一月のこと2
「きたよー!」
一番最初に現れたのは元気なチビッ子幼女稲荷、イナだった。巾着を逆さにしたような帽子を被り、羽織に袴だ。
「ああ、イナ、いらっしゃい」
ウカがてきとうに神社内の霊的空間に上げる。霊的空間は人間からすると見えない空間だが、神々からすると生活空間が広がっている。ウカの霊的空間は五畳くらいの生活空間だ。
「て、手伝ってくれると嬉しいのだが」
イナの後ろから情けない男の声がした。
「あー、ミタマくーん、リガノきたー」
ウカが部屋の奥にいるミタマに声をかける。ミタマが顔を出し、キャスケット帽を被る羽織袴の青年が持つ荷物に目を向けた。
「白菜ある?」
「もってきた……重い」
「はいはーい」
キャスケット帽の青年リガノは楽観的な雰囲気のミタマに野菜の入った段ボールを押し付けた。
「え、おもっ……」
「お前に買えといわれたもんを買ってきたんだ。手伝いに来てくれれば良かったのに……」
「行かなくて良かった……」
「ミタマ……お前」
「ごめん、ごめん~。とりあえず、中に」
「……はあ」
リガノが部屋に入り、続いて肩から布がないちゃんちゃんこを着た金髪の青年が元気良く現れた。
頭にキツネ耳がついている。
彼だけ帽子を被っていない。
稲荷神の中で帽子が流行っているらしく、皆、個性的な帽子を被るようだが、彼だけは帽子を被らないようだ。
「腹へった~! 飯食いにきた~!」
「うちは定食屋じゃないよ!」
間髪を入れず、神社内からウカの声が響く。
「まあまあ、穀物の神として、うどん持ってきたぜ!」
「ナイス! ミノさん! 餅もあるしお腹いっぱいになるね」
ウカにミノさんと呼ばれたキツネ耳の青年は少し得意気にうどんをかざし、神社内へ入った。
「てか、皆、集まるのに五分もかかってないじゃないのっ! その力があってなんで最下位なわけよ!」
「……ねー……」
ウカが机にみかんを置きながら言い、それぞれ同じ反応をした。
「そろそろ百合組地区のアマテラス様の子孫の紅雷王様が怒りそう。去年は何も言ってこなかったけど」
「あの神は時神のトップでもあるから、忙しいんじゃない?」
ウカにミタマがお鍋を準備しながら楽しそうに答えた。
「まあ、鍋にしよ、鍋、鍋」
ウカは色々考えるのが嫌いである。野菜を運ぶリガノがキッチンに入るのを眺めつつ、ウカはコタツで横になる。
「ウカちゃん、今年はイケイケの年にしようよ!」
チビッ子稲荷のイナがみかんを食べながらウカに微笑んだ。
「イケイケ……」
「ムリムリー、どうせ三日で頑張りはなくなるぜ」
考えるウカにミノさんがてきとうに返す。
「今年は頑張るか……」
野菜を煮るおいしい匂いがしてきた。ウカの頭はすぐにお鍋に向かった。
「お鍋きたー!」
イナが喜び、ミタマが食器を持ってくる。
「おいしそー!」
土鍋を持ったリガノがやってきて、輝かしい煮えた野菜達をお椀に盛り始めた。ミタマがお米を持ってきて、一同の腹が鳴る。
「まあ、食べてから考えるか」
と、結局、考えるのをやめるウカだった。
『今年も』稲荷ランキングをあげることは難しいかもしれない。




