2月は節分2
「オイコラ! 『えーだれぇ』じゃねー!」
ウカ達の前には赤い髪の青年が腕を組んで立っていた。上下紺色のスウェットを着ている、頬に赤いペイントをしている男だ。
「うわっ、やべ、紅雷王だ……」
ミノさんは静かに社から出ようとしたが、赤い髪の青年に止められた。
「それで、これは、何集まりだァ?」
「えー、今後の勤務について会議をですね……」
ミタマが青い顔で青年を見上げる。この青年は湯瀬紅雷王。プラズマというあだ名で知られる稲荷神の上だ。
アマテラス大神の力を受け継ぐ太陽神の主、輝照姫大神サキとアマテラスの子孫の時神未来神、両方とも稲荷にとっての上司だ。
稲荷は元々、アマテラス大神に関係があるがアマテラス大神は現在、世界にいない。
「会議ねぇ……。で? どうやって信仰を集めるんだ? 言ってみろ」
「えー……ミタマくんが説明しまっす!」
ウカに全ふりされたミタマは顔色が急に悪くなった。
「ちょ、ウカちゃん!? え、えー……ああ! 今から会議をやるので、まだ決まってなくて……」
「もうやる気ないだろ……」
プラズマがあきれたところでリガノの呑気な声と喜びの声を上げるイナの声が響いた。
「大豆のお菓子を作ってみたぞ。砕いて衣に……」
「おいしそう! 早く食べよう! 一個ちょーだい! ……あ」
「……本当に会議か?」
プラズマは眉を寄せた。
「誰だ、鬼みたいな神を連れてきたのは」
リガノは頭を抱える。
「リガノくん!」
ウカが青い顔で叫び、プラズマは静かに拳を震わせた。
「逃げろー!」
ミノさんの楽しそうな掛け声で稲荷達は逃げ出した。イナはリガノが持つ大豆のお菓子を横から摘まみながら走った。
大豆を衣にして作ったコロッケだった。
「これ、うまー!」
「イナ! あたしの分もとっておきなさいよ!」
「コラァ! まてぇ!」
プラズマの声を残し、稲荷達は逃亡に成功した。
「……そういやあ、アマテラス様ってどこいったんだろ?」
「たしかに」
逃げ切ったウカが何事もなくつぶやき、ミタマは唸った。
「まずプラズマについて調べる?」
イナが無邪気な笑顔を向け、コロッケを頬張りながらそんなことを言った。
「あー、いいかもねー、暇だし」
「暇なら信仰心集めろって話なんだけどねー、稲荷ランキング上げるんじゃないの? ウカちゃん」
ミタマが余っているコロッケに手を伸ばし、口に入れる。
「ま、勝手に上がるでしょ。ミタマくん、あたしの残しといて!」
ウカもコロッケに手を伸ばす。
「あ、俺もー!」
ミノさんも手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと待て! 両手で皿を持っている俺はどうすればっ!」
リガノはなくなっていくコロッケを涙目で見つめていた。
もうすぐ春が来る。




