秋はのんびり2
ウカがしばらく落ち込んでいるとスマホのバイブが鳴った。
「ん?……ミノさんからだわ」
ウカがかかってきた電話を取る。
ちなみに神々もスマホを使っているがミノさんはなぜかガラケーであった。神がスマホを持つと現実にあるものとは少し変わるため壊れない。姿形はそのまんまだが中身は物体がないデータになっているからだ。追加で言うと神々はスマホを使わなくてもテレパシーで会話ができるが疲れるためスマホなどを頼ったりする。
「ミノさん、どうしたの?」
「……ああ、ウカ!あのじーさんが来てる!今すぐ来れるか?」
ミノさんは緊迫した雰囲気で話していた。
「なんだって!行く行く!それまで持ちこたえなさい!」
「ちょ……どういう内容!?」
ミタマは「持ちこたえる」という言葉で顔を青くした。ウカは電話を切ると慌てて言った。
「おじいさんが来たみたい。高速でミノさんの神社に行きたいわ!」
「あ、ああ……そういう内容……」
「じゃあ、キツネ使う?」
イナの言葉に一同は深く頷いた。
「そうだ。キツネを使おう!……てかな、あの真夏の時になぜ使わなかった……」
「あの時は気配でミノさんにバレちゃいそうだったでしょ?今回は人間だし、姿は見えないもん」
頭を抱えたリガノにウカは自信満々に言うとキツネを呼んだ。
キツネはすぐに来た。霊的キツネは人間には見えない。そして稲荷神四柱でも乗ることができるくらいに大きい。
「わあー!ネ○バスみたーい!」
すでにキツネに乗り込んだイナはモコモコの背中と上下する背骨に大興奮だ。実際に彼らは緊急の用事がないため、この霊的なキツネは全く呼ばれない。故に呼んだことがない稲荷神も多く、こんな初々しい感想になってしまう。
「うわっ!不安定だなぁ……こっわ!!」
ミタマはぷるぷる震えながら毛をぎゅっと掴んでいた。
「振り落とされないか?俺は高いところが苦手で……」
リガノは青い顔で今にも落ちそうなくらいフラフラしている。
「なっさけない!キツネちゃん!ミノさんの神社まで『光速』で!」
「ちょっ……ウカちゃん!『高速』な!!光の速さは……ってどわー!!!」
命令を受けたキツネが光の速さで走り始めた。ミタマは叫びながら毛にしがみつく。リガノは毛を握りしめたまま気絶。イナだけがすごく楽しそうだ。
「いっ……これは速すぎ……」
ウカも目に涙を浮かべ必死に食らいついている。キツネはさらにスピードを上げ、周りの風景がなんだかわからなくなり風は顔に当たり痛くて手を離したら間違いなく百メートルは飛ばされるだろうというくらいになり、手がキツネの毛から離れてしまいそうになるところまで行った辺りでキツネは唐突に止まった。止まった衝撃でウカ達は前に投げ出されて尻から落ちた。
「……ぐぅ」
呻くウカ達を見据え、キツネは頭をひとつ下げると颯爽と去っていった。
「生きてる!」
「生きてるー!」
ウカとミタマが叫ぶ。
「あいつ……絶対にわざとだろ……」
リガノが口元を押さえながら苦しそうにつぶやき、イナが楽しそうな声を上げる。
「あー、おもしろかった!!帰りも乗ってく?」
「い・や・だ!!」
イナの嬉々とした表情に残りの三名は必死に抗議した。
「だいたい、ウカちゃんが光速とかいうから!!光の速さなんてバカでしょ!!」
「あんなに速いとは思わなかったんだもん!」
「まあ……三十秒辺りで着いたんだからいいじゃないか……。もう二度と嫌だが」
ミタマとウカの言い合いをリガノが止めた。
「ねー!とりあえず、行こ!」
イナにもそう言われ、ウカとミタマはため息をつきつつ頷いた。
石段を上るとすぐにおじいさんがいた。辺りをキョロキョロと見回している。ウカ達の姿は見えていないので後ろに立っても気がつかれない。
「おい!こっち来い!皆で賽銭泥棒を見届けるんだ!てか、来んの早ぇえな!!」
社付近でミノさんが叫んでいた。
ウカ達はおじいさんを観察しつつ、とりあえずミノさんの方へ歩いた。おじいさんは杖をついており、やはり足が悪そうだ。
「……なんか……違和感……」
ウカはおじいさんを観察しながらなんだか変な感じを抱いていた。
……そう。
なんというか杖が逆……というか。
「あ……」
ウカはミノさんのところにたどり着いてから叫んだ。
「杖持ってる手が逆だわ!!」
ウカが突然に声を上げたのでミタマ達が飛び上がった。
「ちょっ……びっくりしたぁ……」
ミタマ達の他にミノさんも驚いていた。
「な、なんだ?」
「杖が逆なのよ!うちに一度来た時と今が!!」
最初にウカが会ったおじいさんは杖を右手に持っていた。だが、今は左手だ。
「……やっぱり双子かもね」
イナが呟き、一同はおじいさんを見つめる。一様に思うことは一つ。
……どっちだ……??
「賽銭泥棒か普通のおじいさんか……」
ごくりとリガノが唾を飲み込む音がする。おじいさんは杖をつきながらゆっくりこちらに近づいて来た。心なしか動きがゆっくりだ。
おじいさんは賽銭箱の前に来ると小銭を投げ入れて二礼二拍手した。そしてまた一礼してきびすを返し去っていった。
「あ……あれ?泥棒じゃないの?」
「ミノさん、さっきの人何言ってた?」
ウカがズルッとずっこけてイナがミノさんに尋ねた。ミノさんはなぜか冷や汗をかいていた。
「ミノ……さん?」
「……平和に生活できますように……と『弟は悪事を働いていますか?』だ。……おじいさんには厄を感じた……」
「……弟……。つまり賽銭泥棒は双子の弟。厄を感じたっていうのは風渦神も言っていたわね。弟が心配すぎて厄がたまったんだ……。かわいそう」
ミノさんの返答にウカは眉を寄せた。
「まあ、さっきのは賽銭泥棒じゃない方のじいさんだっただけだな。それからあのじいさんは弟の悪事を完璧には把握してないこともわかったな」
リガノがため息をつく。
「まあ、無駄足にはならなかったね。間違いなく双子ってわかったしさ。で?次はどうする?」
ミタマがウカに目を向けた。
「うーん……また来るのを待つ感じで、なんか疲れたからミノさんちで緑茶と紅葉まんじゅう食べるわ」
「さんせー!!やったー!おやつぅ!!」
ウカの言葉にイナが反応し飛び跳ねた。
「おーい!!後半ちゃっかりしてんぞ……」
「お腹すいちゃったのよ。早く来いって言うからー」
とぼけた顔しつつウカはミノさんにおやつをねだり始めた。ミノさんはため息をつくと「紅葉まんじゅうはねぇが、団子はあるぞ」と言ってきたのでいただくことにした。
ミタマとリガノもちゃっかりミノさんの社に上がり、くつろいでいる。
「……おたくら……ここまで来たのにまだ休憩を挟むのかよ……。まあ、俺もひとんこと言えねーが」
ミノさんはため息をつきながら社の霊的空間内にある台所に入るとやかんを火にかけた。




