表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/60

ひな祭りの戦い2

ちらし寿司をいったん保存器に戻してから、ウカ達はリガノに連れられて問題の場所に向かった。

賽銭泥棒とおじいさんが対峙していたのは賽銭泥棒の家の前だった。なんだかお互い喧嘩腰で怖い。


「おお……中々に修羅場……」

ウカ達は人に見えないため、隠れる必要もなく、困惑しているヤモリに堂々と近づいた。


「ヤモリ、どういう状況?」

「……なんか、たまたま会っちゃったみたい」

ウカの質問にヤモリは小さく答えた。


「だから俺じゃねぇって言ってるだろ!」

弟さんはオブラートの件を否定しているようだ。


「あんな悪質なことやるの、お前しかいねぇだろ!だいたいあいつが犯人だ!」

賽銭泥棒は相当頭にきているのか弟さんに怒鳴り散らしている。


「……やばい。私のやったやつで、まさかここが揉めるとは……」

ウカは頭を抱えて苦笑いをした。


「むしろ、これはチャンスだ」

ふと、ミタマが目を細めて笑う。

「チャンスか?」

リガノが呆れた目を向けるが、ミタマは微笑を浮かべつつヤモリに耳打ちをした。


「ねぇ、ヤモリさん」

「……?」

「あの出来事は神がやったことだと言ってみてよ」

「はあ?そんなこと言ったら私が変人扱いされる!」

ヤモリはミタマの言葉にすっとんきょうな声を上げた。

刹那、おじいさん二人がこちらを向いた。


「……誰と話していたんだ?お嬢さん」

「え……あ、いえ……その」

不気味そうな顔をこちらに向けるおじいさん達にヤモリは動揺し、先程ミタマに言われた事を言うしかなくなった。


「神々がやった事なのではないかと……。そして神がとても怒っていて……」

ヤモリの言葉におじいさん達はさらに眉を寄せた。


ヤモリが誰かから話を聞いているように見えたからだ。実際はヤモリの耳元でウカやミタマが言ってほしいことを耳打ちしていただけであるが、おじいさん達にはそれが見えていない。


「えー、ある神がオブラートを浮かべたのは私だと言っています。伝言です。あなたが賽銭泥棒なのはわかっている。見ていたからね。ずっと見ていたから。杖がいらないのにわざわざ杖を持っていたでしょう?私達は知っているのよ。あなたがあのおじいさんと杖を逆に持っていたことも、全部。……本当に何もしねぇんだなって言ったわよね。腹が立ってオブラート浮かべたのよ」


ヤモリの言葉に顔色を青くしたのは賽銭泥棒のおじいさんだけだった。口にはしていなかったはずの神社での言葉をヤモリが話したからだ。


「お嬢さん……なんでそれを……」


「私は知りません。隣にいる神々が言っています。捕まったおじいさんはあなたの罪を消そうと厄神の神社にまでお金を置いていきました。つまり余計な厄を被ってしまった。それで捕まってしまったんでしょうと。


ただ、おじいさんは私達稲荷神の神社にもあなたの尻拭いをするためにお金を置いていっています。つまり、縁を結び良いことが起こるはず。……しかし……」


ヤモリは表情なく賽銭泥棒を見据え、続ける。賽銭泥棒は顔を青くしながらヤモリの瞳を見ていた。

いままで気がつかなかったが、人間の目ではないような気がした。


「しかし、あなたは悪行しかしていない上に、神達に喧嘩を売りました。それで稲荷神達はたいそう怒っています。あなたが自首しなくても近い未来にあなたには負のなにかが起こります。負の感情を発生させたら、その負の感情は自分に戻ってきます。神を信じていないのなら、それはそれでいいのですが、彼らは見えないだけで存在していますので、喧嘩を売った事実は消えませんよ」


ヤモリの言葉に賽銭泥棒は軽く震えていた。本当は気が小さいのかもしれない。


「……証拠がないだろ」


「証拠……。実は家乃守(いえのもり)神社に監視カメラがありましてね。逆にいつもお参りにくる優しいおじいさんは映っているんですよ。警察の方に杖のつき方や歩き方で気がついてもらえるように提供しようと思うんですよね。賽銭泥棒なんてするのは無理だと証明できますよ」

「……!」

賽銭泥棒の震えが酷くなり、その場に膝をついた。


「ねぇ、ねぇ、マジでカメラあったの?」

「……」

隣にいたウカが小さく声をかけるが、ヤモリは冷や汗を浮かべつつ微笑んでいた。


「にいさん……」

弟さんは「やはりそうか」と頭を抱えていた。


「ああ、俺だよ。別に金に困っていたわけじゃねぇんだ。双子の兄が嫌いだったんだよ。それだけだ」

投げやりな態度で賽銭泥棒は歩き出す。


「にいさん……」

「自首する。神さんに手を出したのが悪かったか。監視カメラもないし、嫌がらせにはちょうどいいと思ったんだがな」


「なんで、こんなこと……」

「昔、ガキの時にやられた事をやり返しただけだ」

賽銭泥棒が捨て台詞のように吐いて去っていってしまったので弟は不思議そうに首を傾げた。


そして、しばらくして二人が仲悪くなった原因を思い出した。


「二人が喧嘩になった時に、双子の兄が親の財布から金を盗んで双子の弟の持ち物に入れたやつだ」

弟さんは呆然とつぶやいた。


「……それはお兄さん、最悪ですね」

ヤモリはとりあえず相づちを打った。


「ああ、あの時は優秀な兄を疑う人はいなかった。疑われたのは、そのまま金を持ち出したと思われた双子の弟の方で。兄は『ざまあみろ』と思っただけで忘れていたが双子の弟の方はずっと根に持っていたのか。親父から暴言を吐かれて竹刀でぶっ叩かれてもあの人は『自分じゃない』と言い張っていた」


「どんな家庭?ちなみにそれを話せるならば、あなたはお金を持ち出したのが、双子の弟さんではなかったと知っていたんですね?」

ヤモリの言葉に弟さんはゆっくり頷いた。


「知っていたよ。見ていたから。親父は怖い人だったから言えなかったんだ。ちなみに昔はけっこう体罰はあったんだよ」


「はあ……、思ったよりもせつないですね。双子のお兄さんに復讐した感じなのでしょうか。あのお兄さん、今はそんなことしなさそうですが」


「しないよ。あの人はもう、子供がいて孫もいんだからさ。いつの間にかほっこりしたじいさんになっていたんだ。変わってないのは弟の方だよ。兄に対抗するためか、一人しか住んでないのに大きな家買ってさ……」


弟さんは肩を落としながらつぶやいた。


「お兄さんが……そのことを覚えていて、あやまっていたら変わっていたかもしれませんね」


「どうだかね……。いつもネチネチしていたから双子の弟は」

弟さんはため息をつきながら歩き出した。


「あ、あの……」


「……お嬢さん、ありがとう。嘘か本当かわからないけど、助かった。神さんにもありがとうって言っておいてくだせぇな」

「ああ……はい」

去り際に弟さんは軽く微笑んだ。どこか安堵した雰囲気であった。


※※


「けっこうあっけなかったわね」

再び、ウカの神社に集合した稲荷達はちらし寿司を頬張りながら先程の反省会をしていた。


「あっけなかったねー!」

ウカの言葉にイナはちらし寿司を食べながら答えた。


「ちょっとイナ!さっき、半分食べたじゃないの!」

「ちょっと動いたらお腹すいちゃって……」

「ウソでしょ……」

吸い込むようになくなるちらし寿司をウカは蒼白で見つめていた。


「嘘じゃないよ。イナはそれくらいおやつだから」

イナの横でお茶をすすっていたヤモリがため息混じりにつぶやいた。


「それよりも、あれでいいのか?」

リガノがちらし寿司を食べながら控えめに尋ねた。


「いいか悪いかはわからないけど、泥棒は捕まったし、ひとまずは安心かな」

ミタマがひなあられの包みを開けながら答える。


「なんか、泥棒さんもかわいそうだったね」

イナがひなあられも摘まみながらせつなそうに言った。


「まあ、なんでも盗みは良くないよ。桜餅もあるけど食べる?」

ミタマの発言にイナは目を輝かせて大きく頷いた。イナは食べ物の事になると悲しい感情が吹き飛ぶようだ。


「単純だわね……」

ウカは小さくつぶやくと部屋の中からでも見える賽銭箱を見つめた。


……お兄さんと仲良くできるかな。これから……。でも、私達は応援するぐらいしかできない。


ぼうっとそんなことを考えていたら、リガノが軽く背中を叩いてきた。


「ウカも桜餅食べるだろ?」

「……え?あ……うん」


きっと大丈夫。

あのお兄さんならきっと気がつく。


ウカはそう思うようにし、大皿に盛られた桜餅を手に取った。


後から

「稲荷はよく食べるね……」

と、呆れているヤモリの声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ