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エピローグ・いなり

あれからホワイトデーをすっ飛ばして四月。

暖かい春の風とピンク色の桜の花びらが散っていく。


ウカはシートを広げて一年前と同じ場所でお花見をしていた。


「今日は稲荷の信仰心ランキング発表の日!」

ウカはお重のフタを開けて、おいなりさんを並べる。


「ウカちゃーん!お待たせ」

しばらく待っているといつもの稲荷達が到着した。今回はなぜかミノさんもいる。


「場所取りはできてるわよ。……で、ランキング出た?」

「出た出た!見て!」

ウカが尋ねるといなり寿司に手を伸ばしていたイナが、同時に一枚の紙を渡す。


「電子紙だから手を離したら消えちゃうからね」

イナが早口で言うと、いなり寿司を二つ持ち食べ始めた。


「お!」

「気がついた?ウカちゃん」

ミタマが愉快な雰囲気で笑う。


「私達皆、信仰心が上がってる!」

「まだ、相変わらず底辺だが……」

今度はリガノがランキングの部分から右側を指差した。


「ん?」

「特別賞。賽銭泥棒を捕まえ、さらに周りの人の願いを叶えた」

リガノが指差したところを読む。


「嘘!やったあ!別で名前が載っているじゃない!」

ウカは半泣きで喜んだ。


「努力がむくわれたね!」

イナもいなり寿司を頬張りながら涙ぐむ。


「僕達の同盟はまだまだ続きそうだけど、一矢(いっし)むくいた」

「……誰に反撃したのかわからんがな」

気分が上がっているミタマにリガノは冷静に突っ込みをいれた。


「ああ、これもな」

盛り上がっているウカ達を呆れた目で見据えながら、ミノさんが地方新聞をウカに放り投げる。


「……ん?」

ウカは新聞の一ページに目を落とした。


そこには、

『賽銭泥棒が自首。藤井洋介容疑者(70)の知られざる苦悩』

との見出しがあった。


その後の記事に目を通す。


『藤井洋介容疑者(70)は双子の兄、藤井圭介さん(70)に罪を着せ、逃亡していたが、突然に自首をした。この奇妙な事件には裏があったようである。


藤井圭介さんが幼少の時の喧嘩が原因だったのではと藤井洋介容疑者に尋ねた所、藤井洋介容疑者は目に涙を浮かべ「ふざけんなよ。覚えていたのかよ。お前のせいだ」と怒鳴り散らした様子。


その後、藤井圭介さんが涙ながらに謝罪すると、藤井洋介容疑者は拳を握りしめ、下を向き黙ったとのこと。しかしながら、その表情にはどこか安堵のようなものを感じたそうである。続いて、この現象について専門家の……』


「……そっか。『和解』できたんだね」

「できたかどうかはわからねぇが、温かい人間の心を感じたな」

ミノさんは軽く微笑むと、手を振り去っていった。


「ちょっと待って!お花見は?」

「俺はいい。暖かいんで寝る」

ミノさんは背中越しでそう言うとさっさと歩いて行ってしまった。


「行っちゃった。ほんと、ナマケモノみたい」

「ウカちゃん、あいつにはかわいい彼女がいるのさ。その神と花見するんじゃないか?寝るなんて嘘だよ。たぶん」

ウカ達はミノさんが道の角を曲がるまで見届けると、宴会を始めた。


「よーし!ウマイいなり寿司で盛り上がろう!」

「いえー!!」

「お酒飲んじゃう?」

「お前、飲めんだろ」

暖かい春の風が通りすぎ、桜の花びらが舞い上がる。


稲荷達の宴会はいつも以上に長く続いた。


彼らはきっと本気を出せば頑張れるはず……。

ただ、頑張らずにのんびり過ごすのもいいのかもしれない。


彼らは賽銭泥棒の件を一年も続けていた。目の前で助けを求める者達しか救っていない。


大きなことは考えるな。


人間もこれくらい力を抜いても誰もきっと咎めない。


不器用な者は目の前で助けを求める者達を必死で救え。


それが連鎖すれば、世界を救うこともできるかもしれない。

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