正月早々1
寒さは本格的になり、雪がぱらつく日が出てきた。稲荷神達は皆で年越し蕎麦を食べ、無事に正月を迎えていた。元旦の今日は快晴で現在の時刻は朝八時。
「そういえばさ、正月ってなんか良い感じに毎回晴れない?」
こたつに入りながらうまそうに雑煮を食べつつ、ウカは皆に話しかけた。
「あー、確かに。てかウカちゃん、餅食べてゴロゴロしてると太るよ」
青年稲荷ミタマがおせちを取り分けてウカの所に置いた。
「ミタマくん、正月だけのお楽しみのお雑煮、奪わないでね。今は楽しみたいんだから現実的なこと、言わないでよ」
「今は楽しんでいいけど、後で散歩とかしなよ。たぶん、僕らのとこは参拝客来ないから暇でしょ」
ミタマは餅を口に含み、幸せそうな顔をした。
「……参拝客、来るかもしれないじゃない。ねぇ?リガノくん」
ウカは隣でおせちをつついている青年稲荷リガノにわかりやすく絡んだ。
「……まあ、一番忙しそうなのはイナだな。イナというか、イナと同居している龍神が忙しいのか。同じ敷地内だとイナのとこにもついでに参拝客が来そうだな」
リガノは今ここにはいないイナに向かい、羨ましそうに呟いた。
「まあ、イナのとこは地味に人がいるからね……。なのに、ランキングが下とかイナ、サボってたんじゃないの?」
「……皆、サボっていたから下なんでしょ。イナちゃんを羨むなよ」
ウカをビシッとミタマが叱る。
「……わかってるわよ。怒らないでよ」
ウカが苦笑いを浮かべた辺りで、ちゃりんと小銭が落ちる音がした。
「はっ!」
ウカは慌てて集中を始める。
誰かがお賽銭を入れたようだ。テレパシー回線を繋ぎ、お願いを聞く。
ミタマとリガノにも緊張が走っていた。ここ一年のおじいさんの件が頭をかすめたからだ。
しばらくしてウカの緊張が緩み、誰かが去っていく音がした。
「なんだった?」
ミタマが細い目をわずかに開いてウカに先を促す。
「……おじいさんだったわね。兄が盗んだかもしれないからと……。兄を見つけてくれって」
「……兄?」
ミタマが首を傾げているとリガノが外を見ながら叫んでいた。
「杖なしだ!風渦のとこにいたじいさんだ!」
「ということは……双子の他に弟がいる!?」
「おかしくはない。三人兄弟なんだ」
ミタマが呟いた刹那、社内の扉が勢いよく開いた。
「ひっ!?」
三人とも息を飲んだが目の前に立っていたのは少女稲荷イナだった。
「大変だよ!!」
イナはなぜか興奮していた。
「な、なんだ……イナか。そんなに勢いよく開けなくても……扉、立て付け悪くないわよ……」
「違う!おじいさんが警察に!!」
イナは必死な面持ちで言い放った。
「警察!?なんで?賽銭泥棒捕まったの?」
「違う!願いに来た方のおじいさんが捕まった!!」
ウカに掴みかかる勢いでイナは叫ぶ。
「願いに来た方の……って」
「平和になりますようにって願いに来た方だよ!」
イナに言われてウカ達は納得した。
「大変!」
しかし、納得した後に一同は混乱し始めた。
「どうする!?」
ウカが慌てて声を上げた時、リガノが顔を曇らせていた。
「リガノ!?どうしたの!」
「あー、いや……うちに泥棒が来たようだ……」
「え……」
一同は絶句した。リガノの神社に賽銭泥棒が来たらしい。
「ねぇ、どうする?」
「リガノのとこには監視カメラあるか!?」
戸惑うウカを落ち着かせながらミタマはリガノに問う。
「……ない。カメラはついていない」
「……じゃあ、証拠にならないな。平和を願いに来たおじいさんが捕まっている時、リガノの神社で賽銭泥棒がきた。監視カメラがあるならすぐに無実のおじいさんは解放されるはずだったけど……」
「だいたい賽銭がない」
リガノの一言でウカ達は同時にずっこけた。緊迫した状態が無駄に終わった。
「ないんかい!じゃあもう泥棒じゃないよ!盗んでないし!」
「だが、盗みますよとテレパシー電話をしてきた」
リガノは眉間を指で揉みながら小さく呟いた。
「確か、そのおじいさん……わざわざ私達に盗むって言っていくんだよね?なめてるわ」
「試されてるのかもね」
ミタマはウカに振り向くと薄く目を開いた。
「……試されている……。神なんていないだろと思われているということ?」
ミタマはウカの言葉に無言で頷いた。
「これはいいチャンスかもしれない」
ミタマが苦笑いをすると賽銭箱からお金が落ちる音がした。




