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節分の鬼1

「鬼は外!福は内!!おじいさん帰ってこーい!あいつ捕まれー!」

山の中にある神社の一角でこの神社の祭神ウカは大豆を撒いていた。


本日は二月三日。日本は節分である。厄除けのために扉という扉から豆を撒く行事。ちなみに現在、暖冬らしく、雪がまるでない。


「ちょっとウカちゃん……そんな敵意丸出しで豆を投げないで!」

ウカの神社内の台所から顔を出した青年稲荷、ミタマは恵方巻が乗った皿を机に並べながらウカに注意をした。


「へーい……って、恵方巻だわ!!おいしそう」

「今は日本全国どこでも売ってるよね。これはイナちゃんからもらったんだよ」

ミタマは微笑みながら長い恵方巻を一人分ずつ皿に置いた。それから台所で他のおかずを準備していたもう一柱の青年稲荷、リガノが顔だけ覗かせてきた。


「ほぅ……かんぴょうに卵、きゅうり……バランスが良さそうな太巻きだな」

「桜でんぶがないじゃない!」

豆を乱暴に投げ捨てたウカは恵方巻を見つめて叫んだ。


「いやあ……あの、イナちゃんと同居している龍神さんが桜でんぶ嫌いみたいでさ……。恵方巻はイナちゃんからの差し入れっていうより……地味……あ、いや龍神さんの差し入れっていうか」

ミタマの言葉にウカは機嫌悪そうに唸った。


「地味子でしょ。えーと、本当の名前はなんだったかしら」

ウカが歯に何かが挟まったような何とも言えない顔をしつつ考えていると、(やしろ)の扉が勢いよく開いた。


「私はヤモリ!!さっきから聞いてるけど失礼だよ!!」

「うわっ!」

鋭い声と共に地味めな少女が腰に手を当てて中に入ってきていた。


「あー……えーと」

「皆、ヤモリ連れてきたよ!」

慌てた一同に嬉々とした表情で少女稲荷のイナがそう言った。イナのおかげで混乱せずに話が次に進みそうだ。


「い、いらっしゃい……」

ウカが代表で龍神ヤモリを迎え入れ、空いている座布団へ座らせた。ヤモリは麦わら帽子に淡いピンクのシャツ、オレンジ色のスカートを履いていた。


……やっぱり少し地味めな……。


「地味じゃない!私はヤモリ!そこそこ信仰だってあるんだから!地味じゃない!」

「いや、言ってないわ」


……ちょっと思ったけど。


「それより、おじいさんの件で話があるの?イナから聞いたよ」

「ああ、そうそう!」

ヤモリの言葉にウカはこないだの事を思い出した。


「とりあえず恵方巻食べよー!」

ウカが話し始めようとした矢先、イナが恵方巻に話を持っていってしまった。


「イナちゃん、恵方巻は無言で食べなきゃダメなんだよ。だから、会話しながら恵方巻は無理なんだよ」

ミタマがイナをなだめ、ウカに先を続けるよう促した。


「全く……。ああ、それで……」

ウカは呆れつつヤモリの前にお茶の入ったゆのみを置いた。


「うん」

「捕まったおじいさんを助けようと思うんだけど、もうひとりのおじいさんに接触してほしいのよ。家はわかってるの」

「……えー……」

ヤモリはウカの言葉にあからさまに嫌な顔をした。


「じゃあ、悪い方のおじいさんじゃない方に接触する?たしか……弟さん」

「弟……」

「そうそう、こないだイナの予知能力でミタマ君の神社に弟さんが現れてね、家を突き止めておいたのよ。賽銭泥棒の近くに住んでいたわ。家族と一緒に」

ウカは恵方巻の付け合わせのおかずである豆腐ハンバーグを摘まみながら、ヤモリに語った。


「はあ……稲荷神ってやる気があるんだねぇ……。私はそのうち、おじいさん解放されると思うんだけど」

ヤモリはお茶を飲みながらため息をついた。ほっこりするような昼過ぎである。


「……私達は困った人を助けるのよ!それが神でも人でも動物でも当たり前よ」

ウカの発言に後ろにいたミタマとリガノは苦笑いをしていた。


「信仰がほしいだけだよね」


「うるさい!そこ、黙る!」

ウカが睨み付けてきたのでミタマとリガノは目線を外して黙った。


「まあ、とにかく……協力するよ。私はその弟さんに接触してみようかな」

ヤモリはウカの眼力に怯えつつ協力を約束した。


「ねぇ、私達はどうすればいいかしら?」

「ウカ達は賽銭泥棒に罰を与えてればいいんじゃない?軽い怪現象起こして賽銭泥棒に恐怖を与える。元々、土地神になっている地方の稲荷は恐怖の対象になっていたりするんだから、自首するように仕向けるのもアリかなとか」


「やっぱりそうなるか」

ウカが腕を組みながら頷いていると、痺れを切らしたイナが「恵方巻は!?」と騒ぎ始めた。


「恵方巻ー!!早く食べようよ!!おなかすいた!!」

「イナ!いいとこだったのに!」

「まあまあ、もう大方決まったんだから食べようか」

怒るウカをなだめ、ミタマは今度こそ恵方巻を差し出した。

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