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おじいさんの謎2

「……今夜、風渦んとこ行ってみるか?」

リガノが声をさらに小さくしてミタマとイナに尋ねた。


「やっぱ行ってみた方がいいよねー……」

「……イナちゃんはおうちに帰りな。危ないから」

ミタマはそう言うがイナは首を振った。


「行くよ!おじいさんの状態を見ないとね……」

「あいつは危険だからお前はここにいろ」

リガノもイナに強く言い放つ。

「えー……ミノさん連れてくからいいでしょー!」

「あいつなんかもっと不安だ……」

リガノは頭を抱えつつ、ちゃぶ台をしまった。


「……なーに?皆であの怖い神のとこに行く話してる?」

いつの間にかウカが戻ってきていた。

「……ああ、そうそう。ウカちゃん、イナがさ、今日の夜におじいさんが風渦のとこに行くみたいな予言をしたんだよ」

ミタマが仕方なく代表で答えた。

「……行かなきゃダメそうだわね……」

ウカは顔を曇らせた。


「皆で行けば怖くないって!」

イナは腰に手を当てて鼻息を吐いた。おじいさんが来る以上、行かなければならなくなりミタマもリガノも顔を歪めながら頷いた。


と、いうことでウカ達は夜な夜な社外に出た。冷たい空気が肺に入り込む。今夜は雪が降るかもしれない。月がきれいな夜なため、かなりまわりは明るい。


「さっぶ……」

ウカはくしゃみをするとぶるるっと震えた。

「行こうか……夜の散歩だと思えば楽しいさ……」

全く楽しそうでないミタマに連れられてウカ達は歩き出す。以前、ウカが赤トンボを追って入り込んだ森付近まで来るとウカは震えながらミタマにしがみついた。


「ウカちゃん、大丈夫。僕らがいるよ」

「さっ……寒い……」

「……寒いだけ!?」

ウカに突っ込みを入れたイナはブツブツと続ける。

「普段から外に出ないから寒さがわからないんだよー」

「まあまあ、俺の羽織を貸そう」

リガノがイナをなだめつつ、羽織をウカに被せた。

「リガノくん、寒くないの?」

ウカが逆に心配したが酷く寒がっているのは自分だけだった。

「皆、強いのねー……」

「僕のも着てよ」

ミタマもウカに自分の羽織を被せる。


「あ、ありがとう……皆」

なんだか情けなく思いつつ、ウカは好意に甘えておいた。

林の中に入り、しばらく進むと開けた場所に出た。奥に不気味な鳥居が見える。この辺りだけ風が強く、神社を一層冷たくしていた。

警戒を強め辺りをうかがっているとおじいさんの姿を発見した。


「……いた」

リガノが短く言葉を発し、一同はおじいさんの動向を見守る。

おじいさんは辺りを見回しながら賽銭箱を探していた。

それよりもウカ達には驚いた事があった。


「え……?」

「待て……あれは……杖をついていない!?」

おじいさんは何故か杖をついていなかった。

「まさか……賽銭泥……」

そこまで呟いた時、賽銭泥棒は杖をついていた事を思い出した。


……違う!


「あれは誰!?」

「三人目の……おじいさん?」

まさかの三人目のおじいさん登場か?


「え……やだやだ……怖い怖い!」

いままでを整理してみる。

ウカ達が出会った最初のおじいさんとミノさんの所で出会ったおじいさんは杖の持ち方が逆だった。

で、今回のおじいさんは杖すら持っていない。


「よく見て!顔!」

イナが叫ぶのでウカも観察してみる。なんだか微妙に出会ったおじいさんと違う。

おじいさんは風渦神の社で手を合わせると社付近に何か置いて去っていった。


「……なんか置いたわ……」

「見に行っ……ぎゃ!!」

イナが最後まで言い終わる前に何かに弾き飛ばされた。

「いっ……イナ!」

ウカは地面に倒れたイナを慌てて抱き起こした。

「……?」

驚きつつ、前を向くと月明かりに照らされた風渦神が、恐ろしい形相で立っていた。


「俺の社にまた入ってきたか!しかも近くまで来んじゃねーよ!」

「……でたな……!今度はイナを突き飛ばしたな!」

「……許さん」

再び喧嘩モードに入ってしまったミタマとリガノをなだめてウカは尋ねる。


「き、気になることだけ答えて……。そうしたら出ていくから……。あのおじいさん、なんて言っていた?」

「ああ??よくわかんねーよ!!金だけ置いていきやがって!……ここには賽銭箱はないようだが盗んだかもしれないから……とか言っていたが正直迷惑だ!!わかったら消え失せろ!クソ稲荷どもめ!!」

風渦神は激昂しつつ、ウカに叫んだ。


「ひぃ……そんな言わなくても……」

「ウカちゃん、行こう。目的は達成したからね」

ミタマが細い目をわずかに開き風渦神を睨み付けると、ウカとイナを守りながら背を向けた。リガノは三人のしんがりで、臨戦態勢を崩さないままゆっくり風渦神から遠ざかる。


「もうくんじゃねーぞ!!」

ウカ達はわめき散らす風渦神の声を受け流し、もと来た林を抜けて一般道へ戻ってきた。

「はあ……はあ……」

「イナちゃん大丈夫?」

ミタマが、先程倒されたイナに心配の声を上げた。


「大丈夫、大丈夫……。びっくりしただけ」

「しかし、あいつはナイフのようなやつだな……。鞘のない刀と言うか……」

リガノがため息をつきつつ、続ける。

「だが、興味深いことが聞けたな」

「そうだねぇ。盗んだかもしれないって……賽銭泥棒じゃないよね?あの人」

イナが首を傾げた。


「賽銭泥棒じゃないよ。お金置いてってる」

ミタマが唸りながら歩き出したので一同も追う。

「わかった事はおじいさんが三人いること、それから……『あのおじいさんは賽銭泥棒を知ってる』ってこと。ミノさんとこに来ていたおじいさんは賽銭泥棒について推測でしか知らないみたいだった」

ウカの言葉に全員がため息をついた。


……結局、ほとんどわからず、謎が増えただけ……。


「ま、まあいいや!帰って寝よ!」

「そうしよ!!」

イナの言葉に一同は深く頷いた。空には満天の星空、澄んだ空気がとても気持ちが良かった。

状況は気持ちが悪かったが。

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