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ひな祭りの戦い1

だいぶん、暖かい日が増えてきた三月。寒桜が咲きほこる中、麦わら帽子にピンクのシャツ、オレンジ色のスカートを履いた少女、ヤモリは賽銭泥棒ではない方のおじいさんと話していた。


知り合いである稲荷神達は賽銭泥棒に遭っており、その泥棒がまさかの双子で、おまけに泥棒ではない方のおじいさんが賽銭泥棒に疑われて警察に連れていかれた。


そのおじいさんを助けるため、ヤモリは双子のおじいさんの弟に接触していた。


「あんた、よく知ってるな……」

弟さんはヤモリの話を聞いて目を見開いた。


「え、ええ……はい。あの神社で巫女のバイトをしていたので」

「巫女さんだったか!通りで詳しいわけだ。しかしまあ……最近な、ちょっと問題が起こっていて……」

弟さんの表情が暗くなり、声音を小さくして話し始めた。


「……問題とは?」


「いやあ、信じらんねぇんだけど……兄の家の風呂釜にな、『自首しろ』って文字が浮いていたんだとよ。オブラートの包みがあけられてて、悪質なイタズラだって兄は怒りまくりで、俺を疑ってんだよ。でもな、俺はやってないんだ。不思議だろ?」


弟さんの発言にヤモリの眉が動いた。なんとなくだが、それをおこなった者に目星がついていた。


「……それは不思議ですね。あなたはやっていないわけですよね?」


「やってねぇんだ。兄が嘘をついている可能性もあるが……、賽銭泥棒だったのは双子の兄のうちのひとりでもう捕まってる……。犯人が捕まっているのに『自首しろ』とはなんなのか。だがまあ、捕まった方の兄はそんなことする人じゃないんだけどな。巫女ちゃん」


弟さんが肩を落として歩き出したので、ヤモリも後を追った。


……オブラートを浮かべたのはウカ達でしょ……。何やってんの。逆効果じゃない……。


ヤモリは深い深いため息をつき、散る寒桜を疲れた顔で見つめた。


※※


「あかりをつけましょ、ぼんぼりにー」

稲荷神のウカは気分よく歌いながらお雛様の前にひなあられや菱餅を置く。

ここはウカの神社内の霊的空間だ。


「ウカちゃん、ちらし寿司は?」

台所から顔を出した、青年稲荷ミタマは眉を寄せてウカに尋ねてきた。


「え?知らないわよ。なに?」

「ちらしを作った寿司桶丸々ないんだよ」

「知らないわ。食べてないわよ」

ウカは困惑した顔でミタマの方へ向かう。台所に行く途中、障子扉から小さい影が去っていくのを見てしまった。


「……ああ」

ウカはあきれた顔をし、方向転換して外に続く扉を開いた。


「ひっ!」

「イナぁ……。ちらし寿司は皆で食べるのよぉ……」

ウカは凄んだ顔で小さい影を睨んだ。小さい影とは幼女の稲荷神で名前はイナという。


イナは寿司桶に入ったちらし寿司を半分ほど食べてしまっていた。


ちなみにこの少女イナは大食いである。


「えーん!だっていつもくれる量じゃ全然足らないんだもーん!」

「全然足らないってお茶碗五杯でも足らないわけ?太るわよ」

「太ってないし」

イナが口を尖らせて抗議をするが、ウカは寿司桶を奪い取り、再び神社内へ入っていった。


「あーあ……半分くらいになっちゃってる……」

肩を落としながらウカは台所へ戻った。


「うおっ!なんで半分ないの?」

ミタマは何かに吸いとられたかのように、半分だけきれいにないちらし寿司を見て顔を青くした。


「イナ。イナが食べた」

「えー……イナちゃんが!?って驚くほどでもないや。イナちゃん、異様に食べるからね」

ミタマはため息混じりに頷くとウカから寿司桶を受け取った。


「ねぇ、リガノは?」

「ああ、リガノは賽銭泥棒の動きを見に行った。

そろそろ昼飯だから帰ってくるんじゃないか?」

ミタマはお皿にちらし寿司を盛りながら言う。


「ずっと動きがなかったわよね。オブラートじゃダメだったのかな」

「まあ、あれは唐突だったよねー。はい、運んで」

ミタマはウカにお皿を渡した。


ウカがお皿をちゃぶ台に並べていた刹那、青年稲荷のリガノが慌てて帰ってきた。


「おい!大変だ!賽銭泥棒のじぃさんと弟のじぃさんが!」

「ん!?」

ウカ達は同時に驚きの声を上げた。

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