おじいさんの謎1
十二月に入った。まだ雪は降っていないが葉は全部落ち、冷たい風が落ち葉を巻き上げている。現在の時刻は夜の八時過ぎ。
天気が良かったので空には満天の星が輝いていた。
「……やっぱり寒い冬は鍋だねぇ!」
参拝客もいない寒い神社の社内では稲荷神達がお鍋を囲んでいた。
「このキノコうまっ!!」
ナイトキャップに袴という恐ろしいほどアンバランスな格好をしている青年稲荷、ミタマはお鍋内でぐつぐつ煮えている椎茸を摘まんだ。
「この出汁、何?」
ピエロ帽子に着物という、ある意味映える少女稲荷ウカもうまそうに頬を緩ませながら、キャスケットに袴の青年稲荷リガノに尋ねる。
「ああ、これは……昆布と鰹……鳥だな」
リガノは台所から顔を出し、そう言うと自身もお椀と箸を持って席についた。ここはウカの社内。部屋はこの部屋しかなく畳とちゃぶ台のみだ。
「おかわりー!」
ウカの横で白米をかっこんでいた幼女稲荷イナはお茶碗をリガノに思い切り差し出す。
「もう飯は空だ……」
リガノはため息混じりにつぶやき、代わりにうどんを鍋に入れた。
「へー、うどん入れるのアリだわ」
ウカは白菜を咀嚼しながらほくほく笑う。
「薬味いれなくてもじゅうぶんうまいなあ……。寒い夜は鍋だなあ。はあー、食べた食べた。僕はごちそうさま」
ミタマはお腹をさすりながら手を合わせお椀やお茶碗を片付けに行った。ウカの神社に泊まり込んでから四ヶ月近く経過している。もう昔から住んでいるみたいな雰囲気である。
「はあ……しかし、今年ももう終わるぞ?じいさんの件どうするんだ?」
リガノが鱈を箸でつつきながらウカに尋ねた。
「……うーん……だって神社に来てないんだもの。どうもできないじゃない。おじいさん、足が悪かったから……これから雪降るんだし、来るのは無理でしょ……」
「無理だねー……。やっぱ風渦神のとこにもう一回行く?情報収集のため」
イナがうどんを勢いよく吸い込みながらおずおずと尋ねた。
「……んー……」
ウカは乗り気な顔をしてなかった。以前、怖い思いをしたからだ。
「……ウカちゃん、僕らで行ってみようか?もう喧嘩、しないからさ」
「ああ、俺達で行こう……」
「やだよ……。絶対喧嘩してくるから」
ミタマとリガノの言葉をウカはすぐさま否定した。
「でもさ、あの神に詳しく話を聞いてなかったよね……。私も行きたくないけど」
イナは最後のうどんを腹に入れ、お腹をさすりながらウカを見た。
「あいつは暴力的だ。僕は嫌いだ。だけど手がかりがない以上、接触するしか……」
「……とりあえず鍋、なくなったね。片付けよ?」
ミタマが唸っている横でウカは自ら鍋を台所へ持っていった。
「リガノー、鍋置いとくー」
「……洗ってはくれんのか……」
リガノは呆れた顔でウカを仰いだ。
「……わかった。洗うわよ」
苦笑いしたウカは鍋を洗い始めた。
「ねー、ねー、ウカちゃん、やっぱショック受けてたみたいだね?」
イナが小声でミタマとリガノにささやいた。
「そりゃあな……」
珍しくミタマとリガノの声がかぶった。
「やっぱ怖かったんじゃね?めっちゃかわいそう」
「ああ……かわいそうだったな」
「あ、あのさぁ、それはいいんだけど……縁結びの私の能力がなんか発動してて……」
二人を見据えながらイナが言いにくそうにつぶやいた。ちなみにイナは縁結びの力が特に強い。
「ん?」
「いままで縁結びが発動しなかったんだけど、なんかのアンテナが今夜、あの厄神のとこにおじいさん来るよって伝えてるの……」
「なんだって!?」
ミタマとリガノは同時に声をあげた。
「ちょっと何話してるのー?後で教えてよねー!」
ミタマとリガノの声を聞いたウカが台所から声を張り上げていた。
「イナちゃん……まさか……」
「なーに?」
「こないだミノさんとこの神社で願いに来たおじいさんとの縁を知らぬ間に結んじゃった?あのおじいさんの願いを聞いたの、あれが初めてだったじゃん?」
ミタマの言葉にイナは深く頷いた。
「たしかに!」
「イナちゃん、これは使えるよ!これから予測ができるかも!」
「……予測かあ……」
イナはぼんやりそうつぶやいた。




