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正月早々2

「来たよ。ウカちゃん」

「あ、ああ……はい」

ウカはミタマに促され、慌てて回線を繋いだ。

年配の女性の声だった。


……旦那が捕まってしまいました。ここにも盗みに来たかもしれない。でも、あの人はそんなことしない!神様……助けてください……。

子供達にも影響が……。


女性は涙声で神様との通信を切ると一礼をして去っていった。


「……」

女性の声を聞いたウカは悲しそうにうつむいた。

「ウカちゃん、なんだって?」

イナが眉を寄せながら尋ねてきた。

「旦那さんの冤罪を解いてくれって……解決できれば私達、初めて願いを叶えられるんだけどね……」

「……うーん」

ウカの返答にイナは唸った。どうすればいいのかわからない。


「どうする?賽銭泥棒を捕まえるには……」

ミタマはこめかみを指で叩きながら考える。

「……誘導する」

ふとウカがつぶやいた。


「誘導?」

「そう。監視カメラがある、イナと同居しているあの龍神の神社に誘導するのよ」

「ふむ。そりゃあいいな!……どうやって?」

ミタマはウカの言葉をまるで予想できなかった。

「賽銭泥棒のおじいさんの家を突き止める。それからイナと同居してる龍神に協力を仰ぐ」

ウカは人差し指を上げて力強く答えた。


「あー、地味子は人間に見える神だった!」

イナは同居している龍神を地味子と呼んでいた。名前なのだろうか?地味な感じなのだろうか?


「地味子のあだ名、酷いだろ……。ヤモリと呼んであげてくれ。家守龍神(いえのもりりゅうのかみ)だろう?民家を守る神で人間に溶け込んでいる神だから人間の目に映るらしいな。お前より神格高いだろう?変なあだ名で呼んではいけない」

リガノがイナをたしなめるように言った。地味子はあだ名だったようだ。


「そうそう、ヤモリは人間に見えるけど神だと名乗ってない。人間は、神がそこらを歩いてるとはどうしても思えない生き物だから自分が神であることを言ってないんだよね」

イナは静かに頷いていた。

「うん、その龍神に人間として動いてもらうのよ」

「つまり、人間として龍神さんがおじいさんに近づき、盗むように言うってこと?そんで監視カメラに映らせる?無理じゃね?いい作戦な気もするけどさ」

ミタマがため息をついた。


「それは無理かもだけれど、警察に行くように説得するくらいはできるんじゃない?」

「……その前に、おじいさんはまた賽銭泥棒をすると思うか?」

リガノがミタマとウカの会話に入り込んできた。

「……しないかもね……。無罪のおじいさん、捕まったし」

「ちょっと!ウカちゃん!おじいさんまた来たよ!杖なしの……」

「えぇ!?」

イナの声にウカ達は驚いた。


「待って……よく見ると右手に杖を持っていたおじいさんだわよ!賽銭泥棒の!!」

しかし、杖をついていたはずのおじいさんは杖を持っていなかった。


「足、悪くないのか?」

リガノも眉を寄せながらおじいさんを睨む。おじいさんはお金を入れずに乱暴に鈴緒(すずお)を掴むと本坪鈴ほんつぼすず)を強引に鳴らした。(鈴緒とは賽銭箱の上にある鈴を鳴らすための紐、本坪鈴は紐の先にあるガラガラ鳴る鈴)

ウカは頭を抱えながら仕方なくテレパシー回線を繋いだ。


……よう、神様!ほんとに何もしねぇんだな!善良なやつが捕まったぜ。


「ぷっ……くくく」

おじいさんは愉快に笑うと手を振って去っていった。盗みは働かなかった。


「うう……」

ウカは怒りで拳を握りしめる。


「ちょっと!ウカちゃん!何してんの!追いかけるよ!」

イナに言われて我に返ったウカは悔し涙を拭うとおじいさんを追いかけ始めた。

おじいさんを追いかけながらミタマとリガノがウカを慰めてくれた。


「大丈夫!僕達であいつを捕まえよう!」

「そうだぞ!ウカ、皆で力を合わせる時だ!」

「うん……」

しばらく歩くとひときわ大きな家についた。おじいさんは足早にその家に入っていった。


「すっごい家……。お金持ち?あんなに早く歩けるんだし、本当に杖がいらなかったんだね……」

イナが広い庭付きの玄関をこそこそ眺めながらつぶやいた。


「ただの遊びで神社のものを盗んだのかな。酷いよね」

「……兄弟家族皆でここに住んでるのかな……」

ミタマは塀をよじ登り庭に入って行った。

「ちょっ!ミタマ君!」

ウカはミタマを青い顔で見つめたがミタマは当たり前のように玄関先を物色し始めた。鍵はかかっていなかったようで、ミタマは勝手に玄関を開けて中に入った。


「ちょっと!ミタマ君!」

「ウカ、落ち着け。ミタマはすぐに出てくる」

リガノの言うとおり、ミタマはすぐに玄関扉から顔を出した。そのまま庭を歩き、塀を登ってウカ達の元へと帰って来た。


「……なにしに行ったのよ?」

「靴を見ていたんだよ。普段使いしている靴は一足。あのおじいさんはこの家に一人で暮らしている」

ウカの質問にミタマは腰に手を当てて胸を張った。


「こんな大きな家にひとりかあ……」

イナは二階建てで広い庭付きの豪邸をぼんやり眺めていた。


「まあ、おじいさんの家は突き止めた。これからどうするか考えよう」

「そうだね。私、近々誰かの神社に三人目の弟おじいさんが来る気がするんだけど」

ミタマに相づちを打ちつつ、イナが眉を寄せてそう言った。


「……近々か……。そのおじいさんの家も調べておく?」

「調べておこう」

ミタマとリガノが頷き、とりあえずウカの神社へと帰り始めた。


「ウカちゃん!帰ろ!」

イナがウカに声をかけてから、心配そうにミタマ達を追う。

ウカはイナの遠ざかる背を見てからもう一度、豪邸を見上げた。


「……私は許さない。絶対に……許さない。覚悟してなさい」

ウカは神力(しんりょく)をわずかに解放させ、豪邸を睨み付けてから着物をひるがえしてイナ達を追っていった。


ウカが去った後、豪邸の屋根に使われていた瓦が二、三枚勢いよく地面に落ち、音を立てて割れた。

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