が菖蒲を欲しがっているから、ウカなら持ってるかなって! 初節句なんだよ!」
イナは必死に言うがよくわからない。
「うーん、初節句……それで菖蒲がないのはかわいそうだね。もうそろそろ夕方だし、菖蒲は売り切れてるよ。……はい」
ウカはよくわからなかったが、こどもの初節句に菖蒲湯ができないのだと判断し、イナに菖蒲を渡した。
「厄除け! 厄除け! 厄除けだ!」
ミタマもリガノも早く持っていけとイナを促した。
イナは笑顔になると菖蒲を抱え、すぐに外に出る。そして、赤ちゃんを抱いている人に突撃した。
すぐにヤモリに捕まり、イナは頬を膨らませる。
「待ちなさい。赤ちゃんがいるんだよ? 私が渡すからね。私は人間に見える神様だからねー。菖蒲、ありがとう」
「赤ちゃん、忘れてたよ」
ヤモリがイナから菖蒲を受け取り、赤ちゃんを抱えるお母さんに話しかけた。
ヤモリは多めに買ってしまったからと理由をつけると菖蒲をお母さんに渡した。
お母さんが喜びの笑顔でヤモリに頭を下げ、赤ちゃんに声をかけていた。
「あーあ、イナがあげたかったなあ」
イナは残念そうにヤモリとお母さんを眺めた。
「おたく、マジで突撃するつもりだったのかよ……。まあ、頑張ったんじゃね? あれ、おたくが引き寄せたのかもしれないぞ? 忘れていたが、おたく、縁結びの神なんだろ?」
ミノさんに言われ、イナはなるほどと頷いた。
「縁結びだ! 確かに! 縁結び!」
イナが騒いでいるとヤモリが戻ってきた。
「役に立つじゃない。しかもあの菖蒲、様々な稲荷の手に渡ったからきっと効果すごいよ~」
ヤモリは笑顔で去っていった。
「もしかして、信仰心増えてたりして!」
ヤモリがいなくなってからイナはにこやかにミノさんを見上げた。
「珍しく働いたかもなあ。ウカんとこでかしわ餅食おうぜ~。菖蒲湯はねぇけどな」
「イエーイ! かしわ餅!」
ふたりはにこやかに笑いながらウカの社へと向かった。
ウカの日記。
今日、菖蒲湯は結局した。
時神のおうちで菖蒲をわけてもらった。男の子がいるのかと思ったら幼い男の子がいた。
紅雷王は「彼」、高天原北の主、冷林と黒髪の幼い男の子のため菖蒲湯をしたようだ。
冷林様は我々の主。
彼はどうやら「安徳帝」のようだ。黒髪の男の子についてはよくわからない。




